第15話 大規模作戦

 ごちゃごちゃ、ざわざわとひびくホール。

 時間は午前九時半、すでに第一じんのパイロットはReXにむ。


「各自、作戦は覚えているな!」


 シズハラ大隊長は回線を開き、全てのReXに通信をしながら、ホールの一番目立つところで演説を始める。


「敵の数は五百体、それにえ、我々われわれは百機ほどの戦力で立ち向かわなければならない。それでも、負けるわけには行かない!

 これまで、これよりも大きい困難を乗り切ってきた! つらい犠牲ぎせいを出しながらも、それでも前へ進んできた。だからこそ、これからも我々は、生きねばならない!

 生きて、そして明日につなげる。そのために、みんな命をして我々の存在をやつらにめ!」

 

 オオオオオオォォォォ!

 

 会場をらす、地鳴りのようなさけごえが響く。

 大隊長の演説で会場の空気があったまると、一番隊のエース機へと乗り込んでいく。


 奇数きすうの小隊が第一陣、偶数ぐうすう小隊が第二陣。残りの無事なもの達が三陣目となって、戦地におもむく。

 偶数番隊で、約二時間後に出撃予定のひまなラスターのかたに手がかけられる。


緊張きんちょうしてるか?」

「え? いや、大丈夫だいじょうぶです」

「流石経験者……だからか? いや、ちょっと落ち着きすぎじゃない?」


 肩をたたかれたラスターは質問に素直に返すと、質問をしたリーフ隊長は拍子抜ひょうしぬけした様子を見せる。


「さぁ……そうですか?」


 特にいつもと変わらない様子で聞き返すが、リーフが別の方向を指差す。

 ガチガチと歯がっていない男――同じ十番隊のチームであるケネス=モールトンは緊張でガチゴチとなっている。


「逆にあれほど緊張する方が問題あるように思えますけど……」

「慣れていてもあぁなるもんだ。……奴はちょっと表に出過ぎているが」


 他のメンバーにはげまされながら、なんとか落ち着こうとしている――どちらかと言うと、圧倒的あっとうてきに緊張しているケネスのおかげで、他のメンバーは緊張が解れているようにも見えた。


「では、出撃!」


 声が響きわたると、各隊長が乗っているReXが下へと降りていき、別の床が現れる。


 ちなみに、小隊のメンバーを乗せた六十機と、最終防衛ラインの予備部隊百機は別々の場所から出発している。

 予備部隊機は、コロニー衛星の軌道きどうラインに沿って等間隔とうかんかくに配置され、そのさらに外周を小隊が飛ぶ。


 一番隊から四番隊までの中隊は、その中でも更に幅広はばひろく飛ぶ権利があたえられており、各隊長機にしても自分の小隊の範囲はんいとの制限はつくが、比較的ひかくてき自由に飛ぶことが許されている。


 そうして、おそいくるワームビーストに備え――化け物がやってくる時間は刻々とせまっていた。

 にらいに我慢がまんの限界をえたこちら側から最初の一撃が始まり、たがいに撃ち合う攻撃こうげき徐々じょじょに増えていく。


 十時半ごろには、味方の緑色のビームと敵の黄色のエネルギーだんが戦場をおおくし、負傷したReXが徐々にコロニーへもどっていった。

 待機場所にある大型モニターには戦局が映し出され、やることのないラスターは水を飲みながら、ダラダラとそれをながめる。


「ほぉ……」


 どこからかれる感嘆かんたんの声。

 一台のカメラがシズハラの乗る隊長機を収め、彼女の動きに追随ついずいして写し続ける。

 二丁のビームライフルを使いこなし、ワームビーストをどんどん撃墜げきついしていく。


「すげぇ……」


 三けたに迫るほどの敵をクルクルと飛び回り、相手のエネルギー弾をかわして、真後ろに迫り来る敵と、前から襲いかかる敵を同時に撃墜して着実に敵の数を減らす。


「そうなる……か?」


 前後同時にやってくる敵に対して、横向きになって両手を広げて倒すならまだしも、前を向いたまま、左手を後ろに向けてビームを放っている。

 明らかに照準が合わない不思議な倒し方に首をかしげるが、周りはそれを疑問に思っているようには見えない。


 ――そういや、


 エース機の大半は複座式で二人乗りが出来るようになってある。

 息の合う仲間とならば、片手の操縦をあけ渡せば、戦力は二倍といったところだろうか?

 ひらひらと戦場をおどりながら、一機で二倍どころか、縦横無尽にまわることによって、三倍、四倍といった数の敵を大量にほろぼしていく。


 まばらに攻めてきていた雑魚どもを粗方あらかた倒し終えると、シズハラ大隊長の操る機体は徐々に後方へと下がり、コロニーの上に仁王立ちになり、そして、二丁のビームライフルを連結させる。


「連結式!? またニッチなものを」


 整備の難しさといい、必要性といい、使い分けたいのなら別のライフルを使えばいいだけということもあり2in1なんて物に需要じゅようが低い。


 学園コロニーならではのロマン全り兵器におどろいていると、ひざをついて狙撃そげき用のじゅうとなった、エース機の半分以上の長さのビームライフルを構える。

 もっとも、今見ているカメラでは、ライフルから放たれる極太の光が、ちゃんと敵に当たっているのかよくわからないまま、カメラの焦点しょうてんは別の人へと移っていく。


「ひっ……」


 エース以外の場所を映した映像に、小さなうめき声が周りから漏れる。


 間が悪いのか、それともこれが戦場の常識なのか。


 機体の大きさを見るに、小隊のだれかだろう。


 何一つ音のしない映像からは、実感はともなわない――それでも今日、誰かが一人死んだ。

 互いに飛び交う緑と黄色の光によって、ワームの体は動かなくなり、ReXの装甲そうこうがされていく。


 そして、またひとり……


「おっ」


 ReXを破壊はかいしようと襲いかかるワームビーストに極太の緑の光がつらぬいていく。


「さすが大隊長」


 ワームビーストは攻撃する時、不規則な動きをする習性があった。


 それが近接戦闘せんとうが敬遠され、遠距離えんきょりならない最大の理由。

 ゆらゆらと動くワームビーストを狙撃によって撃ち倒すのはまさにエースの貫禄かんろく

 守り守られながら、ワームビーストの数が減っていき、そしてこちらのReXの数もだんだんと減っていく、


 ――腹減ったなぁ。


 だんだん時間が過ぎていき、時計は十一時を過ぎていた。

 出撃時間が近くなったラスターはモニターから目を離し、そして、同じ十番隊のメンバーを見つける。


「なんか食べます?」


 げっそりとした顔のケネスに一応すすめる。


「無理、何も入らねぇ」


 いてきたらしいというのに、未だにしんどそうなケネスは、差し出されたショートブレッドを断った。


「そうですか」


 ラスターはそれを気にすることなく、自分の口に放り込み、かわいたのどを水でうるおす。


「この状況じょうきょうでよく食えるな……」

「むしろ昼ごはんが食べられないので今食べとかないとキツくありません?」


 小隊機が自分の搭乗とうじょう分まで帰ってくるかどうかにもよるが、一応十二時に搭乗予定である。

 そこから二時間――平常時ならともかく、腹減ったままでReXを乗り回したくはない。

 それでも、緊張の中飯が喉を通らない層も確実にいるので、その辺りは人それぞれであろう。

 

 帰ってきた小隊用の機体は、被害ひがいなし、または軽微けいびの被害、要修理、大破の三つに分けて収容される。


 そうして、充電じゅうでんを終え、稼働かどう可能なものが、再出撃に回されていく。

 小隊用――一五M級ReXのコックピットの中に乗り込むと、ラスターは計器をいじって通信状態の確認をする。


「準備はいいか? 最低でも出撃前にトラブルシューティングはやっておけよ。たまにモーターが焼けついたまま、充電だけしたのがまぎれてるからな!」

了解りょうかい――ケニス=モールトン、システムオールグーリン異常なし!」

「ラスター=ブレイズ、同じく異常なし」

「フラン=ディーシア、同じく異常なし」


 他のメンバーも異常なしの報告をしていき、終わると同時に床が動き始めた。


「ドキドキするな! な!」

「もう、吐いてもいいわよ」

「吐かねーわ!」


 ケニスとフランの会話を聞きながら、これからの戦場を見る。

 相変わらず真っ黒な、久しぶりの居場所になつかしんでいると、隊長から声がかかる。


「ラスター。メニューを開くとオートの表示が出てるのは見えるか?」

「はい」


 試しにメニューをすとオートと書かれたボタンが表示される。


「それを押せば、自動で出撃ができるぞ」

「へー……えっと、押せと?」

「自信があるなら別に押さなくてもいいが……」


 どこか歯切れの悪い物言いでリーフ隊長が言う。


「昔、出撃の時、どっかの馬鹿ばかが失敗して隊長にぶつかったのよ……ね? ケニー」

「うるせー。もうあんなことはねーよ」

「まぁラスターくんもケニーにだったら、ぶつかってもいいから」

「アホが! よくねーよ!」


 馬鹿話に興じていると、床全体が下へとおり、コロニーの下側へと出ていく。


「よっしゃ、やるぜー」


 先程までガクガクとふるえていたとは思えない勇ましい声を出してケニスが飛び、その後ろをラスターはついていく。


「出撃のうではケニーより上ね」

「やかましいわ!」


 下らない軽口を叩きながら、コロニーの沿って上へと回り込み戦場へと飛び立った。


「一応、後ろから敵が来てないかも見とけよ」

「了解!」


 レーダーで確認すると、ちらほらとワームビーストはいるのだが、メンバーの報告が終わらぬうちに、リーフ隊長が片付けた。


「あれ? 誰か来ますね」


 全力でブースターをかせた八M級の機体がやってくる。

 あーいう飛び方をしている時は大体――


「各自、散開!」

「了解!」

「えっ!?」


 周りが散らばる中、一人飛んでくる機体へとんでいったラスターは間抜けな声を漏らす。


「ラスターげろ!」

「逃げろって……えっ?」


 想像だにしない声に動きを止める。

 しかし、宇宙空間でいくら動きを止めたところで、前に進んだ以上その動きが止まることはない。


「気をつけろ! その後ろには――」


 隊長が声を張り上げて何か言おうとするが、それよりも早く機体が近づく。

 ラスターは無理やりまれた小隊入りに加えて、なまじに乗れたばかりに彼らは基礎きそ知識がある程度あるものだと思いこんでいた。


 そのため、フォーメーションなどは教えても、ワームビーストからは距離を取れ! という基本的なことは、知っている物ばかりと思って教えていない。

 カンラギ副会長にとんだ地雷じらいを押し付けられたことをさとった十番隊のメンバーの背筋に悪寒が走る。


 しかし、いつまでも後悔こうかいひたれるほど暇でもなく、黄色いエネルギー弾がこちらにまで飛んできて、全員臨戦態勢に入った。


「気をめていけよ」


 リーフ隊長は一喝いっかつすると、メンバーは戦場へと駆け出す。

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