第9話 モルゲンロート

 四時に起床。

 -15度くらいかな。

 熟睡は出来ないけど休めた。


 お湯を沸かすのにバーナーを点けるとすぐにテント内の気温が上がる。

 念のため換気のベンチレーションと窓を少し開ける。

 フリーズドライカレーと豚汁にお湯を入れて、とりあえず温まる。

 少しテント内を片付けて身支度をする。

 全身のダウンを脱いで、グローブを厚手のウールと革のアルパイングルーブにする。

 ピッケルを握ると意外と手が冷える。

 この装備なら長時間悪天候にさらされなければ凍傷から指は守れる。

 すでに登り始めている人の足音が聞こえた。


 5時少し過ぎたところで隣のテント内で動いているミユに声を掛ける。

「おはよう。もう少し待って」


 電波の届くところで天気予報を確認する。

 やはり午後から悪くなる予報。

 遅れてくれれば良いのだが、早まったら無理だなと。

「お待たせ」

 5時半。

 時間通りと言えばそうなのだが、少しでも早く出れれば良かったなと


 尾根上まで身体を慣らしながらゆっくり登っていく。

 一時間くらいで尾根に上がると少し風があった。

 おそらく昨夜はかなり強い風が吹いていただろう。

 森林限界を超えて樹はない。

 かと言って雪も強風で吹き飛ばされており雪で壁を作ることも出来ない。

 ここでのテント泊は難度があるなと。

 結果、昨日の場所の設営は正解だった。


 尾根に上がると傾斜は緩くなるが、ミウは遅れていく。

 昨日の疲れが残っているか。


 少し歩くと空は赤くなり富士山を浮かび上がらせる。

 良い天気。

 この時期ならではの澄んだ空気。

 富士山にはレンズ雲が付いている。

 強風の時に出るやつで天気の変わり目だ。

 この場合やはり悪くなるんだなと。


 ミユとの差がだいぶ開いてしまったので一休み、だがこのくらいのペースで歩かないと登頂は無理だろう。

 少し出発が遅かったかと。

「ごめん。私調子悪いかも」

「しょうがない。行けるとこまで行きましょう」

 ミユは厳しそうだ。

 僕一人ならなんとか行けるかな。


 そして日が出て北岳を赤く染める。

 美しい朝焼け、モルゲンロートだ。

 この景色を見れただけでもここまで来た価値はあったと思った。

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