33. 言ったじゃないですか

33. 言ったじゃないですか




 翌日。いつもの朝。天気は快晴。オレはアンナと共にギルドの外の窓を拭いている。


「ちょっとエミル!絶対上見ないでよね!」


「分かってるって。早く拭いてくれ」


「やってるわよ!うるさいわね!天才魔法少女のアタシに指図しないで!」


 いつものように騒ぎ出すアンナ。オレは今、アンナを肩に乗せている。こういうのはエドガーさんの方がいいと思うんだけどな。リリスさんの言葉を借りるなら適材適所だよ適材適所。そして窓拭きを終えるとそこにジェシカさんとレイアがやってくる。


「おはようマスター」


「おはようございますジェシカさん、レイア」


 ジェシカさんはあのあときちんと手紙を親御さんに送り、『ホワイトナイツ』を辞めて、未来の王国一の冒険者ギルドになる『フェアリーテイル』で働くことを報告してくれたらしい。もちろん返事は『頑張れ』とのことだったそうだ。


 ちなみにレイアはジェシカさんと一緒にこの王都に住むことになった。今はまだジェシカさんと宿屋暮らしだけど、近々引っ越す予定だそうだ。


 そしてレイアはオレたちのギルド『フェアリーテイル』でリリスさんとジェシカさんのギルド受付嬢の補佐と『癒し系クレリック』として同行依頼を担当することになった。


「あのマスターさん。今日からよろしくお願いします!私頑張ります!」


「ああ。こちらこそよろしく」


「レイア。この天才魔法少女に何でも聞きなさい!ビシバシ鍛えてあげるから」


「うん。よろしくねアンナちゃん。」


 なぜか年下で冒険者ランクがFのアンナが先輩風を吹かしているがそこはスルーしよう。するとそこにリリスさんがやってきてレイアに話しかける。


「おはようございます。レイアちゃんは今日から『フェアリーテイル』の立派なギルドメンバーです。分からないことがあったらいつでも女性として経験豊富で、冒険者としても最強の私に何でも聞いてください。ね。ジェシカちゃん、アンナちゃん。」


 そう言ってまたジェシカさんとアンナにマウントをとるリリスさん。本当に大人げない。というよりやっぱり楽しんでるよな。


 こうしていつものギルド『フェアリーテイル』が始まる。レイアは初めての仕事で緊張気味だったが、一生懸命働くレイアを優しくジェシカさんがフォローして、それを見ていたオレは微笑ましく思ったのだった。そして今日の仕事を終えて、レイアは書類を整理していたので声をかけることにする。


「お疲れ様レイア」


「あ。マスターさん。すいません仕事が遅くて……」


「そんなことないさ。初めてだし仕方がないよ。オレだって最初は全然できなかったから」


「ありがとうございます。マスターさんって優しいですね」


「え?そ、そうかな……」


 そう言われると照れる。でもレイアが笑顔になってくれているなら良かった。


「あれあれエミルくん?もしかして今度はレイアちゃんを毒牙にかけようとしてるんですか?確かにジェシカちゃんは女の色気はほぼないですけど、さすがに妹に負けたとなるとショックで寝込んじゃいませんか?そう言う趣味なのはいいですけど、それが目の前でおこなわれると無視できませんよ私。」


「マスターさん……」


「いやそんなつもりはないから!!そもそもジェシカさんにも何もしてないですし!」


 また華麗に毒を吐くリリスさん。オレは別にロリコンじゃないし。誤解されるのは困るぞ。そんなやり取りをしているとジェシカさんがやってくる。


「終わったのレイア?」


「あっうん」


「それなら帰ろうか。それじゃまた明日マスター、リリスさん」


「お疲れ様でした」


 そのままレイアの初仕事は終わりを向かえ、帰り支度をしてジェシカさんとギルドをあとにする。仲良く歩く2人を見て、今回の件で力になれて本当に良かったと思う。


「ねぇエミルくん。あの二人とても仲がいい姉妹ですよね。信じ合うというのはいいものです!」


「そうですね。今回の件で改めて思いました。オレは必ずギルド『フェアリーテイル』を王国一のギルドにしてみせる!ジェシカさんのためにも、もちろんリリスさんのためにも」


「おお!燃えてますねエミルくん。そのくらいの気概がないとマスターなんて務まりませんよ。……でも絶対王国一になれると思いますよ?」


「え?」


「……言ったじゃないですか。私の勘は当たるんですよ?」


 リリスさんは可愛くウインクをして、オレに向かって微笑む。やっぱりこの人には敵わない。でもリリスさんのその言葉はとても心強く、オレを信頼してくれているのが分かったのだった。

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