21. おじいちゃん

21. おじいちゃん




 王国の東側。そこから一番近い森が『適性試験』をおこなう場所だ。その森まで自称最強の天才魔法少女ことアンナと共に街道を歩いていく。


「適性試験だかなんだか知らないけど、この最強の天才魔法少女のアタシにかかればゴブリンくらい楽勝よね!」


「アンナは魔物を倒したことあるのか?」


「ないわ。でもアタシなら大丈夫よ。だって最強だもの」


「そだな……」


 めちゃくちゃ不安なんだが……オレは戦えないし、いざとなったらアンナを連れて逃げるしかない。その後歩き続けていく間、アンナは饒舌に色々話している。


「ねぇねぇ。アタシってば凄いでしょ?でもアタシのおじいちゃんも凄い魔法使いなんだから!」


「そうなのか?」


「まぁ今はアタシが最強なんだけど!」


 アンナがさっきからずっとこんな感じで絡んでくる。正直ウザイが、なんとか我慢する。


「エミルもアタシのこと見直すでしょう?」


「そりゃ凄いな」


「ふふん!もっと褒めなさい!」


 そしてまた絡んでくる。なんかめんどくさい。アンナの話だとおじいさんも凄い魔法使いらしい、なんでも魔法で国を救ったこともあるとかないとか、ドラゴンを単独で倒したことがあるとかも言ってたような気がするが……色々話していたのでよく覚えていない。


 しかしアンナはそのおじいさんに憧れて、とりあえず色々経験できるギルド冒険者になろうとしているらしい。


「そんなことよりもうすぐ着くぞ」


「本当!?もう着いたの!?……エミル。あんたっていい人ね!こんなに楽しくて時間を忘れたのはおじいちゃんと話した時以来だわ!ありがとね!」


 アンナは不意に可愛い笑顔をオレに見せる。本当は素直でいい子なんだな。そう思いながら森の中に入っていく。すると早速ゴブリンに遭遇した。


「あそこにゴブリンがいるわね!さっさと片付けるからそこで見てなさい!」


「はいはい。頑張れよ」


「ふん!余裕よ!」


 そう言うとアンナは杖を構えて呪文を唱え始める。


「偉大なる炎の精霊よ!我の前に姿を現せ!敵を焼き尽くしたまえ!『ファイアボール』!」


 詠唱を終えると、杖の先端から火の玉が現れ、勢いよく飛んでいき、見事命中して爆発が起こる。


「どう?これがアタシの力よ!」


「おお〜やるな」


「当たり前じゃない!アタシは最強の天才魔法少女なんだから!」


 嬉しそうに喜ぶアンナ。不安はあったけど普通に魔法が使えるようだ。というか初めての魔物討伐で怖くないのか?


「なぁアンナ。魔物を倒すのは初めてだよな?怖くないか?」


「全然怖くないわ!だってアタシは強いんだもの!それにゴブリン程度なんて敵じゃないわよ!だってアタシは最強の天才魔法少女だもの!ほら!次が来たわよ!次もアタシに任せておきなさい!次は『サンダーボルト』よ!」


 そう言って現れるゴブリンに向かって得意げにアンナは魔法を放つ。『サンダーボルト』は雷属性魔法のはず。あ。この子の適性は火と雷だったか。そのあと2体のゴブリンを魔法で倒し、残りの討伐数は1体になった。多少アンナに疲労が見えたところでオレは提案することにする。


「残り1体。少し休まないかアンナ?」


「はぁ何言ってるの?まだ疲れる程動いてないわよ!それともアタシの力を疑うの!?」


「そういうわけじゃなくてな……」


 あー。この子はこういう子だよな。このままだと万が一があるかもしれないし、少しは休ませないと……


「……いやごめん。オレが疲れたんだ。だから少し休憩しないか?」


「しょうがないわね。まったく。あなたギルドマスターなのに情けないわね。仕方ないからちょっとだけ休むわ」


 そう言うとアンナは木陰に入り腰をかける。とりあえず休憩はしてくれるみたいだ。オレも同じように隣に座った。しばらく沈黙が続く。ふとアンナの方を見るとペンダントを大事そうに手に取り眺めているようだった。


「それはお守りなのか?」


「え?これ?これはおじいちゃんの形見のペンダントよ。大事なものだから肌身離さず持っていなさいって言われてるの。最強の魔力が込められてるものなんだから!」


 アンナのおじいさんはもう亡くなっているのか……。楽しそうに話すからてっきり。でもそれだけおじいさんのことを尊敬しているということなんだろうな。こんなに小さな子が夢に向かって頑張ってるなんて……立派だよな。


「さて。残りのゴブリンもサクッと倒すわよ!ほら行くわよエミル!」


 そう言って立ち上がり、また元気に歩き出す。オレとアンナは残り1体のゴブリンを倒すために森を進むのだった。

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