13. 代行依頼

13. 代行依頼




 そしてオレたちはリリスさんの案により、ルークと共に近くの森の中に来ていた。


「あそこが今回の依頼場所ですね」


 リリスさんが指差した先には小さな湖があり、そこに数匹のスライムがいた。


「あれが今回のターゲットですね。では早速始めましょうか」


 するとリリスさんは腰につけていた剣を抜き、ルークに渡す。


「ルークさん。これを貸してあげます。さぁどうぞ」


「えっ!?」


「あのリリスさん。それはいくらなんでも……」


「ギルド冒険者になりたいと望んだのはルークさんです。そしてそのお金で薬代を稼ぎたいと。」


 リリスさんの言葉を聞いて、ルークはうつむく。


「やっぱり……無理ですよ。だって……ボクは戦い方なんて分からないし……それに武器だってこんなの使ったことがない……」


「そうですか?誰でも最初はそうですよ。それにこれは訓練ではありません。実戦ですよ?今ここでやらなければあなたは死ぬだけです。それがあなたの選んだことです」


 厳しい言葉をルークにかけるリリスさんだが、それは正しい。もしこれが訓練なら、リリスさんがフォローできる。しかし、今は違う。相手は魔物であり、こちらを殺すつもりで襲ってくるのだ。そんな中、戦闘経験もない子供が戦えるわけがない。


「さぁ、早く行ってください。時間はあまりありませんよ?」


 ルークはどうしていいか分からず、立ち止まっている。するとリリスさんはルークの頭に手をおき、優しい瞳で諭す。


「いいですか?ギルド冒険者はそんな軽い気持ちでなれるものじゃありません。冒険者には危険がつきものです。一歩間違えば死ぬことだってある。そうなったらきっとお母様も悲しみますよ?」


 その言葉を聞き、ルークは涙を流す。


「うぅ……お母さん……ごめんなさい……」


「……ではひとつ良いことを教えてあげます。ギルドには冒険者にお願いして依頼をしてもらう『代行依頼』という制度があります。その依頼を達成できれば報酬を受け取ることができます。もちろんお願いする冒険者への報酬などは交渉する必要がありますし、それを受けるかどうかはルークさんとその冒険者との折り合いが必要でしょう。でも、少なくともここに1人、ルークさんに力を貸そうとしてくれている最強美人のギルド受付嬢の人がいます。」


「リリスさん……」


 そうか……リリスさんは初めからこうするつもりだったのか。ならオレにできることは……。マスターとして、ギルド『フェアリーテイル』として『代行依頼』を受理してやることだ。


「ルーク。どうする?リリスさんにお願いするか?」


 オレの言葉を聞いてルークは真っ直ぐリリスさんを見て話し始める。


「あの!ボクはお母さんの薬代を稼ぎたい。でも、ボクは弱いし戦えない。だからリリスさんこの依頼をお願いしたいです!」


 ルークの目を見たリリスさんは笑顔で答える。


「分かりました。私への報酬はいりません。ただひとつだけ……もし君が大きくなってギルド冒険者になったなら、その時は『フェアリーテイル』を選んでくださいね?約束です」


「はい!ありがとうございますリリスさん」


 こうしてルークとリリスさんの『代行依頼』を受理し、そのあとは目的のスライムはリリスさんが軽く倒し依頼は無事完了した。ギルド『フェアリーテイル』に戻りルークに報酬を渡すと、最後までリリスさんに感謝して帰っていった。これで良かったのかもな。


「リリスさん。初めからこうするつもりだったんですね?」


「……エミルくん。私はギルド受付嬢としての務めを果たしただけです」


「それにしても『代行依頼』か。よく考えたね。今どき使ってる依頼者なんていないのに」


「そうですね。『代行依頼』なんてトラブルの塊ですからね。誰かの為に依頼をおこなうなんてどこか聖人くらいのものです。……今は廃れたものでもルークさんには必要なことだった。ただそれだけです」


 そう言うとリリスさんはオレとジェシカさんに笑顔を見せる。本当にこの人には頭が上がらないよ。


 ギルド『フェアリーテイル』の初めての冒険者と依頼。冒険者とは呼べなかったけど依頼を通してルークの未来が明るくなれば良いと思う。これからも冒険者の為に。まだまだオレたちのギルド『フェアリーテイル』は始まったばかりだから。

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