10. 目の前にあるのに

10. 目の前にあるのに




 そして更に更に翌日。オレは開店している冒険者ギルド『フェアリーテイル』でこれからのことをリリスさんとジェシカさんと話している。当然、今日も誰も来ない。


「他とは違う冒険者ギルドになるためにはどうしたらいいか。意見をもらえないかリリスさん、ジェシカさん」


 オレがそう言うとジェシカさんは考え始める。しかしリリスさんはさっきから何かを書いているようで、ずっとペンを走らせている。何を書いてるんだろ……気になるなぁ……。


「あの……リリスさん……?」


「ん?なんですかエミルくん?私のことは気にせず話を続けて下さい」


「いや……何をしてるのかなって」


「これですか?これはこの前のダンジョンのマッピングをしてるんですよ。宝箱があった場所とか隠し通路とか罠の場所とか」


 そう嬉しそうに話しながらリリスさんは書き進めていく。そう言えばパーティーを組んでいた時もリリスさんはいつもメモを取っていたな……って言うか、『フェアリーテイル』の一大事なんだから話し合いに参加してほしいんだが……。


 するとジェシカさんがその地図を見て、リリスさんに話しかけた。


「……これほどまでに正確な地図を……。あのリリスさんは盗賊のジョブかスキルを持っているの?」


「はい。盗賊だけじゃありませんよ?私は現存するすべてのジョブのスキルを習得してますよ。たまに使わなすぎて思い出すのに時間がかかりますけどね。こう見えてもこの前まで最強のギルド冒険者だったんですから!」


 リリスさんが胸を張ってそう言った瞬間、ジェシカさんの動きが止まる。あれ……なんかヤバくない……これ。そしてオレの方を睨み付けるように見てくるジェシカさん。


「マスター。あなたはバカなの?」


「え?」


「……他とは違う冒険者ギルドになる。目の前にあるのにそんなことにも気づかないなんて。」


 へ?どういうこと?他とは違う冒険者ギルドになることはオレも考えていたことだ。でもそれが何故、目の前のことに繋がるのかがオレには分からなかった。


「いい?よく聞いて。」


「お、おう」


「……リリスさんのスキルを生かした運営をすればいいの。そうすれば他とは違う冒険者ギルドになれる。例えばそのマッピングの地図を売るとかね。ギルド冒険者は少なからずダンジョン攻略の準備をする。その時攻略するダンジョンの地図があれば盗賊などのジョブをパーティーに入れる必要がない。」


「なるほど……」


 ジェシカさんは淡々とはなしているがオレは驚いた。まさかそこまで考えてるとは……。確かにリリスさんの地図は正確だ。それなら……


「そして盗賊のジョブの人には報酬を多く出すとかの工夫は必要よ?あと地図は三種類用意するのがベストね。銅貨1、2、3枚で内容を変えれば選んでくれる人も増えると思うし」


 それを聞いたオレとリリスさんは納得する。やはりジェシカさんは凄いな……頭が切れるというか……オレたちより大人っぽい感じがする。


「ありがとうジェシカさん!助かった!」


「別に……当たり前のことを言っただけだから」


 ジェシカさんは少し照れながらそう答えた。あとは……この『フェアリーテイル』にどうやってギルド冒険者を呼び込むかだ。


「あのエミルくん?それなら初級のギルド冒険者をターゲットにしましょう。他とは違う冒険者ギルドなら、元冒険者の私が色々指南してあげれば差別化できます!」


「それなら、クエストボードにリリスさんのワンポイントアドバイスみたいなものを貼り付けるといいですよ。おすすめのジョブとかスキルとかそういう細かいところまで教えてくれるギルドはないから」


「あぁ……確かに……」


 オレはそう言いながらも思った。この二人って実はものすごく優秀なんじゃないかと。オレ一人ではこんなに早く解決しなかっただろう。


「あと。宣伝はしたほうがいいよ」


「そうですね。それならジェシカちゃんがやってください。多少際どいメイド服とか来て冒険者をキャッチしましょう。私より若いのでお願いします」


「えっ……私は……」


「大丈夫ですって!ジェシカちゃんは私より胸がほんの少しだけ大きいですし、そこにいる戦闘能力皆無のエミルくんも気づいてないと思ってますけど、たまに私とジェシカちゃんの胸を比べてますし、まぁ男性経験なさそうなジェシカちゃんには荷が重いかも知れませんけど、いつまでも垢抜けないのもどうかと思いますし、この冒険者ギルド『フェアリーテイル』のためですから!」


 なんか流れるようにオレとジェシカさんに毒が吐かれていたような気がするが……。とにかくジェシカさんには頑張ってもらうしかない。


「あの……マスター?本当にやるの……?」


「もちろんですよジェシカさん。ギルド冒険者を増やすためですから!」


「でも……恥ずかしいし……」


「私の方が恥ずかしいですよ。もう26歳ですし、文句を言わず若いんだからやればいいんですよ!やる前から文句を言わない。これだから最近の若い子は。」


「うぅ……」


 なんか華麗に毒を吐くリリスさん。あれ?オレの記憶なら可愛い制服着ようとしてたような……。まぁそれを言うと矛先がオレに来そうなのでやめておく。こうして半ば強引にリリスさんの提案で、ジェシカさんは初級冒険者に宣伝することになるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る