5. 『フェアリーテイル』始動

5. 『フェアリーテイル』始動




 ギルド設立から2週間がたった。オレとリリスさんの準備も佳境をむかえていた。


「許可が出たのは素材採取が3枚、ダンジョン攻略が2枚か。なかなか厳しいな……」


 申請した依頼は半分以上却下されてしまったが、なんとか5枚ほど依頼書をもらうことができた。やはり無名の冒険者ギルドではなかなか難しいようだ。


「マスター。早くその依頼書をこのクエストボードに貼りましょう!私が貼ってあげますね!」


 リリスさんは子供のように目をキラキラさせて喜んでいる。なんかこういうところを見ると、やっぱりリリスさんも普通の女の子だなと思う。


「ありがとうございますリリスさん。助かります」


 オレはリリスさんに依頼書を渡し、リリスさんがそれをクエストボードに貼り付けていく。そして2人でそのままギルドを見渡す。そこには冒険者だった時の光景と同じギルドの光景が目に写る。


「おぉ!なんかこうやって見るとギルドらしくなってきましたね!」


「はい!もうすぐ完成です!私たちのギルド『フェアリーテイル』が始動するんです!」


 決して大きくはない。それでもどこか不思議と安心感がある。ギルド『フェアリーテイル』はここに誕生したのだ。


 あの時、いきなりパーティーを解散して、どうなることかと思ったけど、今ではリリスさんともすっかり仲良くなった。というか、リリスさんはオレのことを弟みたいに思ってるんじゃないかな。よく分からないけど。


「エミルくん!これで完了ですね!あとは開店を待つだけですね!」


「はい。いよいよですね。」


 オレとリリスさんの『フェアリーテイル』はこれから始まる。オレはこの時、少しの不安と、たくさんの希望を感じていた。


 それにリリスさんはとてもテンションが高い。まぁ気持ちはよく分かる。オレだって楽しみだ。リリスさんと二人でギルドを開く。それだけでワクワクしてくる。だから……改めてリリスさんに伝えることにする。


「あのリリスさん。ありがとうございます。その……オレなんかを誘ってくれて」


 オレがそう言うとリリスさんは微笑みながら答える。


「……言ったじゃないですか。君は私がギルド受付嬢になるためにパーティーに勧誘したんだって。だから気にしないでください。むしろ私の方が感謝しているんですよ?まだ準備をしてるだけで、こんなに楽しい毎日を送れるなんて夢にも思いませんでしたから。……やっぱり君がいてくれて良かった。ふふ。」


 リリスさんは本当に楽しそうだ。この笑顔を守りたい。心からそう思った。オレも成長しよう。ギルドマスターとして、そしてリリスさんのパートナーとして。


「よし。それじゃあリリスさん!オレとリリスさんのギルド『フェアリーテイル』の記念すべき第一回目の仕事は、2人でご飯を食べに行きましょう!にします」


「いいですね!早速いきましょう!どこへ行きますか?もちろんマスターのおごりですよね?」


「え!?」


「冗談ですよ。ふふふ。」


 リリスさんは悪戯な笑みを浮かべている。なんか最近、リリスさんにはずっと振り回されている気がする。でもこんな生活もいいかもな。


「さぁ行きましょうマスター!今日はいっぱい食べますよー!」


「ちょっちょっと待ってくださいよリリスさーん!」


 2人の楽しげな声はギルドの中に響き渡っていた。


 これが後にこの王都で有名になるギルド『フェアリーテイル』の前日譚。物語はここから始まるのだった。

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