反魂の物語

御神楽

原作「天明の階 -Infinite annulus-」

 コミックマーケット73(冬'07)にサークル「Marca Novels」から頒布されたロールプレイング・ノベルゲーム。

 戦国時代の前期と後期を分ける天明の乱で活躍した人物の魂魄を現代に継承した者たちが、喪われた三種の神器最後のひとつである八坂瓊勾玉を巡って争いあう異能伝奇バトル。

 勾玉の器となった人間は天神に至って世界を創造する力を得るとされており、歴史上の人物と現代に生きる者が互いに影響を与え合う中で変化したり、願いをひとつに同じくしていくといった展開が繰り広げられる。

 継承者の中には女性となっている者もおり、これをメインヒロインに各キャラクタールートが存在する、いわゆる全年齢向けギャルゲー。主人公は非継承者と思われていたが、中盤に継承者であったことが明かされ、なおかつ作中の選択によって誰の魂魄を継承者する者であったかが変化する、主人公の性別選択によって攻略対象が変化するなどの複雑なフラグ管理を採用していた。

 ところがこのシステムに問題があり、頒布された正式版は、主人公を女性に設定した場合でも一部で主人公が男性の場合のルートに入ってしまい、女性キャラクターが攻略対象となるバグがあったものの、比較対象となる正しい挙動のシナリオが存在しないことから、プレイヤーの多くはこれが正規の挙動で、百合ルートがあるだけだろうと認識していた。

 サークルは修正パッチを公開したが、急ぎ公開された修正パッチの内容を正確に説明しなかったため、進行中に突然ルートを閉ざされた一部プレイヤーが反発。世界を再創する作中設定をもじって修正パッチを「クソ勾玉」と呼んで公式掲示板が荒れることにもなった。現在でもこの初期頒布版は「無修正版」なる誤解を招く名で呼ばれ、このルートをベースとした二次創作では「無修正ルート」などのタグが設定されている。

 本作はバグが多く、そのほかにも戦闘パートで主人公が使用制限を無視して草薙の剣を起動し続けた挙句に戦闘終了後のアイテム画面に草薙の剣がずらりと並ぶ無限草薙バグや、梶浦摩季の好感度フラグが反転して突如対象キャラの闇墜ちルートに突入する通称闇カジキバグなどが存在した。



・原作あらすじ

 舞台は東京近郊に位置する海沿いのN市。主人公「萩原真琴」が通う高校に「如月神無」が転校してくる。

 明朗快活な性格からすぐにクラスに馴染む神無。真琴はそれを遠巻きに眺めるだけだったが、神無はそんな真琴にも声を掛け、二人はやがて友人となる。そんなある日、帰宅した真琴は家を包む異様な気配を感じ取る。そこにあったのは妹の遺体と、それを喰らおうとする異形の鬼の姿だった。

 自らもまた鬼に襲われ、追いつめられる真琴。その凶爪が振り上げられた時、真琴の身を結界が護り、突如駆け抜けた神無の刀の一閃が鬼を斬り伏せていた。

 真琴は妹に縋りつくと、その力によって妹は息を吹き返す。突然のことに混乱する真琴に、学校で見るのとは違う雰囲気をまとう神無が語り掛ける。

 彼女は、自らがかつての天明の乱における西軍の将天童義祐の魂魄の継承者であり、N市に在ると思しき八坂瓊勾玉を探し出して鎮める使命を帯びていると打ち明ける。対する鬼たちは勾玉を求めてこの土地に引き寄せられ、膨大な霊力を眠らせる真琴を喰らうために襲い掛かってきたのだ。

 妹は自分を狙った襲撃の巻き添えだったと聞かされてショックを受ける真琴だったが、やがて、その問題を解決すれば妹やこの街の平和を護れると考え、神無に協力を申し出る。



・萩原真琴(デフォルトネーム)

 本作の主人公。性格面はプレイヤーの選択や行動に左右される点が大きく、安定しない。初期の描写からは、やや控えめながら芯の強さを併せ持つキャラクターと推察されている。

 性別に関わらずデフォルトネームは真琴となるが、開始前に変更が可能。膨大な霊力を持つもののそれを制御する技術に劣るため、当初は防御や回復といったサポート役がメインだが、中盤以降は攻撃も可能な万能型に成長していく。

 継承魂魄はルートによって変化し、天明の乱時の双子の親王である秋津親王か章平親王に分岐するが、いずれの場合でももう片方の魂魄の一部が真琴の中に共存し眠っていると明かされる。

 この魂魄とシナリオは連動しており、それぞれ大別して西軍ルート、東軍ルートとなる。公式には秋津親王の継承者として如月神無と共に歩む男性主人公がトゥルールートに想定されていたが、前述の性別バグにより女性を選択した方が攻略対象キャラクターが増加する。

 歴史上では秋津親王が名目上の東征軍の総大将とされていた。双子であった二人はたいへんに仲が良かったものの、権力闘争に巻き込まれる形でそれぞれの派閥に担ぎ上げられ、結果として章平親王が失脚、流罪となっている。この継承魂魄がいずれか後ほど判明するシナリオは、史実における流罪が決した際に入れ替わりが噂された伝説に基づくものと思われる。



・如月神無

 西軍の将天童義祐の魂魄継承者。丈の長い日本刀を扱うアタッカー。

 シナリオ中盤で真琴が親王の魂魄継承者と知っていて接近したことが明かされてひと悶着起こる。パッケージの配置やトゥルールートの設定からいわゆるメインヒロインとして設定されている。

 性別バグの影響を受けたひとり。初期状態から信愛度が高めに設定されており、意図しない限りそれなりに信愛度が上がるため、女性主人公の場合は信頼しあう戦友、男性主人公の場合は仄かな恋心の相手という位置に自然と収まるよう想定されていたと思われる。

 無修正版における女性主人公でも基本は変わらず、女性主人公の正規シナリオ、即ち男性キャラクターを攻略するルートの場合は影響が無いが、バグによる女性キャラを攻略するルートに入った場合、男性主人公時の「それなりに信愛度が高いが他のキャラと恋愛関係になった」場合のイベントが動くため、事あるごとにヤキモチムーブを連発する古式ゆかしいツンデレキャラと化す。

 かっこいい彼女を見たい場合は男性キャラを攻略するか、信愛度を上げすぎない微妙なコントロールが必要。

(※厳密にいえば神無の信愛度が攻略対象キャラの信愛度平均値を超えているかどうかで判別されているため、全キャラの信愛度をガンガン上げるハーレムムーブをかますとヤキモチの条件を満たさなくなる。女たらしである分にはいいのだろうか)



・萩原陽詩

 真琴の妹だが、正確には叔父夫婦の子であり真琴の妹ではない。

 主人公が男性の場合、初期からほのかな恋心を抱いていることになり、攻略対象となる。女性の場合はその恋の背を押す役回りで、性別バグの対象ではない数少ない一人。主人公の攻略対象キャラへの接し方で好感度の影響を受けるシステムになっているため、その都度フラグが上書きされるためと思われる。

 一方、性別バグにより男女を問わず攻略対象とする女性主人公に対しては結果として相手の性別に関わらずその背を押す強者の風格を見せ、中でも敵対関係からしかルートが派生しない、梶浦摩季ルートにおける敵対関係を念頭に置いたセリフ「相手がどういう人かなんて関係ないよ!」がだいぶ違う意味になってしまっている。



・男:和泉柊/女:柊和泉(いずみ・しゅう/ひいらぎ・いづみ)

 東軍で最後まで抵抗した末に戦死した北舘将実の魂魄を継承する者。

 北舘将実の魂魄は本来無数に分割されており、柊もまたそうした魂魄の微かな欠片を持つだけの者に過ぎなかった。ところが東宮の皇統を再び建てようと目論む土蜘蛛の一族らによって他の継承者らは次々と殺され、柊は人為的に唯一の継承者として仕立て上げられている。

 作中終盤、東軍の首領として決起するかと思われた矢先、彼らの手を離れ、腹心の部下だけを従えて世界そのものの破滅を宣言する。

 最終戦前夜、数百年に渡って分割されたままだった北舘将実の魂魄はもはや憎悪と怨念から力を生み出すだけの崇神なっていたこと、一連の行動は現代に生きる人間たる和泉柊自身の意志と行動だったと判明する。

 ほぼすべてのルートで最終決戦において死亡し、唯一和泉柊を攻略するルートでのみ生存する。殆ど裏ルートの扱いで、条件設定も複雑、初見でクリア可能なプレイヤーは殆どいなかった。しかも主人公の性別を問わず攻略できるようにするためだったのか、女性主人公の場合男性に、男性主人公の場合女性に設定されるシナリオが組まれていたが、これが原因で男女フラグ管理にバグが発生することになった。

(なお、男女によって名字と名前が入れ替わるようになっていた)

 作中的にもシステム的にも諸悪の根源扱いされがちな上、女性主人公を選んだ場合、主人公が男性と認識されるバグの影響で柊は女性となるため、男性の柊は無修正版では存在自体が抹消されてしまっているというありさま。あんまりといえばあんまりである。



・梶浦摩季

 東軍に与した木曽路出身の野伏り佐河原甚助の魂魄継承者。いわゆる忍者タイプのキャラクター。

 元々学校の先輩で、最初は味方として主人公に接触するが、どのルートを通っても必ず、史実と同様、和泉(北舘将実)に従って一度味方から離脱してしまう。圧倒的速度と便利な状態異常付き低コスト全体攻撃を使用できたため、強化ツリー解禁に鬼火を消費して痛い目を見たプレイヤーも少なくない。

 性別バグとその他のバグによる影響が組み合わさってえらいことになってしまった一人。

 真希の敵対関係は信愛度によって態度が変化し、中程度の場合は和泉の忠臣としての態度を崩さないものの、信愛度が高い場合は男性なら愛情、女性なら友情でそれぞれ忠義との狭間で苦悩する姿が描かれ、信愛度がマイナスだと主君の敵に対する冷酷な側面を見せる――というのが本来想定だった。

 敵対関係かつ、女性主人公の男性和泉ルートに入っている場合、主君である和泉に依存を重ねた末、主人公に対する激しい敵意と執着を露わにして残酷な手段を多用し、最後には和泉による勾玉への生贄として凄惨な結末を遂げるという、バッドルートにおけるサブシナリオがある。

 通常の摩季ルートでは、狂気に陥っていく和泉から摩季を取り返す熱い展開が繰り広げられるが、性別バグの対象の一人であるため、女性主人公でも彼女を攻略可能。

 対する敵対バットルートは、本来なら度々仲間(特に摩季)を裏切る、些細な理由で敵を殺すといった意図的な悪人プレイをしなければ入れないのだが、問題は摩季の信愛度フラグが致命的なバグを抱えている点である。というのもあらゆる選択で摩季の信愛度を上げた上でクリスマスイベントの対象に摩季を選ぶと信愛度が上限に達し、シナリオが分岐する摩季の裏切りシーンでオーバーフローを起こして信愛度が最低値(マイナス)になってしまう。

 敵対後には本来のバッドルートでの言動通り主人公の裏切りと不信を強く批難するのだが、間の悪いことに摩季の裏切りシーンは寸前に主人公との間に行き違いと誤解が発生しているためにある意味でシナリオが繋がってしまい、女性主人公に対する愛と主君に対する忠義に苦しみ、やはり自分には主君(和泉)しかないと思い詰めた末、愛情が憎悪に反転したようにしか見えない言動を繰り広げるはめになる。

 一方、信愛度をガンガンに上げるプレイをしてきた主人公は当然摩季ルートに入っていたことから、回想コマンドには、摩季のぎこちない笑顔が少しずつ自然になっていく想い出がぎっしり詰まっているという状態に陥ってしまう。

(本来バッドルートに入っている場合、女性主人公が柊和泉の心の闇に触れながら二人で闇に沈んでいくイベントが並んでいる筈である)


 これにおける本来の正規ルートは、主人公が覇道を志し、道中で罪を重ねた末に、ラスボスである和泉を巡って摩季と奪い合った末に和泉も摩季も死亡、主人公が和泉の想いを受け継いで魔王となるバッドエンドルートである。

 対するこのバグでは、主人公は王道を志し、道中で仲間の信頼と正義に応え、それをもって摩季と関係を深めていったにも関わらず、中盤に些細な誤解から破局して摩季は狂い、女性で登場する和泉を加えた女性三人の憎悪と殺し合いに発展した挙句、和泉に恋人である摩季を殺された主人公が魔王になるという凄惨なルート構成になってしまう。


 これが通称闇カジキ(闇墜ち梶浦摩季)バグである。

 このバグを起こす場合、手探りプレイになる一週目ではまず獲得信愛度の関係でオーバーフローが起こらず、攻略を徹底できる周回プレイで再び摩季ルートを楽しもうとしたプレイヤーが遭遇し阿鼻叫喚に叩き落される光景も見られた。



■二次創作について

 女主人公真琴×梶浦摩季、闇カジキルート二次創作。

 闇カジキは本来バッドエンドのサブシナリオであるが、死亡が確定している闇墜ち摩季を、正規ルートにおける救済イベントを翻案して繋いで救うものが少なからず存在している。

 ただこの梶浦摩季は本来は存在しない非正規シナリオに、更に別途バグが組み合わさった結果存在しているルート、及びそれを前提としたキャラ解釈でもあるため、取り扱いには注意を要する。

 実際、裏カジキの呼び名も梶浦摩季のタグを回避するために造られた隠語の側面があり、作者もこのルートを敢えてプレイするプレイヤーに対する不満を口にしていた時期があった。現在は自分のバグが元々の原因だし、これが存在するのも運命かもしれないと冗談めかした言及がある。

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