第8話 常夏の旋律の蜩


 近藤君は陽炎が揺れる木立闇に遮光した道路の果てで私を待っていた。


 もう、日が暮れかけ、青々とした夏木立から哀調のある、常夏の旋律の蜩がカナカナ、カナカナ、と過ぎ去る歳月に逆らうように鳴き始めた。



「ごめん、血捨木、からかってばかりで俺は悪かった、と思っている」


 近藤君の声量が一段と低音になっているのに私はハッと気付かされた。


「こんな中途半端な時期に何で、また?」


 近藤君は蜩の鳴き声と同調するように寂しそうに笑った。



「俺の父ちゃんが死んだんだ」


 その返答に私は言葉を失いかけた。


「そんなこと、何で黙っておったんよ?」


「俺の父ちゃんは前々から肝臓がんで治療をしていたんだ。俺が小学生のときから悪くなって先月に」


 こんなことあり得ない、こんなことあり得ない、と私の心中で拒絶する台詞がいやになるほど、鳴り響いていた。



「父ちゃん、アルコールが好きで、好きで身体をよく壊していたんだ。じいちゃんと母ちゃんがほとんど面倒を見ていたんだよ。仕事に失敗してから父ちゃんはどんどん……」


 近藤君の日焼けした眉間に強い皺が出来ていたのを私はちゃんとキャッチしていた。



「だから、最後に言いたかったんだよ! すまん、今までからかって」


 私は何を言えば分からなくなった。


 憎まれ口の彼もまた、冬空に還す渡り鳥のように立ち去っていく。


 それがたまらなく、コミュニケーションの不和による、潰れた胸をさらに塞いだ。


「近藤君!」


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