ページからジャズの音色がほとばしる。それぞれの再起をかけた青春

なにかに真剣に取り組むことを避け、引いた姿勢で物事を見ていた主人公が、あるきっかけでジャズの世界に飛び込み、失っていたものを取り戻すべく音楽に青春をかけていく物語。

悔しさと虚しさを覚える、胸を掴まれるような序盤から、ビッグバンドジャズとの出会い、そして夢に見たコンクールへの道のり。
主人公の成長の過程が、ユーモアのある会話と丁寧な心情描写とともに、テンポのよいストーリー展開で描かれ、青春が息を吹き返す様子が生き生きと伝わってきます。

主人公に負けない存在感を放つバンドのメンバーも魅力的です。明るさと葛藤を内包する彼らの、それぞれの再起をかけた挑戦もこの作品のもうひとつの見どころ。彼らのやり取りに笑わされ、じんとさせられながらも応援せずにはいられません。

現代的な軽快なタッチでありながら、しっかりと地に足の着いた文章。
なかでも演奏シーンのライブ感は素晴らしいとしか言いようがありません。まるで生き物のように躍動する旋律。ページからジャズの音色がほとばしるような熱気。その迫力には読者も聴衆になったかのように圧倒されることでしょう。音楽をここまで文字で描写してみせる筆者の感性と筆力に脱帽します。

どうか最後まで彼らの姿を見届けて下さい。
胸が熱くなる、素晴らしい青春物語です。

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