異世界に放置ゲー理論を持ち込んだら世界最強になれる説

杯 雪乃

放置ゲー理論

転生しましたが?


 異世界に放置ゲーの理論持ち込んだら最強になれるんじゃね?


 異世界に転生した(と思われる)俺は、ベッドに寝転がりながら世界の真理に気づく。


 前世は冴えないプログラマー。放置ゲーのプログラミングをしていた。


 放置ゲームと呼ばれる、スマホが普及したことで台頭してきたゲームジャンル。


 ユーザーがなにか操作するのではなく、ゲーム画面を一定時間放置することによってゲームの状況が変化し、そこにユーザーが何かしらの操作をする事でゲームが進行する。


 仕事に追われ、学業に追われる現代日本において、スキマ時間にちょこっとやるだけで強くなれる放置ゲーは人気が根強い。


 俺は作る側だったが、それでもスマホには1つ2つ放置ゲーが入っていたものだ。


 まぁ、結局は課金勢が強いのだが、それはソシャゲの悲しきサガである。


「あうあうあー」


 異世界に転生して1年目。ゼロ歳児の俺は、文明を感じる中世ヨーロッパの様な天井を見つめながら今後のことを考える。


 先ずはこの世界の事を知らなければ。割と異世界系の物語もを読んでいたこともあって、異世界転生したことはすんなりと受け入れられた。


 多分死因は、過労だろう。


 労基?ナニソレオイシイノ?と言わんばかりにブラックなゲームプログラマーの仕事だ。


 四徹した後、3時間の仮眠だけ取って更に追加の二徹をすれば嫌でも死ねるだろう。


 え?体が弱いって?歳食ったオッサンは二徹でもキツイんだよ。


 あのクソブラック会社はさっさと潰れればいい。


 さて話を戻すが、神のご意志なのかそれとも世界の狭間から落ちたのか。どんな因果かは知らないが、こうして俺は新たな人生を得ることができた。


 ならば、楽しむべきだろう。放置ゲーのように、人生を放置しても金がじゃんじゃん入ってくる楽な人生を歩むのだ。


 その為には、この世界事を知らなければならない。


「あうーあー」


 ゼロ歳児の体は、長くは起きられない。そろそろおねむの時間か。


 願わくば、前世のような学歴社会のクソッタレじゃありませんように。


 俺はそう願いつつ、瞼を閉じるのだった。


 ━━━━━━━━━━━━━━━


 時の流れとは早いもので、あっという間に3年が過ぎた。


 異世界生活にも慣れ、前の世界の文明の便利さを改めて感じる。


 日本はかなり恵まれた国だったと言うのもあるが、結構不便な点が多いなこの世界は。


 それは追々語るとして、この世界の事が大分分かってきた。


「ジーク、またその本を読んでるの?」

「あい!!」


 炎を連想させる深紅の長髪と目。とてもでは無いが30代とは見えない美貌を持った俺の母親であるシャルルは、俺が床に広げて眺める本を取り上げた。


 あぁ、魔術基礎の本が。


「本当に魔術が好きなのね。でも、何が書いてあるか分からないでしょ?私が読んであげるわよ。ほら、ジーク。私の足に座りなさい」

「やった!!」


 お袋は胡座をかいて床に座ると、そこにできた穴に俺をスポッと座らせる。


 ちなみに、俺の名前はジークだ。


 竜殺しを成し遂げた英雄の名から取っており、この世界ではありふれた名前らしい。


 良かった。自分の子に“悪魔ちゃん”とか付けるような頭のぶっ飛んだ親じゃなくて。


「懐かしいわね。私も昔はよく読んだわ」


 お袋は元冒険者の魔術師だ。


 冒険者というのは、何でも屋の様な職業である。時として街のドブさらいをし、時として街の外の薬草を取りに行き、時として魔物と呼ばれる化け物を狩る。


 それが冒険者だ。


 俺はこの職業を知った時、かなり興奮したのを覚えている。


 想像していた異世界だ!!と。


 親父も冒険者らしく、お袋と結婚する際に引退。今では小さな飯屋を営んでいる。経営状況も良好。冒険者時代に仲良くなった人達がよく来ては飯を食い、偶に俺を可愛がる。


 どこの世界でも、子供は可愛がられるようだ。


 そして、魔術師。


 魔術師は、魔術を行使することが出来る者の事全般を指す。弛まぬ訓練とひと握りの才能が無ければ行使することが出来ないらしいが、お袋はそれをさも当然のようにやってのけるので、難易度が未だにわかっていない。


 自分でやってみてもいいが、試してみて死にましたとか笑えないので先ずは知識を仕入れる所から始めている。


「ジーク、魔術はどうやって行使するか知ってるかしら?」

「まりょくをつかって、まほうじんをかく」

「あら、ちゃんと読めてるのね。文字なんて教えたかしら?」


 すまんなお袋。文字は死ぬ気で覚えた。


 家にあるメニュー表と偶に聞こえる客の注文から、大雑把に文字に当たりをつけたのだ。


 後は、ちょくちょくお袋や親父が本を読んでくれるのでそれを気合いで記憶して、記憶を辿りに文字に当てはめるのである。


 思考力は既に大人だ。俺がその気になれば、今からでもプログラムを組むことだってできる。問題は、パソコンが無いことだが。


 もちろん、お袋は俺が3歳児だと思っているので文字が読めていることに驚いた。


「凄いわねジーク。文字がもう読めるなて天才よ」

「うい?」

「........ふふっ、可愛く首を傾げてもダメよ?」


 お袋は頬をつんつんと突きながら、聖母のような笑みを漏らす。


 俺はまだ3歳児。あまり年齢は別れした言動をしない方がいい。ちょいちょい自分の年齢を忘れて、普段通りにしていることがあるので手遅れかもしれないが。


 俺の頬をつついて満足したのか、お袋は魔術の話に戻る。


「ジークが言った通り、魔術とは体内に宿る魔力を使って空間に魔法陣を描き、その力を発揮するの。こんなふうにね“灯火トーチ”」


 お袋は人差し指を立てるとそこから魔法陣が出現し、小さな火種が現れる。


 何度観ても不思議な光景だ。何も無い空間から、魔法陣が現れ火が出ている。


 現代日本に生きてきたおっさんからすれば、この光景だけでテンションが上がるというものだ。


 いつか俺も使えるようになるのだろうか。


 お袋は、目をキラキラと輝かせる俺の頭を優しく撫でると火を消す。


「これが魔術よ。これを行使するためには魔力を感じる必要があるのだけれど、ジーク自分の中にある魔力を感じられる?」

「ん?........んー?わかんない」


 魔力なんて概念がなかった世界に生きてきた人間だ。魔力を感じるなんて出来るわけが無いが、もしかしたら無意識のうちに感知しているかもしれないので“分からない”と返しておく。


 お袋は“まぁ、分からないわよね”と言うと、俺を一旦足から退かしてとある本を持ってきた。


「ジーク、魔術を行使するには、先ず魔力を感じることができるようにならなければならないの。それを読めば、何をすればいいかわかるはずよ。お母さんは仕込みがあるからちょっと行くわね。何かあれば、店に降りてきてちょうだい」

「あい!!」


 俺は舌足らずな返事を返すと、お袋は“いい子ね”と言って俺のオデコにキスをした。


 本音を言えば、本を読んで欲しいのだが(文字を読むのは疲れる)、偉大なる俺の両親は俺を育てるために働いているのだ。


 文句は言えない。


 大人になって気づく親の偉大さ。それを今世では生まれた時から感じるとはな。


 出来れば楽をさせてやりたいものだ。異世界知識チートとかできるかな?


「このほんからよむか........ほうちげーのりろんまでいくのに、どれだけじかんがかかるのやら」


“魔力の基礎”と書かれた本。先に魔術の知識を頭の中に入れてしまっているので、順序が逆になってしまっているが、やることは変わらない。


 俺は誰も居ない部屋でぽつりと呟くと、お袋に渡された本を開くのだった。

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