業炎の魔法師
丸井メガネ
第1話 帝都連続殺人事件(1)
ポッポー
レイモンドは軽快な汽笛の音で眠りから目を覚ます。彼の辺りに乗客はおらず、目の前の席に備え付けのテーブルで真面目に書類仕事をこなす女性軍人がいるだけだった。
「おはようございます少佐、よくお休みになられましたか? 」
「ああ、よく眠れたよミネリア。身体中痛くてたまらんがな。」
「そうですか。では行きますよ少佐、早く降りてきてくださいね。」
ミネリアは素早く荷物をまとめると、彼をを一瞥もせずに早足に降りて行ってしまった。副官として長くいるせいか、レイモンドのこういった性格に慣れているのだろう。
「はあ、それにしても二年ぶりの帝都か......懐かしいな。」
レイモンドは列車の壁に貼ってある帝国軍学校のポスターを見て、懐かしそうに呟いた。
「それじゃあ、俺はこのまま大佐のところに挨拶に行ってくるから、お前は先に三課の方に行っててくれ。」
「わかりました。それではお先に失礼します。」
着任時刻より少しばかり早く軍務局に到着したレイモンドは、ミネリアと別れると直属の上司への挨拶に向かう。二年間も方面軍に飛んでいたレイモンドだが、それまでは中央軍所属だったためか顔見知りを何人も見かけた。
「あれ、レイモンドじゃないか! 戻ってたのか! 」
「ようドレッド、久しぶりだな! お前こそ戻ってるとはな。元気にしてたか? 」
大佐のいる特務部のある三階の廊下でレイモンドは旧友であるドレッドと再会した。中央にいたときに同じ魔法部隊に所属していた彼らは軍部でもトップの実力者であったため、防衛力としてお互いに地方に向かっていたのだ。
「レイモンド、お前もしかして大佐に呼ばれたのか? 」
「ああそうだ。これから挨拶に行くのさ。」
「奇遇だな、俺も大佐に呼ばれたんだよ! 一緒に行こうぜ。」
そう言って二人は並んで歩き始める。
「南方はどうだったよレイモンド? 快適だったか? 」
「あっちは暑すぎてかなわん。俺の魔法属性とも相まって最悪だったよ。東方はどうだった? 」
「こっちは他の戦線と違って戦闘状態だったから大変だったぜ。休暇なんて一回もなかったな。」
二人は他愛のない会話をしながら特務部執務室の前までやって来る。少しばかり古い木のドアを開けて中に入ると、奥の机に向かっていた壮年の老人が嬉しそうにこちらに歩いてくる。
「来たかお前たち! よく来てくれた! 」
「レイモンド・フォン・アルフレッド少佐、ただ今着任しました。お久しぶりです大佐、お変わりないようで何よりです。」
「ドレッド・マクミラン少佐、同じく着任しました。ランベルト大佐、少しばかり老けました? 」
「確かにストレスで老けたかもしれん。実は厄介な問題が出ていてね、君たちを呼んだのはそのためなんだよ。まあ立ち話もなんだから座ってくれたまえ。」
大佐は奥のテーブルに二人を案内すると、ある書類を机にひろげた。書類には最近帝都西地区で起きた殺人事件についてまとめられていた。
「これがその厄介ごとですか? 」
「その通りだ。近頃帝都を騒がせている連続殺人犯、君たちにはこの人物を捕縛、もしくは殺害してもらいたい。それが君たちの任務だ。」
「軍部が殺害を許可するとは意外ですね。それ程危険ですか? 」
帝国軍は国内の治安維持も行っているため、犯罪者を捕まえたりしているのだが、犯罪者は法律によって裁かれるため普通は殺すことはないのである。つまり、今回の相手は相当危険だと言える。
「そうだ。こちらで色々調べているんだが、犯人は魔法師である可能性が、それも一流の可能性が非常に高い。だからお前たちにきてもらったんだ。」
「なるほど......わかりました。なるべく生け捕りにしますが殺してしまったらすいません。」
「帝都の平和は君たちにかかっている、よろしく頼むぞ。事件に関する資料は後で部下にもっていかせるから、先に部署に行くといい。私は会議があるから失礼するよ。」
ランベルトは部下の淹れた紅茶を一気に飲み干すと、扉の前で待っていた秘書官とともに部屋をでていった。
「連続殺人ねぇ......どうも臭いな。」
レイモンドは自身の所属である特務部第三課“特務魔導連隊”の執務室で届いた資料を見ながらコーヒーをすすっていた。今日は三課は揃って非番だったため、室内には彼と副官のミネリア、そしてドレッドしかいなかった。
「何か気になる事でもありましたか? 」
給仕を終えたミネリアが彼女の机でコーヒーを飲みながら聞いてくる。
「いや、死亡者の繋がりを調べてたんだが一向に見つからなくてな。気になったんだ。」
「確か軍部では単独犯による無差別殺人って断定されてたぜ。」
「いや、俺はそうは思えない。証拠や手がかりがほとんど出てきてないのは不自然過ぎる。奴の魔法にもよるが、ここまで尻尾を出さないのは不可能に近い。」
レイモンド達が部屋に来てから送られてきた資料は、犯人に関する情報がほとんど載っていなかったのだ。
殺人の痕跡を完全に消し去るのはほぼ不可能なことだ。単独犯なら尚更である。
ここまで手がかりが少ないとなると、協力者の存在を疑わなければいけない。
「もし仮に、少佐の言う通り協力者がいたとしても、それを探し出すことは余計に不可能です。」
「確かにな......どうしたもんかね。」
その後も三人は資料に細かく目を通すが特に有益な情報が見つかることもなく、気がつけば日がすっかり落ちてしまっていた。
「成果なしですか......予想はしていましたがここまで出ないとは思いませんでしたね。」
ミネリアは三人の資料を丁寧にまとめると、ファイルに閉じてから書類棚にもどす。すました顔をしているものの、その顔はどこか疲れているように見えた。
「しょうがない、今日は終わりだ。」
レイモンドは椅子から立ち上がっておおきくのびをすると、自分のコートをもって部屋を出る。
「情報か......あいつのとこにでもいってみるか。」
軍務局から出たレイモンドは、事件の資料を持ってある場所へとむかってあるきだした。
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