配偶者と私

 配偶者は愛妻家である。

 自他共に認める愛妻家である。


 どうやったらこんな素直に嫁を甘やかせる男になるんだろうと思ったら、その両親もラブラブである。嫁に来た当初は異文化すぎて何も分からなかった。脳みそが理解できなかった。消化酵素がないっていうか。


 みんな仲良し(私から見れば大抵の家族は仲良しだ)だから「遺伝だね」「遺伝だからね」って話がよく上がる。私はそれが苦しい。

 苦しいんだけど、配偶者に伝えたことはない。そうすれば家族の団欒に水を差すどころの話じゃなくなってしまうからだ。配偶者は行動が早い。一回決めたら電光石火で動く。



 

 自分がファーザーコンプレックスであると自覚した時から、父性について考えている。

 純粋に、配偶者が父親になったならどんな感じだろうなと思うんだけれど、想像するのが途中でこわくなってしまう。どうしても【先述】のフラッシュバックが付き纏ってくる。


 父親と配偶者は全く別種の人間である。配偶者は切り捨てる時はずばっと切り捨てて取り合わないが、父親は配偶者であった母親に湿気った生暖かいバスタオルみたいにネチネチ絡んでいた。キモい。

 配偶者は極めて男性的だが、父親は極めて女性的だった。愚痴を言いまくり、聞いてる私たちは赤べこ(福島の伝統工芸品)のように中身を聞かずに聞き流すだけである。そしてこれが説教になると、うんそうですねと聞き手が納得する(ふりをする)まで同じ話を延々と繰り返した。世界の中心が自分のところにあるタイプだ、キモい。

 そして何より配偶者は女の子にセクハラをしない。これは高ポイント。極めて真っ当な倫理観道徳心を持っていたらそんなことはしないはずである。だがこれは高ポイント。

 父親は娘と同じくらいのアルバイトの子にセクシャルハラスメントというか、……携帯のカメラを差し出して「一緒に写真撮って💗」とお願いする悪癖があった。娘及び息子及び嫁は必死に止めた。治らなかった。きっしょ。

 きっっっっっっっしょ! 世の中を舐めている。舐め腐っている。逮捕されろ。


 こうして考えると本当に私と父親がよく似ていて嫌になってくる(セクハラはしません、断じて)。というわけで自己嫌悪で忙しい昨今。

 嫌だ。

 父親になった配偶者が「私の知らない何か」になってしまうのが本当に怖いし、そして父親に似すぎている私が、配偶者にアイソをつかされて切り捨てられる未来が怖い。嫌だ。

 嫌すぎる。


 次にケーキを踏んづけるのは私かもしれない。それが怖い。「遺伝だから」。


 遺伝だからね。

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