おら、ダンジョンで稼ぐだあ~漁師からの成り上がり・・・かも

未来アルカ

第1話 大発見

 午前3時 

 トラックに乗りながら自分の漁船に向かう。


 「あ~疲れ取れねぇなぁー、昨日のテレビでやってた『冒険者の経典』って番組、結構面白かったなぁ」


 『冒険者の経典』はプロヂューサーが重度の冒険者好きらしく、上位冒険者に対し、年収や普段の生活、ダンジョンに潜る際の装備などについて特集している番組である。また、一部の冒険者を神聖視している団体にも人気を出しているらしい。

 あの集団は、結構見ていて気持ちの良いものではなかったな。神とか信じないし。

  

 暗い中トラックを進めていると、一隻の漁船が見えてきた。

 漁船の名前は『英孝丸』。栄光丸って名前も考えたんだが、28歳にして少し恥ずかしい気がしたため、この名前にした。約57ft(フィート),全長19m,全幅4m,深さ,1.3mの漁船だが、一人で乗るにはいささか大き過ぎる。

 元々は父が使っていた船を譲ってもらったため、複数人で活用する前提で造られている。宝の持ち腐れってやつかもな。


 船のエンジンを掛けて、ある程度の準備が済むと、おにぎりを食べながらゆっくりと船を出す。30分程沖に向かうと玉が見えてきた。

 『玉』とは網を仕掛けた場所を分かりやすくするための浮きのようなものだ。

 玉を船の側面に来るようし、まずは玉を揚げる。その後巻上げ機に網を付け、ゆっくりと網を揚げながら水揚げ籠に網を入れていく。

 段々と揚げていくと、網に大量の石が絡まっていることが分かった。


 「んだこれ?どうやったらこんなにも石が網にかかるんだよ‼」


 手元の石を見ながら呟いた。

 それからも網を揚げていくと、どんどんと石のみが水揚げされていき、船の上には大量の石のみが残されていた。


 「おいおい⁈魚はどこに行った⁈マジかよ、石なんか水揚げしてもノルマには届かないってのに。」


 落ち込みながらも先ほどの場所に網を仕掛けて玉を沈めていき、ふと、足元の石に見覚えがあるような気がして、頭を巡らせる。


「どっかで見た気がすんだよなぁ、東京にいた頃かなぁ」


 5時間程かけて全ての作業が終わり、帰りの道でもずっと考えていた。

 岸壁につき船を止め、荷を下ろしていると隣の漁船も帰ってきた。


 隣の漁船の持ち主は60代の山口夫婦で、40年以上漁師をやっている人達だ。良くお裾分けをしてくれていて、肉じゃがを貰って食べた時は心が温かかった。


 「山口さんおはよう!今日はどんな感じだ?」

 「今日はまいねえな!(今日はダメだな)全然魚いねぇもん」

 「んだ、石しか掛かってねえんだもんよ‼」


 山口さんところも石しか掛からないとか、あんのかよこんなこと。

 もう一度足元の石を見ながら考えていると、冒険者を目指していた頃に一度見たことがあることを思い出した。まさかと思いながらも急いで漁業協同組合に向かった。

 漁業協同組合には、作業中の漁師が数人いるぐらいで落ち着いていた。正面から入り、事務に向かうと30代くらいの人が立っている。

 彼は田中たなか 弘人ひろと保育園からの幼馴染だ。同い年の28歳なんだが少し老け顔なため、30代ぐらいに見える。面と向かって言うとめちゃくちゃ怒られるけど、気にし過ぎなんだよあいつは。俺だってどうせなら可愛い女の子の幼馴染がよかったわ‼


 「よう!弘人。少し時間貰ってもいいか?」

 「何だよまた、金なら貸してやらねえぞ?」

 「んなことじゃねえよ⁉これからの漁師に関わる大事な事かもしれねぇんだよ!」


 真剣に話す俺の顔を見て、少し考えてから話を聴く態勢に入った。俺も弘人の耳に顔を近付けながら、話を切り出した。


 「もしかすると、ここら辺の海底にダンジョンが出来ているかもしれねぇ」

 「はぁ⁉海にダンジョンだと⁉とうとう頭もおかしくなったのか‼」


 目を見開きながら、弘人は答えた。


 「おい‼もうちょっと声を抑えろ‼」

 「ああ、悪い悪い、いきなりとんでもないことを言われたからな」


 まあ弘人がここまで驚くには理由がある。

 ここでダンジョンについて説明しよう。

 30年前世界中にダンジョンが出現した。記録によると、ダンジョンの入り口は洞窟のように穴が開いているのみで、ダンジョン内も洞窟のような石壁だったという。その時、各国は調査のために軍をダンジョンに突入させた。

 最初に突入した部隊のうち半数は体調不良により断念したらしい。これはダンジョン内の魔力が人体に影響を及ぼしていると言われている。再度突入した部隊の情報によると、出てくるモンスターはスライムやゴブリンなどの、いわゆる王道ファンタジーのようなモンスターばかりだったという。


 ダンジョンの奥には階段があり、それぞれのダンジョンによって、階層の数や広さに違いがあるのだという。ダンジョン出現後すぐに、無謀にも『俺tuee』などと言いながらダンジョンに突っ込む若者が増え(一部、中年のおじさん達も混ざっていたらしい)、犠牲者が増加してしまった。

 政府は国民へ迅速な対応が出来なかったと謝罪し、ダンジョンを一時的に封鎖。その後、モンスターを倒した後に残る石や皮、鉱石など様々なものが研究により、有用な物として証明された。2年後には冒険者管理組合が設立され、国民からも冒険者になりたい者を募集し、適性がある者を冒険者として認め管理する方向に動いたらしい。

 

 少し話が長くなったが、ここで重要となる事がある。それは、今ままで発見されてきたダンジョンが全ての形をしたダンジョンだということだ。ダンジョンが出現してから確認されたダンジョンの数は、合計約3万6200件である。そのすべてが洞窟型のダンジョンで、一度も海の中にダンジョンがあるなど、ありえなかったのだ。


 ここにきて冒険者を目指していた時の知識が役に立つとはな。


 「とりあえず、この石を見てくれ」


 ジャンパーのポケットから、先ほどの石を取り出して机の上に置く。


 「この石がどうしたんだ?」 

 「今日水揚げした時に、この石が仕掛け網いっぱいに絡まっていたんだ!ちなみに魚はゼロな!どうやら山口さんのところもそうだったらしい。おかしくないか?俺だけならばまだしも、漁師歴が長い山口さんのところも同じ状況になるなんてよ?」

 「確かにな。で?俺に何をして欲しいわけ?」

 「まずはこの石を冒険者管理組合に送って、魔石ではないか確認してほしい」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る