第2話:出撃準備は食堂で
「お前も賞金につられた口か。よっぽど金に困っているんだろうな」
出撃前のブリーフィングルームで隣に座った、ひげ面のこわもてあんちゃんが俺に声をかけて来た。
「そうだが。賞金がいいから当分食いつなげる」
にーちゃんはひげ面の上半分をゴーグルで隠している。
俺もそうしている。
これは竜騎兵が誰かをふせて、敵に暗殺されないようにとの配慮だ。
フリーランスは危険がいっぱいなのですよ。
「ドラゴンは大食らいだからな。すぐに軍資金がなくなっちまう。俺も生活苦に負けてこんな危険任務を……」
「危険? どんな? 敵兵力は少ないんだろ?」
「それがな。相当やばいぜ。あの白銀の竜騎兵なら仕事はいくらでもこなせるんだろうが……」
俺が問い返そうとしていると、少佐の階級章をつけた指揮官がブリーフィングを始めた。
「今回の作戦目的は、敵の戦力と即応体制の確認だ。敵の反応次第では兵力を集中して大攻勢に出る。結果次第では敵首都まで侵攻を開始する」
……まさかね。
本気の大攻勢じゃないでしょ。
この百年続いている戦争は、最近では双方グダグダになっていて、適当に戦闘をして帝都では普通に経済成長、みんな優雅に暮らしている。
俺たちのような辺境生活者以外はね。
「我が任務部隊のコールサインはスカイラーク。私がラーク01。参加隊員はそれぞれの席順だ」
パイプで作られた質素な椅子の背もたれに番号がふられている。
俺は13だ。
このパイプ椅子というものは、このガストン帝国の初代皇帝で、異世界から召喚された勇者が考案した伝統的なものだ。
この国には、ところどころ初代皇帝が愛用した言葉や道具などが伝わっている。
貨幣も、帝国では最初のころマックとモッスという貨幣が同時に使われていたという。
他国でも、ココやドミノー。遠く東の島国ではヨシノーやマッツといった通貨もあるという。
「ラーク13。君は周囲警戒任務だ。本隊より前方、距離五〇〇〇を先行してもらう。奇襲に気をつけろ」
いやぁ。
それ、はっきりいって囮ですか。
さすが受け手がいない仕事ですね、はい。
これは真剣に準備をしないと。
ああ、へそくりがなくなってしまうぅ。
◇ ◇ ◇ ◇
「マ、マックス様! これ。全部食べていいです? いいです!?」
「ああ。全部食え! へそくり全部使って買ったブタの丸焼きだ。心して食え。あ、俺にもちょっとだけ食べさせて。少しなら大丈夫かな?」
軍司令部脇の食堂で、竜騎兵が出撃する際に用意されている山盛りの肉類が、多分ドラゴンなのであろう少年少女の集団に食い尽くされていく。
肉はこいつらの燃料だ。
これは官給品ではない。
きちんと料金を支払う。
俺達は軍に所属していない傭兵の立場。
自由の代償として危険な任務につくんだけど、出撃賞金だけじゃ満足にドラゴンも飛べないのだ。
竜騎兵はほとんど食事が出来ない。
ドラゴンから魔力を受け取りやすくするためだ。
食料はドラゴンに。
竜騎兵は腹ペコ。
どうしてこういう仕様なんだ!
なんでも初代皇帝とその騎竜であった始源の竜との盟約で「ドラゴンには一番いい肉を食わせれば人間に奉仕する」のだそうで。
戦うのは人間。
ドラゴンは基本、平和主義者だ。
そのドラゴン達。
肉が燃料なのだが、戦闘が長引いたりすると持って行った弁当を食べさせる。
俺もちょっと欲しいです、その肉。
人間にも人権を、いやもっと肉券を!
さてと、大量の肉がフィーアのお腹におさまった。
「フィーア。魔力調整するぞ」
「はいです」
俺はフィーアと相対して立ち、両手のひらの指を絡めた。
ドクンドクンと魔力が循環しているのを感じる。同時に俺も満腹感に包まれる。
これでいつでも肉エネルギーが俺を伝って武器に込めて攻撃できる。
その後、食堂に併設する武器商人のブースに行き、見るからに因業そうな爺さんに注文を出す。
「じいさん。このケースいっぱいにアレ詰め込んで」
「あいよ。A定か? B定かい?」
「いや。今日は奮発してS定でたのむ」
「ほぅ。コスパは大丈夫なんだろうな」
俺はS定食が詰め込まれていく自分の銀色の長い筒状弾薬合(弁当箱)を見て、よだれが出るのを押さえながら答えを返す。
「最低、賞金二〇〇〇は出るから大丈夫だろ? じいさん、そう言うことだからツケを効かせてくれよ」
「だめだね。この戦場稼ぎにはツケは効かねぇ。ツケを言い出すものは大抵帰ってこないからな、ふぉふぉふぉ」
仕方ない。
SSS級の弁当をお守りとして一つは用意したかったが。
気休めだけど、お手製の軽食を作っておこう。
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