御箱行者の話

 おはこ行者って知ってる?うん、漢字で書くと御箱行者だね。


 江戸時代後期──年号はどうも曖昧なんだけどね、箱根のとある宿場町の近くに箱造りを生業とする男が住んでいた。まぁ、寄木細工だよね。

 男は手先が器用でね、造る箱はどれも、仕掛けが巧みなことはもちろん大変に美しくよく売れたそいだ。


 さて、男には妹がいた。気立ての良い娘で、兄を慕い嫁にも行かずによく支えてくれていたという。


 兄も妹をとても大切にしていて傍目には夫婦のようだったそうだよ。


 ところがこの妹、ある時あっさり病で亡くなってしまった。


 嘆き悲しんだ男は寝食も忘れて箱造りに打ち込んだ。


 やがて男は妹がすっかり入るくらいの巨大な箱を造り上げた。そしてその中に妹を入れると、家を捨てて箱を荷車で曳きながら旅に出た。イカレてしまったのか、あるいは正気で、男にできる一番の弔いの形がそれだったのかも知れない。


 念仏を唱えて歩くその姿を、人々は御箱行者と呼んだとか。

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