場外乱闘:最初から想定されていた結末

【第1話】

「あの豪華客船はどうなっている?」



 株式会社ゲームファンタズマ会長、合歓木宗次郎ねむのきそうじろうはリクライニング機能のついた椅子にもたれかかっていた。


 会長室には相変わらず無数のラジオが置かれ、今日もまた『【OD】が事件を起こしました』などの内容のニュースが垂れ流しにされている。その言葉だけで満たされた会長室は、立っているだけでも頭が痛くなってくる。

 秘書である都姫黒臣みやびくろおみは「あと5日となります」とだけ伝えた。あの豪華客船には大量の爆薬が積んであり、7日後には太平洋のど真ん中で大爆発を引き起こすという算段である。周辺は海に取り囲まれているので、生き残る人物はいない。


 この世で最も忌むべき存在――【OD】のみを乗せた死の方舟である。せいぜい死んで、世の中の掃除に貢献してもらおうではないか。



「誰か死んだか?」


「たくさんの人が豪華客船内で死んでいるでしょう」


「あの男はどうなっている?」



 宗次郎が問いかけた『あの男』とは、孫娘を殺した犯人である。


 彼は眠り姫の【OD】で、孫娘を昏睡状態にさせた上で無惨に殺したのだ。その話を聞いた時、初めて宗次郎の胸の内に怒りの感情が湧き出てきた。

 世の中の【OD】は誰も彼も頭の螺子が吹っ飛んでおり、話を聞く姿勢はまるでない。だからこそ必要のない彼らを船に詰め込んで、爆発と共に海の底へ沈むように仕向けたのだ。この豪華客船の旅に、あの男もいたはずである。


 あいつはどうなっただろうか。7日を待たずに死んだか、それとも用意されていると勘違いした脱出手段を使って早々に爆発しただろうか。いずれにせよ、状況を確認しておきたい。



「確認いたします」



 黒臣は小脇に抱えていたタブレットを起動させる。タブレットの表面に指先を走らせていたのだが、ふとその動きが止まった。



「どうした?」


「見えません」


「何だと?」


「状況を確認することが出来ません」



 黒臣が大股で床に配置された小型のラジオを跨いでくると、宗次郎の目の前にタブレットを突きつける。

 タブレットでは遠隔から豪華客船を監視できるようにシステムが組まれていたはずなのだが、画面が真っ黒に染まっている。システムは起動しているようだが、電源が切れている訳ではなく真っ黒な画面だけがある。


 信号が途絶えた? だとしたら何故?



 ――ピピピピ、ピピピピ。



 すると、どこからか電子音が響き渡る。


 音の発生源は黒臣の社員用携帯電話からだった。紐で繋がれた携帯電話を懐から引っ張り出すと、宗次郎に「失礼致します」と告げてから電話に応じる。

 話の内容を聞いていると、どうやら1階の受付嬢からのようだった。携帯電話から甲高い声が漏れ出ている。



「来客ですか?」


『はい』


「そのような予定はありませんが」


『先方も「アポイントは取っていない、至急に対応していただきたい」とのことで』


「それはどのような方ですか?」


『ええと』



 受付嬢は名前を確認する素振りを見せてから、黒臣に名前を告げた。



『ユーシア・レゾナントール様とリヴ・オーリオ様です』

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