第49話 ごめん!

 令和から1989年の昭和になぜかタイムスリップした僕……。


 →暴力教師、怖っ!でも友達もできた。同じ令和男子がいた。

 →頭の悪そうなチンピラ高校生に追われて、再び焼却炉に逃げこむ。


 →2023年の令和に戻った!

  でも昭和の女の子まで一緒!


 →戻る扉はもう開かなくなってます………ああ……どうしよう。

→いまここ。


 増田さんは、怪訝な顔で僕を見た。


「なに?」


「河井君、なにか隠してることある?」


「いや、別に……」


 増田さんはふて腐れ気味にガチャガチャと開かない非常口の扉を触っている。


「そっか……開かないなら、先に欲しい洋服の所……行こう」


 増田さんは昨日見かけたワンピースを試着した。試着室から名前を呼ばれる。


「ねえ、似合うかな?」


「うん、とっても似合うよ」


「明日ディズニシーに着て行きたいの」


「いいね、すごく!」


 薄い水色のカジュアルなワンピースは本当に増田さんに似合っていた。ジーンズの増田さんも可愛いけど、スカートは断然可愛い。


「……もぉ、河井君て適当なんだよね……」


「そ、そんなことないよ。本当に似合ってるし。上原君だって、そう言うと思うよ」


「上原君は優しいけど、しっかり意見を持ってるの」

 意外とキツいことも言うんだよと続ける。


 …………なんだ?……おのろけか?


 なんてことを思った矢先、急に増田さんは狭い試着室で涙を浮かべた。


 上原君や香織さん、柏木たちを思い出しているに違いない。


「もう会えないね……」


「……会えるよ、みんなに。大丈夫。きっと扉は開くよ。それか、前に話したでしょ……こっちにあった焼却炉。そこに行ってみよう」

 増田さんは俯いて首を振る。


「違う違う、博子さんにとっても良くしてもらったし……それと……」

 

 え?博子さん?今朝のこと?と、思っていると……増田さんは僕を強く引っ張った。僕はそのまま、狭い試着室に入れられた。


「え?ちょっ……」


 慌てて脱いだスニーカーが転がる。


「な、なに?!」

 増田さんは泣きながら、僕を抱きしめた。とても強く。女子と体をこんなにもぴったりと密着させたのは生まれて初めてだ。しかもこんな狭い場所で。

 彼女は僕の肩に手を回していた。


「ありがとうね」


 ええ?なにこれ?こっちこそありがとう……

 じゃなくて!


 ごめん上原君!僕が望んでしてるわけじゃないから!願ってないから!

 現在1989年にいる上原君に言ったところで伝わらないけど。


「僕の方こそ。いろいろありがとうだよ」


 彼女は回した腕を解いて、僕の顔を見つめる。増田さんの顔に涙が伝った。

 僕は彼女の涙を優しく拭おうとした、そのとき−。


「ごめん!」

 増田さんは強い口調でそう言って、バシッと手で僕の手を払った。

 そして小さな声で-。


「先に言っとくね」


 え?


「キャーーー! 誰かー! 助けてー!」


 はい?


 大声で叫ぶ増田さん。すぐに女性の店員がやって来て、カーテンを開ける。


「ちょっと! なにしてるんです?!」


「いや、違います!」と僕。


 女性の試着室に入り込んでいるさえない少年。横で泣いている可愛らしい少女……。


 もう弁解無理でしょ。


 スーツを着た恰幅のいいサラリーマンが、僕を取り押さえた。


「この変態野郎!」


 いやいやいや、違うんです!


「違います! 友達ですよ。知り合い」

「嘘つけ」


 本当なのにー!


「ごめんなさい!」

 増田さんは急に謝って、その場から逃げ出した。


「お、お客様ー!」


「増田さん?ええ?」


 店の店員、サラリーマン、僕………。

 あっけに取られて固まってしまった。


「本当に知り合いですか?」と女性店員。


 僕は激しく頷く。


「……あの、洋服の代金が未払いです」


「……」


 あ、あー!あのアマー!!



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