第6話 まさかの再会


5年が経ち、冒険者の存在は表舞台から姿を消しつつあった。


「婆さん、ほら害獣駆除の仕事は終わったよ」

「ありがとねぇ、やっぱり冒険者ってのは身近にいるから頼みやすいよ」

「まぁ俺はもう違法の存在だけどな」


しかし裏ではひっそりと冒険者として何とか生計を立てている者もいた。


俺もその一人、反乱軍に加わるように言われたが冒険者というのは人の為にする者でありそういう事は本末転倒だろうと考え拒否した。

今では片田舎の町で勝手に商売を始めている、万事屋のようなものだ。


「......」


やはり人生というのは後悔の連続だ、クリンにしたあの行為が良かった事なのかわからない、彼女の意志を尊重するべきだったのではないか、そう思う時もあった。


ボロイ小屋で時折場所を移しながら生活する日々、かつて思い描いた冒険者とは全く違う。


トントンッ


ドアをノックする音がする。


「いま開けますよっ」


開く――


「――」


栗色のショートヘア―をした華奢な女の子。


「見つけました――」

「――クリン」


クリン=ラーナーン、もう20歳、のはずなのにあまりにも変わってなくて驚いた。

随分と古臭くなっても、剣を帯刀しているその姿は冒険者時代をそのまま投影したような初々しさを感じさせる、そうあの時のお前のまま――


「ッ」

「ぅぁ――」


ドアを蹴りとばし、怯んだ隙にそのまま外へと出る――


「待っ、待ってください――」


お前は軍人で俺は冒険者、悪いが相容れない、逃げ道は考えてあるのだ山道には裏道が――


「――ッ」

「――早いッ」


俺が山道を走る中、クリンは木々をサルのように右へ左へとジャンプしながら追いかけて来る。


「クリンッすごいな」

「この5年、強くなったんですよッ!」

「あぁ、だが俺だって遊んでた訳じゃ――」


風の刃を手に纏い――


「ない――『カマイタチ』」


空中にいるタイミングを見計らい魔法を撃つ――


「隙ありです――」


クリンもまた俺と同じタイミングでこっちに飛び掛かる――


「『両断剣』」


『カマイタチ』を剣の一太刀で切り裂いて、そのまま――


「うわッ――」


俺を押し倒すようにのしかかって来た――




「......」


彼女は俺の身体の上で座りながら見下ろしている。

こう近くみると、彼女の顔立ちには拍が付いていた、軍人生活で色々とあったのだろうと察せられた。


「久しぶりです、リオ」

「......この5年で本当に強くなったな、クリン」

「貴方のおかげですよ」

「いいやお前の実力だよ」


確かに基礎を教えたのは俺だがたかだか5年で20年近く冒険者をやっていた俺を倒してしまうんだから。


「さぁ、俺を捕まえるなり殺すなり好きにしろ」

「?何をいってるんですか?」

「俺を捕まえる為に来たんだろ?お前の意志を無視して軍人にしたんだ、恨まれても文句は言えない、ほら、抵抗しないさ」

「――ッ」


パンッ


強い平手打ちを食らわせれる。


「いった......なんだよッ――」

「こっちが言いたいわよッ貴方を殺すですってッ?違うッ!」

「......」

「貴方を探してたのよ......」


彼女の瞳からは涙が零れる。


「クリン......」

「......冒険者が正式に消えて5年、私たちは強力して諸問題を解決していこうとしていた」


しかし、長い年月を冒険者に依存していた、それをたかだか数年でどうこうするというのは上手くいかなかった。


「私たちが解決できなかったトラブル、それを解決していたのは貴方達のような冒険者だった」

「......」

「表向きじゃ言えないけど、ひっそりと活動していた冒険者への支持はいま草の根的に広がっているの......」


5年前の冒険者による反乱を支持しなかった数少ない冒険者は個人、もしくは陰ながら支持していた人々の協力もあって活動していた、それが......


「そうか......」


そうか、俺たちの活動は独りよがりじゃなかったんだ。

無意味じゃなかったんだ......。


「......ねぇ」

「なんだ?」

「もう少しだけ待っていて、私は必ず冒険者という職業を復活して見せる」


彼女は強い意思を瞳に燃やしていた。


「ねぇ約束してほしい、何時か必ず、もう一度冒険者として貴方のパーティに入れてほしい」

「あぁ......勿論だよ」

「そしたらね......」

「そしたら......?」


彼女は頬を赤らせてもじもじとしている。


「なんだ?」

「――結婚してくださいッ!」

「あぁ良いぞ......んあッッ!?」

「ッッッ約束ね!?」

「ァッ待て、違う、違うッて!?」


俺が言うのも聞かないで彼女は山を颯爽と駆け抜けてしまった。


「あーあ......」


風が木々を揺らす。


「......まぁ良いかな......」


今までになく心が安らいだ、穏やかな気持ちだった。

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