コオロギ、犬、イカ




詳しい説明は省くが、文明は崩壊した。


壊れた建物が散乱し、人類は絶滅の危機に瀕している状態。


世紀末と化した世の中に、モヒカン頭で肩パッドを付けた二人組がバイクを走らせ海辺に到着する。


そこら辺で拾った木の枝に糸と針を括り付け、釣りをしていた。






◇◇◇






「なあ、知ってるか? イカって食えるらしいんだ」


「え、何いきなり、普通そういうのって一見食えなさそうなのを出すんじゃねぇの?」


「まあ考えてみろ、俺たちが産まれた時には既にイカが食える事が確立してたが、初めにイカを食ったヤツは一体どんな気持ちで食ったんだと思う?」


「...そりゃあ、なんか美味そうだなって思ったんだろ」


「だよな、で本題なんだが、ここにさっき拾ってきたコオロギがいる」


「通りでさっきからリーリーうるせえ訳だ」


「そして今俺はめちゃくちゃ腹が減ってる」


「もう二日も食ってないしな」


「昆虫っつーのは栄養豊富で牛とか豚とかと比べても遜色ない位らしい」


「へぇ〜、そいつは凄いな」


「見た目に目を瞑れば最高の食料って訳だが、昆虫にゃあいかんせん寄生虫が多い、だから生で食うのは極力避けた方がいい」


「まあ出来れば生で食いたくないな」


「そこでだ、お前一回目瞑って口開けてみろ」


「嫌だよ!! 絶対食わせるつもりだろ!? 今のうんちく自分で語っておいてよくガン無視できるな!?」


「そういうなよ〜、先っちょだけ! 先っちょだけだから!」


「先っちょだけの方が嫌だわ!! どうせ食うんだったら丸ごと一気に食った方がマシだわ!!」


「なあ、知ってるか? コオロギって食えるらしいんだ」


「やめろなんで二週目に入るんだよ!! 無理なもんは無理だって言ってんだよ!! つか自分で食えばいいだろ!?」


「え...だって腹壊すのやじゃん」


「俺だってやだわ!! 何でそれ人に押し付けようとするんだよ!」


「じゃあ一緒に食おう! せーので食えば怖くないだろ? ほら沢山取ってきたから!」


「うわ気持ち悪っ!! 何で虫かごにすし詰め状態になってんだよ!! どう考えても取りすぎだろ!! こんなん食ったら食中毒二人組が完成するだけだろ!! 」


「いいか? もうこのコオロギは俺にとって昔の人のイカなんだ!! なんか美味そうだなとしか見えないんだよ!! ちなみに今の『いいか』と『イカ』は掛けてる!!」


「お前結構余裕あるな!? クソくだらねえダジャレ言ってる場合か!? 今日何も釣れなかったら俺ら飢え死にだぞ!?」


「さっきの『いかんせん』も実は掛けてたんだ!」


「そうだと思ったよ! スルーしてやったのに掘り返すな自分から!」


「止めるな! 俺はもう食う!!」


「止めてねえよ! 食うんだったら勝手に食えよ!!」


「うをぉぉおおおお!!!」


「うわぁほんとに食ってる!」


「ボゲぇぇぇぇ!!!!!」


「きったね!!なんでゲボこっちにかけてくるんだよ!?」


「......ちょっと、想像以上に不味かった...」


「だろうな!! 想像つくだろそれぐらい!!」


「無理だこれ、魚の生き餌にしよう」


「もうお前のせいで体力めっちゃ食ったわ...」


「何を食ったって!?」


「ほらもう空腹過ぎて頭おかしくなっちゃってる!!」


「あーあ火さえ起こせればなぁ〜」


「危ねぇけどさ、ちょっと山の方行って山菜でも取りに行くか? 野生動物とかいるかもしれねえし」


「そうだな〜俺達のケツにゃあ火がついてる状態だしなぁ」


「余裕あるねお前!? よくこの状況でそんなくっそ寒い親父ギャグみたいなの言えるよな!!」


「肉が食いてぇよお!」


「食えるなら俺も食いてぇけど現実的じゃねえだろ...ん?ちょっと待て...何か聞こえないか?」


「コオロギの鳴き声しか聞こえないが?」


「うるせえなこれ!? 邪魔だから海に落とすわ!!」


「あああああああああああぁぁぁ!!!!俺が沢山集めたコオロギがぁあああ!!!」


「もっとうるさい!! ちょっと黙ってろって!!」




アオーン!




「やっぱ聞こえる...これ犬だ!!犬の鳴き声だ!!」


「え、犬!?」


「そうだよ! そういえば中国じゃあ犬を食う文化があるって聞いた事がある!」


「なあ、知ってるか? 犬って食えるらしいんだ」


「今同じ事言ったよな!? さっさとバイク乗って捕まえにいくぞ!!」


「おう! やっとまともな飯にありつけそうだぜ!!」






◇◇◇





詳しい説明は省いていたが、文明が崩壊した理由は突如として地球に現れたドラゴンのせいだった。


大小様々なドラゴンが建物を破壊し、人々を食い散らかし、文明を破壊したのだ。





◇◇◇





「なあ、何でドラゴンが犬のリードを持ってるんだ?」


「そりゃあお前、飼ってるんだよ」


「飼ってる訳ねえだろ!? クソやられた!! あの犬は生き餌だ!!俺達ぁ嵌められたんだよ!!」


「ちょっと何言ってるか分かんねぇ」


「何で何言ってるか分かんねえんだよ!! あの犬の鳴き声に呼び寄せられた俺達を食おうってんだよあのドラゴンは!! ほら飛んできたぞ!! 応戦するしかねぇ!!」


「なるほど! 上手い作戦だなそりゃ!」


「感心してる場合か!? 来るぞ!!」





バクッ





「あ、相棒───ッ!! だから逃げろって言ったのに!! 丸呑みにされちまった!!」


「グワアアアアアアアアアアア!!!!!」


「な、なんかドラゴンが苦しみ始めたぞ!? 何が起きてるんだ!?」




ズブッ、ブシャアアアア!!




「うわッ! 腹が裂けた!?」


「ふ〜危なかったぜ! やっぱ食うもんには気を付けないとな」


「お、お前! 生きてたのか!?」


「まあ何とかな、やっぱ生で食うとこうやって腹壊す事があるからちゃんとぶっ殺してから食べねえと危険だよな」


「腹を壊す、って文字通り過ぎるだろ! てか凄いなお前! 見ろこのドラゴン!! お前がぶっ殺したおかげでこんなデカい肉が手に入ったぞ!!」


「あ、ホントだ!! めちゃくちゃ美味そうだなこのドラゴン!! 今日はパーティーにしようぜ!!」


「ああ! 今日だけは火を焚いて焼肉パーティーだ!!」








◇◇◇







「ええ〜今日もドラゴンの肉炒めなの?」


「そうだぞ〜今日もハンターの人達が沢山ドラゴンを狩ってくれたんだ」


「ねえお父さん、初めにドラゴンを食べた人って一体どんな気持ちで食べたんだろうね?」


「それは...なんか美味しそうだなって思ったんじゃないかな? だから最初にドラゴンを食べた昔の人に感謝して、残さないでちゃんと食べるんだぞ!」


「うん、分かった! いただきまーす!」


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