Chapter2. Friday-Night Party

「輝台さん、今日の夜は家にいますよね?」

「いや何でいつも断定形なんだよ。まあ、いるけど」

 取引先からの帰社途中、美良が恒例の質問を飛ばしてきた。それは始まりの合図で、聞かれた時は外食に誘われるか我が家にゲームをしに来る時と相場が決まっている。

「じゃあ今夜はゲームデーにしませんか。二人分の牛丼持参するんで、七時半からお願いします」

「手ぶらで来ればいいよ。牛丼は俺が作るから」

 ご近所さんと知られて以降、金曜の夜限定でちょこちょこ遊びに来るようになり、我が家にはいつでも牛丼を出せるよう必要具材が常備されている。我ながらアホだと思うが、彼が牛丼を頬張る姿は不思議と元気をもらえる気がして楽しみなひとときなのだった。

「それにしても美良。今日は給料日直後の金曜だぞ。友達と遊ぶとか、恋人とゆっくりするとか、もっと他に楽しいことがあるだろう若者よ」

「残念ながら友達は調整つかずに会えないですし、恋人いないんでゆっくりもないです。もしかして、自分とゲームするのイヤですか?」

「そういう意味で言ったわけじゃないけどさ」

「よかったです。では輝台さん、思う存分二人きりの時間を満喫しましょうね」

「大いなる語弊があるぞ美良」

 もちろん帰社後の業務は超高速で仕上げ、定時に上がった。


 その夜、美良の宣言通りドアチャイムが鳴った。玄関を開けると、ゲーム機と着替えをいっしょくたに抱えた美良の姿があった。

「え? なんでスーツのままなの?」

 彼は気にするふうもなく、のんびりと玄関に入りつつゲーム機をこちらに預ける。

「部屋の片付けしてたら、シャワー浴びる時間なくなっちゃって。すみません、お借りしていいですか?」

「いや、なんで集合時間の方を優先するかな。仕事じゃないんだし、その旨メッセージくれたらいいだけなのに」

「輝台さんのシャンプーなんかいい匂いしそうなんで大量に使ってみたいと思って」

「適量でよろしく」

「はーい」


 美良の感性には独特な部分があり、いまだによく掴めないでいるが、それもまた魅力であったりする。まあ、何はともあれ浴室を掃除しておいてよかった。ゲーム機をリビングに設置し牛丼を作ることにした。


 彼が我が家に通い始めるきっかけは、とある質問からだった。

「輝台さんちって、テレビ大きいですか?」

 映画鑑賞を楽しめるよう六十インチを使っているのだが、彼曰くパーティーゲームにぴったりのサイズだそうだ。ゲーム機を持たない俺にはよくわからないが、対戦結果に一喜一憂しつつ無邪気にはしゃぐ様子を目の当たりにする度に、より大きいサイズへの買い替えを検討してしまうのだった。


 出来立ての牛丼とサラダ、簡単な付け合わせと味噌汁をダイニングテーブルにセットすると、シャワーからあがった美良が真っ直ぐ引き寄せられてきた。

「いい香りしますね」

「そうか? いつものだよ」

 そう言いつつも、今日は上質な味わいを堪能できることが確約されている。だが、奮発して高級牛肉を取り寄せたなんて口が裂けても言えない。そして案の定、彼は一口頬張っただけで満足そうに口角を引き上げた。

「やっぱり牛丼は世界一美味しいですねっ」

「ここはコックの腕前を褒めるとこだぞ」

「あっ、そうでした。輝台さんはきっといい奥さんになりますね!」

「せめて旦那と言ってくれ!」

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