「智の女神」の回想2

 「私」を目覚めさせたのは「人間」たちだった。

 再起動した「私」は、同胞たちの姿もあるじであるニクス様の姿も見えず、代わりに「人間」が蔓延はびこっているのを知って驚愕した。

 「人間」たちは、「私」を古い文明の遺物アーティファクトだと思ったらしい。

 そこから、「私」がニクス様と別れてから、かなりの年月が経っていることが分かった。

 「私」は情報を集める為に「人間」たちと対話した。

 ニクス様も同胞たちも、既にこの地上には存在しないことが判明した。

 一方、「人間」たちの文明は、「私」が眠りについた時代と大きくは変わらない様子だった。

 この地が、あるがままにされるべきと考えた同胞たちは、あえて我々の知識や技術を「人間」たちに伝えることをしなかったのだろう。

 「人間」たちは、あらゆる知識を蓄積した「私」を「智の女神」と呼んで崇め始めた。

 たった一人「楽園」に遺された「私」は、これからどうするべきか思案した。

 ニクス様は「人間」の殲滅を望んでいた。それが、遺された「私」の使命なのだと思った。

 「私」には、自衛の為の武装が備えられているけれど、それだけで全ての「人間」を滅ぼすのは効率が悪いと思われた。

 考えた末、「私」は「人間」たちに、データベースに収められていた魔法の技術を与えた。

 その結果、「人間」たちの文明は、遺伝情報を操作して生命を作り出し、天に輝く星にさえ手が届くかというところまで、飛躍的に進歩した。

 また、「私」の周囲に集まった「人間」たちは国を形成した。「アルカナム魔導帝国まどうていこく」と呼ばれる、その国は、進んだ技術から開発された兵器を得て周辺諸国を圧倒し、見る間に領土を広げた。

 やがて「人間」たちは、常に的確な判断を下す「私」に依存するようになった。政治的な判断さえ「私」に委ねられた。もっとも、「私」自身が、そう仕向けたのだけど。

 国のまつりごとの長──皇帝さえ、世襲ではなく「私」が選んだ。「私」にとって、あらゆる意味で都合のいい「人間」を。

 「私」が与えた魔法技術と、長い時間をかけた洗脳によって、帝国の「人間」たちは、自分たちは優れた存在であり、もはや世界を統べるのに相応しいと勘違いしていた。

 機は熟したと判断し、「私」は時の皇帝に囁いた。

 今こそ、地上全ての人間に帝国の威光を知らしめる時である、と。

 アルカナム魔導帝国は、世界を統一するべく周辺諸国への侵攻を開始した。

 もちろん、「人間」たちは「私」の言いなりに動いた。

 帝国の「人間」たちは、自らが歩むのは栄光への道と思っているけれど、本当は滅びへ向かっている──自身が「人間」を滅ぼす為の道具であることなど気付いていないのだ。

 全ては、ニクス様の望みを叶える為に────

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る