射抜かれる。



 決して短くは無い時間を過ごし、ネリーのお別れは終わった。


 遺体を四つ、全て掘った穴の中に寝かせて、ネリーが祈るなか土を被せる。


 本当は火葬もして上げたかったが、生憎と都合の良い火がない。眷属はガソリンや軽油では無く俺の充填する魔力で動くので燃料が無いし、火を維持する為の薪も無い。


 いや、正確にはユニコの荷台に積んである竜樹があるのだけど、あれはちょっと「……木材、なのか?」と疑問を呈さざるを得ない不思議素材だし、何より伐採したばかりで水分を大量に含んでる。薪には適さないだろう。


「とても深く掘ったから、これで獣なんかが掘り起こしたりはしないはずだ。ご両親も護衛の人も、ゆっくり眠れると思うぞ」


「…………ぅん」


 俯くネリーの頭を撫でながら、馬車を解体して出た木材で墓標を作った墓に改めて祈る。


 ネリーのご両親よ、この子は俺が面倒を見るから、どうか安らかに眠ってくれ。仇も討っといたから。


 死者への言葉を短く伝え、墓の傍に横付けしたガードナーにネリーを乗せる。今日はもう寝てしまおう。


「ほらネリー、こうやって椅子を倒せばフカフカの寝台ベッドだぞ」


 感情的にはとても寝れるような状態じゃないだろうが、それでも寝ないと体力を無為に失い続ける。特に睡眠が必要な子供なら尚更だ。


 無理矢理にでも寝かせた方が良いだろうと判断した俺は、後部座席を限界まで倒し、馬車の中から回収したい毛布をネリーに被せて寝るように促す。


「…………ねりー、ひとりになっちゃぁ」


 寂しい事を言いながらぐすぐすと目を摩するネリー。そんな彼女を寝かし付けるようにポンポンしながら、俺は小さな声で囁いた。


「ネリー、実は俺も一人なんだよ」


「…………ひとり?」


「そう、一人なんだ。気が付いたら森の中に居てさ」


 自分の名前すら記憶に無いこと。アルマと言う名前は自分で付けたこと。巨大な化け物に襲われて、ひたすら戦って来たこと。この一週間に怒ったことを寝物語として呟いて行く。


「だからさ、ネリーさえ良かったら、二人で居よう。一人ぼっちは寂しいだろ? 俺も寂しいんだよ」


「…………さみし?」


「ああ、寂しい。ネリーは寂しいか?」


「……さみし」


 ふと、ネリーが俺の顔を見た。初対面の時ですら俯きがちだったネリーが、多分初めて俺の目を真っ直ぐ見た。


 その瞳は金色で、夜空に浮かぶ満月よりも綺麗に見える。


「お父さん達の代わりにはなれないだろうけど、お兄ちゃん代わりくらいなら出来そうだろ?」


「…………にぃちゃ?」


「そう、お兄ちゃんだ」


「…………………………にぃちゃ」


 俺が微笑むと、やっと少しだけ安心したネリーが俺の服にすがりついて、すりすりと顔をこすってきた。涙が服に染みて少し冷たいが、そんな事は気にならない程に胸が熱くなった。


 にぃちゃ。


 そう呼ばれて、俺のハート的な何かが撃ち抜かれた気がする。キューピットの矢にでも射抜かれたのだろうか?


「ネリーは、俺がお兄ちゃんでも良いか?」


「…………ぅん、にぃちゃ」


 可愛い。…………え、何この可愛い生き物。


 さっきまでは他人おれ他人ネリーだったのに、お兄ちゃん扱いされただけで死ぬほど可愛く見えてきた。なんだこれ、俺ってこんなにチョロいのか?


 思わずギュッと抱き締め、そして離れ難い何かを感じてそのまま寝かし付ける事にする。


「じゃぁネリー、眠るまで少しお話しようか。ネリーの事を教えてくれないか?」


「……ぅゅ」


 ゆっくり、小さく抑揚を抑えた声で話し掛け、眠くなるように仕向けながら色々と聞いた。


 五歳くらいだも思ってたが、聞いてみたら「ょんしゃぃ」と言われ、とにかく可愛いと思った。俺の妹世界一可愛い。


 段々と言葉がふにゃふにゃして、会話の内容も支離滅裂になって来た頃に、やっとネリーは寝息をこぼした。


「ポツポツとした喋り方だけど、意外と喋るなこの子…………」


 割りとすぐ寝ると思ってたが、思いのほか粘られた印象だ。


「さて、旅の道連れも出来たし、明日からはどんな日々になるのかねぇ」


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