第6話

「協力してくれたお礼として北部基地の将軍が持っていた別荘や土地、高級そうな装飾品をもらったぞ」

「?よかったじゃないの。なんでそう浮かない顔してるのさ」

メモンはドレッドの顔をじっと見る。

「いや、この世界に帰れる場所、家がもらえたのはいいけど、そこで誰も待っててくれないとも思ってしまって……家に帰ったら家族がいて欲しいんだ」

メモンはドレッドに家族がいないのを悟った。

「そうだったのかい……」

メモンはしおれて言う。

「あ、それとその別荘はいつ帰ってきてもいいそうに掃除をする使用人を一人おいてくれているらしい。ものすごい待遇だな」

「今回の戦果を全部南部基地のおかげと喧伝してるからその分の埋め合わせでしょう。もらっておきなさいよ」

「それはさておき、これからどうするの?お金はあるしそのお屋敷でくつろぐのも……」

「いや、図書館でちらっと見たんだが、ここから南西に山一つ挟んでクレーブ平原という大陸で一番の平原かつ川があって肥沃な土地が、人間の土地になっていたんだ。だからそれを見に行きたい」

「……人間のものとなったのはつい最近よ。歴史も最新のこともしらないのねぇ」

「俺の故郷は田舎だろ?しかも大陸から離れてる島だし。知らないのも無理ないだろ」

「じゃあこれも知らないのね。人間と獣人の争いが激しくなったのはクレーブ平原が原因よ。肥沃な平地だからね」

「なるほどなぁ。言われてみれば当然だよな」

一呼吸おいてドレッドが言う。

「メモン、クレーブ平原に連れて行ってくれるか?」

ええ、あんたとならいいよ、とメモン。



クレーブ平原までは大きな山脈が一つあるのみで、それを超えると景色は一変し豊かなものとなるらしい。

防寒具を着込んだドレッドを背中に乗せたメモンは吹きすさぶ風の中山脈へと向かう。

山脈がどんどんと近づき大きく見えてくる。

そして超えると……景色は本当に変わった。

豊かな薄緑色の平原がどこまでも広がり、地面も森から平原に変わる。大きな川がおそらく海に向かって流れ、水の流れが大地に刻まれている。

「すげえ広さだ……」

またしてもドレッドは景色に感動していた。

ドレッドはこの世界のことを全然知らなかった。

メモンはそこまで感動はしていなかった。人間との争いの元だったし、この平原の存在もかなり前から知っていたから。

そのまま飛んでいくと、たくさんの畑が見えてきた。肥沃な平地ならば当然だった。畑の数は数えきれないほどであり、それは人間の発展具合をも示していた。その後、人間の街が見えてきた。

クレーブ平原に降り立ち、街に入る。

メモンは最大限獣人であることをローブなどで隠している。

「めちゃくちゃ発展してるなぁ……!」

今度はドレッドは人の街の発展ぐあいに魅了されていた。大通りを走る蒸気機関車、背の高い建物群、大きな公園、噴水、

そんな中、誰かが言った。

獣人だ、敵だ、と

ドレッドは背筋が凍る思いをした。

ドレッドは周りを見渡し、大体の人の目がメモンに向けられているのを知る。

そいつらの目は明らかに軽蔑や恐怖の目をしていた。

メモンは下を向き、目を合わせようとしない。

ドレッドはメモンの手を取り、今まで来た道を全力で駆けていく。

ドレッドは知らなかった。どれほど差別があるかを。淡い希望をもっていた。目の前で差別を見るまでは信じたくなかったのだ。

街の外の田んぼ付近まで来て、ドレッドは止まった。痩せた体で全力を尽くし走った。

そして、言った。

「すまなかった。差別のことは知っていたが……信じたくなかったんだ。キミと、街を見てみたかったんだ」

「……一応、私も少しは希望を持ってたんだ。ここは初めてくる街だったし、どうなるかなんてわからないからさ……もしかしたら差別がないかもと思ってたんだけどね」

クレーブ平原は人間と獣人が争って人間の科学技術で勝利し得た土地、それゆえに獣人に特に厳しいのかもしれない。そう考えた時にはもう遅かった。

メモンも、ドレッドも人間の一番発展した街の外で反対に消沈していた。

「……差別には理由があるはずだ。もしも理由がクレーブ平原を巡ったものだけならどうしようもないが、それ以外の理由があるならなんとかできるかもしれない……」

メモンは黙って聞いている。

「メモン、少し待っててくれ、この街は大きい。図書館はあるはずだ。調べてくる」

メモンはこくんと頷いた。

ドレッドは街へと歩んだ。



「理由、理由……」

本をめくりながら呟く。

これが差別の理由です、などと簡単に答えを用意してある本なんてないため、なかなかハードルが高いものだった。

ドレッドがなんともなしに聖書を開いた時に発見は起こった。

「……そう言うことかよ!」

聖書には獣人は悪魔の末裔で人間とは相容れないものと記してあった。

300年前の聖書にはそんなことは書いていなかったことは覚えている。都合よく変化したのだろう、とドレッドは思考を巡らせた。


メモンの元に戻る頃には夕陽がメモンを照らしていた。ほんの数時間しかたっていないのに、距離や時間を感じた。いや、俺なら、俺ならば差別なんかしない。メモンを一人の人間として接せる!

「メモン!分かったぞ。聖書だ、聖書が原因だ」

「……おかえり。帰ってこないかもって思っちゃったよ」

膝を抱いている今のメモンはひどく落ち込んでネガティブになっているように見えた。尻尾も心なしか項垂れているように見えた。

ドレッドは背中からメモンを抱きしめて、

「俺は差別したりなんかしない。メモンはメモンだ」

飾り気のない率直な言葉だった。

そして

「俺たち人間がすまない……」

「……それ、2回目だ」

ふふっとメモンは軽く笑った。

街の宿に泊まるわけにはいかなかったので、またも野宿。

前回と違うのはここが温暖な気候だからあまり夜でも寒くはない点だ。

「これも、2回目だね」

メモンは少しは明るくなっている。

ああ、そうだな、と返す。


「ごめんね……やっぱり我慢できないわ」

メモンは夜の中立ち上がり、そう言った。

ドレッドは何がしたいのかわからず困惑していると、その答えが返ってきた。

カチッカチッという音がするとすぐに

身長の5倍はあろうかという大きな炎が横一線に現れた。

それはメモンの口から出ていた。

バチバチと火が燃えるのも、1回目の野宿と同じだった。1回目と違うのは、すぐに火が消えた点だ。

「あー……すっきり!」

「今の行為に意味なんてないよ、単なるストレス発散」

メモンはすっきりとした顔をこちらに向けた。

「ねえドレッド、ドラゴンの獣人は胸がみんな大きいの。なんでか分かる?」

ドレッドはいきなりで、かつ内容も突飛故に黙りこくった。

「そんな固まらなくても……火炎袋が入ってるからよ。今見たでしょ?あの炎。ふふふ」

メモンは上機嫌だった。

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