第35話 依頼者亡きクエスト


ギルドに到着した4人は受付に声をかけ冒険者証を見せながら「竜の渓谷やその近辺にクエストはないかな?」と全が聞く。


「こんにちは! 私はフォルダン冒険者ギルドの受付係ムムと申します。4人で行かれるのですか? アルテミスさんとルナさんがパーティを組むのは珍しいですね! ......なるほど。あなた方が噂の......! 少しお待ち下さいね!」


受付係のムムは挨拶をしながら全と武仁の冒険者証をまじまじと見るとカウンター越しには見えなかったが隣で事務仕事をこなしている男を引っ張ると窓口に顔を出させる。


「こちらが当ギルドのマスター、サードさんです! ほら、ギルマス! この方々ですよ......!」


引っ張り出されたギルドマスターのサードはこれまでのギルドマスターとは風貌が違い、単一レンズの眼鏡をかけたスマートな容姿で冒険者ギルドにはあまり似つかわしくない男だ。


「これはこれは、はじめまして。ワンドやニドからの連絡でお話はお伺いしています。王都からの伝達もありお2人は今や領主や貴族、騎士団や傭兵団にとどまらず冒険者すらも知る有名人ですよ、お会いできて光栄です。各地で繋ぐ者リンカーへ恩恵を付与し各領地の戦力拡充をしながら厄災の芽の討伐をされていらっしゃるのですよね。その上冒険者としてクエストまでこなして頂けるとは......流石は聖人の器、感服致します。それで、今日はどのような?」


と話したところでムムは「竜の渓谷やその付近にクエストがないかと仰られています」とサードに言うと「これは二度手間をさせてしまうところでしたね、失礼しました」と言うとサードは何やらカウンター下から分厚い帳簿を取り出し、それをパラパラとめくるととあるページで手を止め話を続ける。


「......そうですね。受注してから随分と経ちますが、誰も受けない、受けても失敗続きのクエストが一つあるにはありますね......依頼ボードの端の方、ひときわ古びた依頼書があるのがお分かりでしょうか? そちらを確認した上で受注されるとあればこちらに依頼書をお持ち下さい」


そう言われ4人は依頼ボードへ近付くと端の方にある依頼書に目をやる。

依頼書は他とは違い紙ではなく布切れで出来ており長年張り出されているからなのか布はほつれ印字されている文字もところどころ薄くなっているがその依頼書には秘境の発見と書いてある。


文字も読み取りづらくこれまで見てきた依頼内容とは違うと感じた全は依頼書を剥ぎ取りサードに渡すとクエストの詳細を聞いた。


「帳簿によるとこの依頼はもうかれこれ数百年は前から貼り出されているようですね。竜の渓谷の最奥に秘境と呼ばれる場所があると言う依頼者は再び赴きたいが場所がわからないと言う事で依頼を出されたようですね。クエストは依頼者から依頼を受けた時点で報酬はギルドが預かりますので達成すればもちろん報酬をお渡しはできるのですが......何せ依頼者は既にお亡くなりになっておりますから、情報もこれだけしかないのです」


サードは依頼内容について話すと、あわせて危険性についてやこのクエストの難易度についても語り出した。


「竜の渓谷は竜の棲家と言われていますが、その辺りは出現する魔物が強く並の冒険者では太刀打ちすら出来ません。しかし帳簿にある記録によると報酬が破格であるためこれまで数多の冒険者がこのクエストに挑戦しているようですね......命を落とすまではなくとも全員が秘境についての収穫を得ることなく戻ってきています。このクエストとは別で過去にSランクの冒険者が竜の渓谷で竜と遭遇した事例ももちろんありますが1体討伐するのがやっとなほど桁外れに強大な魔物なのは確かです。しかしこれにより竜の渓谷にはっきりと竜が棲まうと言う事が判明したのですが......危険性も高く竜の渓谷は未開の地と言って良いほど全容は明らかになっていませんし、そもそも秘境と呼ばれる場所が実在するのかさえわかりません。いかがされますか?」


サードは古い帳簿を確認しながら丁寧に案内してくれたが、全と武仁は迷わずクエストを受注すると返事をした。


アルテミスとルナは尻込みしている様子だったが、武仁が2人の肩をポンと叩くと「心配すんな!」と一言発し、その様子を見ながら全はサードに「危険と判断すれば僕の転移(ワープ)魔法で脱出します」と言うとサードも「わかりました、ではくれぐれもお気をつけて」と4人を見送った。


「危惧する点はいくつもありますが.......まず竜の渓谷はフォルダンの東にあり、崖下なのでまずは崖下に降りる方法から考えなければなりません。それから秘境があるとした場合、道中はどの程度の日数がかかるのかもわかりませんし日持ちする食料の調達も必須でしょうね。あとは......」


ギルドから出るとルナがフォルダンを出る前に最低限の難所と準備品について口を開いたが、武仁は食い気味に「食料は必要だがいざとなれば転移(ワープ)してフォルダンで飯食って転移(ワープ)でまた渓谷に戻れるんだぜ? それに崖下だろうと全がいれば関係ねぇと思うぞ?」と言うと全はアルテミスとルナに向けて話しかける。


「一緒に戦うとなるとある程度何ができるか知っておいた方が良いね。まず武仁は棍棒を使う前衛職(アタッカー)で見えない敵すら感知しさらに見えないままに必中で攻撃ができる。更に魔物を使役(テイム)したりも可能だよ。僕は六属性の魔法が使えてあとは鑑定や錬成と魔法構築して生み出す事ができるんだ、崖下に降りるのは僕の魔法で可能だと思うよ」


それを聞いてルナは「......一般の冒険者の概念は捨てなければいけないわね。頼りにしているわ、お師様」と言うと「しかし全さん頼りきりと言うのもいけませ! 水や食料だけは最低限準備していきましょう!」とアルテミスが言うと4人は食堂へ向かい数日分の飲料水、それから食料は包んでもらい全が収納にしまい代金を支払うとフォルダンを出発した。

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