第17話 火神の真珠


マグマ山での真の目的、火神の大樹を目指す2人はここからは案内役(ナビゲーター)のリンとズチがいた方がスムーズだろうと言う事で2人を呼ぶとお馴染みのメロディとともに顕現するリンとズチ。


「リン、ここから火神の大樹まではあとどれくらいかかるかな?」


そう全が問うとリンは火神の大樹はマグマ山の頂上にあるといつもの口調で答える。

続けてズチがマグマ山と呼ばれる所以や豆知識を教えてくれた。


『マグマ山とはその色はもちろんのこと、火神様を祀る大樹が頂上にある事からついた名称。千年に一度の厄災の前には聖人の器が全ての神の大樹を訪れるため、代々その土地の領主が定期的に討伐や探索クエストを出しマグマ山の山頂へ続く道は魔物さえ多く出現はすれど獣道と言うには歩きやすい道が続いているのはこれが所以ですぞ』


話を聞きながら歩き続けて8合目を越えた頃には陽も落ちはじめ辺りは薄暗くなってきた。

全は光属性生活魔法の電灯(ライト)を唱えると足元を照らし「後少しだし今日中に終わらせよう」と懸命に前進する。

それからしばらく歩き続け山頂に到着した時にはすっかり陽は沈みきっていた。

武仁も流石に疲労の色を隠せず到着するやその場に足を投げ出し座り込み天を仰いで「......疲れた」と漏らす。


全は電灯(ライト)で火神の大樹を照らすとその太く大きな幹は天に届けと言わんばかりに背を伸ばし幾つにも別れた枝には赤々とした葉がまるで空を覆うように生い茂る、その存在感に圧倒される。


全は武仁を呼び厄災の種を出すように促すと武仁は収納から厄災の種を取り出した。

すると厄災の種はふわりと宙に浮き武仁の掌を離れ光を放ちながらひび割れると表面はボロボロと剥がれ次第に真っ赤な宝石のように姿を変えてゆく。


『それは火神の真珠です〜。火神様の御心に触れる事のできる宝珠、同時に厄災の種を火神様が浄化した証にもなります〜。お2人とも大樹に触れてみて下さい〜♪』


そうリンに言われ2人は火神の大樹に触れる。

その瞬間、激しい勢いで情報が頭に流れ込んでくる。

一瞬の出来事にまだ整理がつかない2人にリンは『この世界の創世にまつわる記憶を垣間見たのです』と言った。

2人は各々が得た情報を擦り合わせようとしたが、どうやら2人とも同じ情報のようで『その必要はないですぞ』とズチが言う。


「この世界について......断片だが少しわかったよ......」


そう全が言うとリンとズチは頷いた。


2人が見た火神の記憶、それは、この世界は7の神々によって一から創り出された世界であり、神々はあらゆる世界を見て廻り世界の不条理や争いに深く憤った。

そこで穏やかな世界を創ろうと生み出したのがこの世界であったが、その最中意見が割れてしまう。

それにより魔物が誕生し厄災が起こる事となるが、神々には創生後にはこの世界へ干渉してはならないと言う理があり、その理に背けばこの世界は消滅してしまうと言う事実だった。


ズチは力無く話した。


『神々は理に縛られている。干渉してしまえばこの世界に住む人々は消滅する......。しかし、そのままにしていては厄災により悲劇は免れない。その為に理の外である他の世界より聖人の器を厄災に対抗し得る力を授けた上で召喚しているのだ......』


「皮肉な話だぜ......優しい神様がよぉ、そんな世界を創ろうって時に仲違いしちまって、結局は争いは避けられなかったって事だろ?」


神の使いであるリンとズチは何とも居心地の悪い顔をしながらも再び静かに頷いた。


「気持ちはわかるけど......神様って傲慢だよなぁ......。だけど、少しだけ事情がわかった。もし解決する手立てがあるのなら......そんな世界を僕も見てみたいよ」


ここまで案内ありがとう、と伝えるとリンとズチは無言で頭を下げスウっと消えた。


「まだ解せないことはたくさん残っているけど、とりあえず一歩近づいたかな......」


全が言うと武仁は「あぁ」と短く返事をし「そろそろカルカーンへ戻ろうぜ」と言った。

全は「そうだな」と言うと転移(ワープ)を唱え一瞬で2人はカルカーンへ戻る。

夜も更け月明かりに照らされる城下町カルカーン、明かりが灯るのは酒場くらいのもの「ギルドへの報告は明日にしよう」と全が言うと2人はそのまま宿屋へ直行した。


部屋に入るやベッドに大の字で転がる武仁と全はこの世界の記憶に触れて心中はまだ晴れないが歩き疲れた疲労が勝りそのまま深い眠りに落ちた。


ーー翌朝ーー


目覚めた2人は挨拶も交わさずしばらくボーッと天井を見つめる。

火神の大樹に触れて垣間見た創生の記憶の断片にそれぞれ思いを馳せているのだろう。


しかし何はなくとも腹は減るものだ。

武仁のお腹が鳴ると「ご飯を食べたらギルドへクエストの報告をしに行こう」と全が言い武仁も「おぅ」と返すと部屋を出た。


3回目の食堂でもやはりボアステーキを注文する2人「米が欲しい」と言う武仁に「それは同感だ」と全も返す。

サッと食事を済ませると足速に冒険者ギルドへ向かった。

ギルドに到着すると受付のマムにまずは全が溶岩蜂の巣の位置を報告する。


「全さんお疲れ様でした。溶岩蜂の巣の位置はギルドから領主様へ報告の上で冒険者へ周知しますね! 溶岩蜂は巣に近づかなければ無害なのでこのクエストはCランクですが、もし近づき過ぎると近づいた者を徹底的に追いかけ毒針で執拗に攻撃してきます。溶岩蜂の毒針は致死性はないものの刺されれば麻痺して動けなくなりそこをバイオレットベアに襲われると言う事になりますし、仮に冒険者が街へ逃げ帰れば街まで追いかけて来ますから、毎年探索クエストを出して巣の位置を周知するんです。例年このクエストは熟練の方がこなして下さるのですが、ちょうど他のクエストにあたっておりましたので助かりました!」


そう言うマムはクエスト報酬として金貨15枚を全に差し出した。

全が金貨を受け取ると「次は俺だな」と言いながら武仁が全に視線を送ると全は収納からバイオレットベアの討伐証明である毛皮を取り出しカウンターにドサッっと置くとその量にマムは驚嘆した。


「ちょっと......! なんですかこの量は......!?」


全は武仁に代わり溶岩蜂の巣に到達する5合目辺りまでに出没したバイオレットベアを全て討伐したらこの量になった旨を伝える。


「......バイオレットベアは確かにマグマ山を住処とする魔物ですが、通常であれば群をなさず警戒心が強い為人を避ける習性があります。遭遇しても5合目付近までなら2〜3匹程度、それにバイオレットベアは仲間が襲われた場所を危険だと判断し避けるようになります。......これも厄災が近づいた事による異変の一種なのかもしれません」


そう言うとマムは一瞬顔を曇らせたが、仕切り直して続けた。


「ともあれ武仁さんもお疲れ様でした! こちらがクエスト報酬になりますが、討伐証明は別途査定し買取も可能です。いかがされますか?」


マムからクエスト報酬として金貨15枚を差し出されると武仁はそれを受け取りながら返答した。


「あぁ、頼む。それとよぉ、頂上まで行って厄災の種を浄化したんだがよ、途中から熊が色違いになったんでそれも倒しといたんだが、こっちも買取できんのか?」


そう言うと再び全は収納からブルータルベアの毛皮を取り出そうとしたが、カウンターにはバイオレットベアの毛皮が折り重なっており置けない為カウンター近くにあるテーブルの上に積み重ねた。


「......これは......Bランクの魔物ですよ......と言うか......!? 厄災の種を浄化!?」


マムは耳を疑いながらも、目の当たりにした山積みの毛皮は実力を裏付けていると確信し、2人に待つように言うと慌てて2階に駆け上がりギルドマスターを連れて戻ってきた。

マムに連れられて下りて来たワンドは折り重なる毛皮を見ながら2人に話しかけた。


「ほお! これは凄いな! しかし......厄災の種を浄化したと言うのは?」


ワンドが問われ武仁は火神の真珠を見せる。


「待て待て待て...... 厄災の種を浄化できるのは聖人の器だけだぞ! マムが慌てるのも理解できる、私も混乱しているようだ......と言う事は......武仁は聖人の器なのか?」


ワンドは取り乱しながらもすぐさま状況を整理し武仁に再び問いかけた。


「俺より全のが説明は得意だからよ、こいつに聞いてくれ」


と武仁から会話を丸投げされた全は、仕方なし、と言う顔をしながらワンドに「鑑定を使って見てもらうのが早い......それから話をしよう」と答えるとワンドはこれを了承し、鑑定スキルを持っているのはカルカーンでは領主のクリスティナだけだと言うとすぐにマムにギルドを任せ領主邸へ2人を連れて向かった。

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