第8話 初クエスト


 2人は、依頼書が無数に貼られたボードの前に立ち、一通り目を通すと、それぞれ一枚ずつの依頼書を手に取った。

 全はDランククエストの3種類の薬草採取、武仁はCランククエストの街道沿いの調査、と書かれた依頼書を、受付窓口にいるマムに手渡す。


 「全さんは採取クエストですね。通常、採取クエストは1種10本でEランクなのですが、こちらは3種類をそれぞれ15本ずつとなりますのでDランクになっています。しかし、採取系のクエストは時間がかかる割に、報酬は討伐系や他のクエストと違い低めです。それでもよろしいですか?」


 全は自身の鑑定スキルを試したい様で、二つ返事でクエストを受注した。


 「武仁さんは調査クエストですね。こちらは昨日出されたばかりのクエストで、知っての通りカルカーン周辺にBランクの魔物ホークアイが出現した事で、領主様より出された依頼になります。この辺りでは普段。Eランクの魔物くらいしか出現しませんから、何もなければラッキーで高報酬! しかし、昨日の今日ですしまだ出現した原因もわかりません......。万が一、危険なクエストになる可能性もあります。それでも受注されますか?」


 武仁は腕試しがしたいのだろう、全に続き二つ返事でクエストを受注した。


 「承りました。それではお2人ともお気をつけて!」


 マムは依頼内容を受付名簿に写し取ると2人を見送った。


 ギルドを後にした2人は、まずは全の採取クエストで、その後に武仁の調査クエストを進めよう、と話しながら歩いていた。

 すると後方から「おーい」と声がし、振り返ると、ケインが走ってこちらに向かって来ているのが見えた。


 「はぁ、はぁ......ギルドに行ったら会えるかなと思って、マムに聞いたら入れ違ったと言われてね。追いかけてきたよ」


 昨日のケインは騎士団の鎧を纏っていたが、今日は非番だと言う事で、腰に剣は携えているものの、革の胸当てをつける程度の軽装だ。


 銀色の短い髪に、端正な顔立ち、人の良い気質、更には騎士団副団長である。

 昨日はそれどころではなく気が付かなかったが、ケインは城下町で人気があるのだろう、道ゆく女性がキャッキャと話しながら、ケインに目を止めていくのがわかる。


 「クエストに出るんだって? しかも調査のクエストも受けたと聞いた。今日は非番だし、良ければ同行させてくれ」


 その申し出を断る理由もなく、彼には恩もある。

 それにこの世界での理解者や協力者も必要だ、と考えた全は「是非一緒に行こう」と快諾した。

 武仁もケインを気に入っている様子で「俺の邪魔はすんなよ」と生意気を言いながら口角を上げた。


 城下町カルカーンを出た3人は、街道沿いをしばらく歩く。

 道中ケインがこの辺りの地理や、クエストポイントについて話をしてくれた。


 カルカーンから東南に位置する、迷いの森林、それが今回の採取クエストの目的地だと言う。

 そう、全と武仁が落ちて来たあの森林だ。

 奥に入ればEランクの魔物が出現し、更に奥に入ればDランクの魔物が生息しているが、森林入り口辺りには滅多に現れないらしく、入り口は薬草の採取ポイントとされていると言う。

 それが踏み跡のあった理由か、と全は理解した。


 ケインは続けて、カルカーンより東北には水上の街フォンダンがあり、そこから北へ登ると王都ボルディア、東南へ降ると竜の渓谷があるのだと言った。

 ケインの話はタメになるものばかりで聞き飽きない。

 気付けばあっという間に目的地の迷いの森林に到着していた。

 入口から草木が青々と生い茂っている。


 「ケイン、道中色々教えてくれてありがとう。採取ポイントに到着したし、ちょっと採取してくるよ。......えーっと、採取対象は......薬草15本、毒消草15本、月見草15本、っと。......鑑定!」


 依頼書を再確認してから、鑑定スキルを使用した全の目には、ゲームでよく見る▶︎アイコンと、薬草の名前と効能が表示されて映った。

 瞬間、ケインが驚嘆しながら全に声をかけた。


 「全は鑑定が使えるのかい!? これは驚いた! ちなみに俺のステータスを見る事もできるかい?」


 そう言うケインの方を向く全の目には、はっきりとケインのステータスも映る。


 「そうだね、ケインは職業が騎士、レベルは32だ。全部言うかい? 例えばスキルに直感があるね」


 「凄いよ、正解だ! 鑑定なんて大当たりのギフテッドじゃないか! 商人になれば間違いなし、ギルドでも引っ張りだこのレアスキルだよ! だが......俺の直感スキルも......結構イケてるだろ?」


 そう言うとウインクしたケイン、全と武仁は今までのケインの立ち回りは、直感スキルに後押しされたものだったのか、と納得したと同時に、人が良すぎる気質が故の詐欺には合わずに済みそうだな、とホッと胸を撫で下ろした。


 「じゃあ本番! 奥まで行かずともあらかた終わりそうだし、少し待っててね」


 それから全は森に入り、目当ての薬草を次々と採取し、遥か向こうから来る荷馬車が通り過ぎようとする頃には採取を終わらせた。


 「楽しくなって少し採取し過ぎたかな......。まあ使いどころもありそうだし良いか......収納!」


 全は採取した薬草を収納すると「おまたせ」と武仁とケインの元へ戻った。


 「次は俺だな」と武仁は張り切ったが、次の瞬間には「街道沿いってどこまで調査すればいいんだ?」と振り返りケインに聞いた。

 ケインは「真っ直ぐ進むと小さな村がある。そこまで行って戻れば問題ないだろう」と話した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る