第3話 現状把握 ~スキル目覚める

「おちついた?」


「ああ……一応」


 しばらくのち、とりあえずパニックは収まった。

 俺はふーっと息を吐き、


「とりあえず、ここは奈落、なんだよな?」


 隣にちょこんと座ったレリアに問う。


「そうよ。あなたは、どこから落ちてきたの?」


「ダンジョンの、最下層。つまり、地下10階からだ」


 俺はなんとなく上を見上げる。


「へえ、初めてかも、そんな人。大抵、地下5階より上からだよー!」



 レリアの話によると……


 ここは、奈落村。

 奈落に落とされても、なんとか命を取り留めた人たちが作った村だという。

 

 点在する緑水晶の輝きで光を、地下水脈から水を確保し、奈落に生息する動物を狩って生活しているらしい。


 人口は数十人程度……よく生き延びられているものだ。


 

「あなた、魔法でアニマートの花を助けたでしょ?」


 レリアが俺の顔を覗き込みながら言った。

 花……あの時、ライトの魔法で元気になったあれか。


「ああ。しおれてたのが、気の毒で」


「あの花は病気を治す力があるの。


 おかーさんの病気を治すために花を探してたら、あなたの魔法の光が見えて。


 近づいたら、花がとても元気になってた」


 そして、俺を見つけて、助けてくれたのか。


「おかーさんはすごく元気になったわ。


 普段はしおれた花しかなくて、その花から作れる薬は効果が弱いの。


 でもあの花からとても良い薬が作れて。あなたはおかーさんの命の恩人なの!」


 ぺこりと頭を下げるレリア。


「その話をおかーさんにしたら、何としてもあなたを助けなきゃ、って。


 急いであなたの魂を確保して。


 でも、一度死んだあなたの体にはもう魂は戻せなくて……」


「だから、この女の子の体を使ったのか?」


 自分の体を見下ろし、もう一度鏡を見直す。

 15、6歳ほどだろうか。レリアとそう変わりなさそうだ。


 しかし胸はこっちが勝っている……下から両手で支えてみるとなかなかの重量感。

 揉みごたえも……って、何やってんだ俺!


 レリアは話を続ける。


「魂のある体には、他の魂も入れられるんだって。


 魂と魂が引っ付くみたい。ぺたって」


「……融合とかしないだろうな?」


「してほしいの? ゆーごーしたら、人格がほーかいするっておかーさん言ってた」


 崩壊、って怖っ!このままでいいです。


「その子、おかーさんが言うには……


 もう二度と目覚める事のない呪いにかかってるんだって。


 だからその子にはちょっと悪いかなと思ったけど……


 あなたの魂が失われることのないように、って」


 で、この体に魂を入れた……か。


「そうか。確かに、あのままだと俺は死んでいた。


 というか既に死んでたんだったか。助けてくれて、ありがとう」


「おかーさんに言って。ネクロマンサーの秘術を使ったのはおかーさん!」


「まず、君が俺を見つけてくれたからな」


 俺も頭を下げる。


「えへへ。お花探してたら、たまたまだけどねー!」


 照れたようにレリアは笑った。


「ん?」


 今気づいたが、俺の片方の足首には鉄の輪がかけられている……

 つまり、奴隷出身の子ということだ。

 

 冒険者の中には、荷物持ちとして奴隷を使うパーティもたまに居るらしい。

 そいつらが、何らかの理由で奈落に落としたのか……

 

「そういえば、呪いがかかってるって言ってたな」


 おそらく、迷宮で呪いの罠を受けたか。

 そして足手まといとして、処分されてしまった可能性が高い。


 ひでえ事しやがる……俺も同じ理由で突き落とされたわけだが。


「あ、これこれ!」


 と、レリアがなにやら丸い、何かの実らしいものを持ってきて渡してきた。


「これは?」


「アニマートの実。元気な花がたまにつける、奇跡の実だって。


 あの花、元気になって、実を付けてた。これはあなたのものよ」


「良いのか?奇跡の実なんてものを」

 

 しかしレリアはぽんとそれを手渡して来る。


「あなたが助けた花だもの。花も、あなたに受け取ってほしいと思うわ。


 食べると、美味しくて、とても元気になるとか、不老不死になるとか……


 神にも悪魔にもなれるとかいう話!」


 後半すげえ、うさん臭いんですが。 

 ……そういえば、めちゃくちゃ腹が減っていることに気づいた。


「あたしたちのごはんは……


 奈落の動物を狩ってくる、遠征隊って人たちが帰ってくるまで、おあづけ。


 今日中には帰ってくると思うけど……


 いまのところ、あなたに食べさせるごはん、なくて」


「じゃあ、半分こしようか」


 と実を割ろうとすると、


「だめー! それはあなたの実って言ったでしょ。


 遠慮せずに食べて! あたしはおかーさんの所へ行って来る!」


 と、レリアはどこかへ行ってしまった。

 助けてもらった礼のつもりでもあったが……


 まあ、命を助けてもらってこの実を半分、で済ますのも帳尻が合わないかな?


 俺はこれでも、貸し借りはキッチリしたい性格なのだ。

 他のことでしっかり、礼はしよう。


「うむ、ちょうどお腹もすいてるし……頂きます」

 

 ばくばく……おお、確かに美味い。


 薬用の花の実だし、苦いんじゃないかと思ったが。

 どの果物とも似てない、不思議な甘い味だ。


「……なんか、元気が出てきた気がする。調子は上々、いや。万全だ」


 と、その時。


 床に置いてあった小道具入れから、とつぜん光が放たれた。

 

「なんだ? ……俺の身に着けてたものも、回収してきてくれたのか。

 光ってるのは冒険者カードか」


 冒険者カードというのは、ギルドから発行される認識票みたいなものだ。

 個人情報やスキルレベルなどが刻印されている。

 本人にレベルアップなどの変化があると、自動的に刻印された内容も変化する。


「光ったのは情報更新によるものか? ……男から女になっちゃったからなあ」


 小道具入れからカードを引っ張り出してみる。


 俺の体が変わっても、魔力で登録した本人の情報は問題なく刻印されていた。

 全魔法スキルLV1も相変わらず……そして性別、男から女になってるよ。


 まあ、けっこう可愛いのが救いだよな……い、いや!

 元に戻る方法を何とかしないとだ!


「つか、変化はそれくらいか……ん、これは!?」

 

 カードの項目に、【固有スキル】という新たな項目が追加されている!

 俺は元々、そんなもの持ってない。固有スキルの所持者はかなりのレアケースなのだ。


 ここに来て、何か新しいスキルが加わったのか?! 


「……まさか、アニマートの実のせい……!?」


 実に関する妙な伝承は、ある程度の真実味があったという訳か。


 どんなスキルが追加されたのか、緊張しながら読み上げる。

 なになに?


「スキル名。【強く、可愛く、頼もしく】……?」



 ……なんだそれは?!?!?

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