サッカー部顧問

薄桜 春。はくおう しゅん

 続けて読むと相撲取りみたいな名前だが、全くもって痩せている。中性的な顔立ちと、長く伸ばした髪を横で結んでいるため、女性のようにも見える。

 サッカー部顧問で、俺の担任。国語教師。

 そして、七年前、冬月雪兎のチームメイトだった人。

「いや、でも綺麗なシュートだったよ。うん、雪兎みたいだった」

「何、言ってるんですか。俺なんか雪兎先輩の足元にも及びませんよ。あの人なら、キーパーがいても決めてるだろうし。お世辞は止めて下さい」

 俺は冬月雪兎のことを尊敬の念を込めて「雪兎先輩」と呼んでいる。先輩と実際に会ったことはないが、この高校に入った時からそう呼ぶと決めていた。

「そう謙遜するなって。……あ、そうそう、吉野に良いお知らせがあるんだよ」

 やけに、ニコニコしながら言う先生。

「何ですか、良いお知らせって。今度入学してくる新入生にサッカーの天才がいる、とかですか?」

 そうだったら、サッカー部再建のチャンスだ。

「ああ、それは知らないけど」

 何だ、違うのか。サッカー部再建が遠のいたかも。とはいえ、天才でなくとも新入部員が少しでも入ってくれれば、今のサッカー部としては御の字といったところだが。

「でも、吉野にとっては、それよりも嬉しいニュースだと思うんだよ」

「だから、何なんですか。早く教えて下さいよ」


「雪兎が帰って来るんだよ」


「え?」

 何か今、ものすごいことを聞いた気がするが……。

「お前の憧れの冬月雪兎が帰って来るんだよ、ここに」

「……って、えええええぇぇぇ、嘘っ⁉」

「しかも、今日!」

「きょ、今日ぅぅ⁉」

 え、嘘、マジ⁉ あの雪兎先輩に会えちゃうの?

「ていうか、何で、もっと早く言ってくれなかったんですかっ! 心の準備が~~~」

「俺だって昨日聞いたばっかだし。雪兎から突然電話がかかってきて、アラスカから戻って来たから、こっちに寄るって。雪兎の家もこの近くだし、そのついでに今の毬藻高校も見たいって言ってた」

「ア、アラスカ行ってたんですか、雪兎先輩」

「あ、うん。でも今回は長かったな。一年近くいたんじゃないかな、アラスカに」

 旅行好きとは聞いていたけれど……。アラスカに一年って、それはもう旅行というか、滞在?

いや、もはや修行?

「……って、そんなことよりも、ここに雪兎先輩が来るんですよね?」

「うん、そうだよ」

 落ち着いた声で言う先生。事の重大さが分かっていない。

「つまりは、この休部状態の、クズみたいなサッカー部を見に来るんですよね? あ~、あ~、失望される~」

「自分の部活をクズみたいとか言うなって。……それに、そろそろ雪兎が来る時間だし。今更どうしようもないだろ」

 ああ、もうダメだ。終わった。

 俺はその場に体育座りでしゃがみ込み、頭を抱えた。

 先生の声が遠くから聞こえるようだ。「あー、でも雪兎は時間にルーズだからなあ」とか何とか言っている。

 ごめんなさい、雪兎先輩。こんなダメな後輩でごめんなさい。

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。

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