第24話

ギルド所属の冒険者全員に招集が掛かった。

「トルトリンの鉱山の洞窟での崩落事故は皆さんご存知ですね。今回はその事故で閉じ込められた人々の救助と保護活動のお仕事です。これはギルド所属の冒険者全員に課せられた使命です。皆さんのお力で迅速な救命をお願い致します」

受付のお姉さんが真面目な顔をして頭を下げた。

そして、ギルドが所有する大型馬車数台を使ってキクノクスの冒険者達はトルトリンへと向かった。


「思った以上に酷い惨状だな……」

まず、入り口からして岩が落ちて入る事が困難だ。

避難者の手当てをしつつ中の状態を聞くと、まだ数名は取り残されているとの事だった。

出入口の岩を地道に退けて人が通れるくらいの穴が出来たらそこから数名先行して入って行き、残りは出入口の岩をまだ撤去する作業に従事する事になった。

俺は先行組として他の冒険者と一緒に避難し遅れた人の捜索にあたった。

「人がいないか呼んで叫んだらまた崩落しかねません。ここは慎重に地道に探していきましょう」

リーダーの言葉に全員が従って、どんな小さな穴でも目を凝らし、人の気配を探って奥へと進んで行った。

途中何名か回収したが、保護した人物曰く奥にまだ人がいるかもしれないとのことだった。

怪我をしている複数名を治癒術の使い手が治して歩けるようにして、一人が出入口まで一旦回収した人々を送ることになった。


遭難者を探して奥へと進み回収すると、先程保護した人々を出入口まで送った冒険者が戻ってきた。

「無事に外まで送り出しました。出入口の岩はかなり撤去されているようです」

リーダーへ報告しているのを聞いて一同安堵した。

そしてまだ人の気配がするので奥へと進んでくると地響きが聞こえてきた。

また崩れてくる!

俺は咄嗟に叫んでいた。

「シールド!」

すると洞窟内全体が上部から数センチ空けた状態で落ちてくる岩石から人々が守られた。

魔法は言葉より意味が重要でこちらの言語でなくてもいいって教えが助かった。

しかし、シールドなんて我ながら安直だっただろうか?いやだけど他になんて言えばいいんだ?保護?守護?守れ?……だったらシールドの方が格好いい気もする。英語だし。

俺がくだらないことで悩んでいると他の冒険者からお礼を言われた。

「やっぱサハラさんは凄いですね!!」

興奮気味に言われても、俺は俺に出来ることをしただけだ。

そう言うと、話し掛けてきた冒険者は「やっぱサハラさんはカッケー!」と過大評価をしてきた。

いやでもまじで俺が勇者じゃなかったら出来なかった事だから勇者で良かった。

助けられる命があって良かったと心から思った。

……普段は勇者なのなんの役にも立ってないけどな!

シールドを展開したまま歩いて行くとなんとなく気配を感じた。

「こっちにまだ人の気配がある気がする」

俺がそう言うと、俺を信じて数名着いてきてくれた。

しばらく歩いていくと、足を痛めたらしく立ち上がれない男性がいた。

「あ!お前!!前も鉱山の物を勝手に盗んでいったコソ泥だろう!!あの時に散々痛めつけたのにまた来てたのか!?」

どうやらトルトリンの鉱石をこっそり盗んでいたコソ泥らしい。

でも、命は命だ。助けるべきだ。

「足、怪我してるんだろ。俺がおぶってやるから」

屈んで背に乗れとアピールするとおずおずと乗って来た。

「よっこいしょ」

ここにいる人数で洞窟内は人の気配がなくなったな。

「それじゃ、皆さん。次の崩落があるかもしれないんでさっさと出口に向かいましょう」

俺がコソ泥を助けたことに納得いかない者も感動した者もいたらしい。

両極端な視線を背後に浴びながらリーダーの後を追いさっさと出口に向かって歩いていく。

いつ崩落するか分からないまま出口を求めるのは時間が長く感じたが、ようやく外の光が見えた時は全員安堵した。

外へ出ると展開していたシールドを解除したら、中からシールドで防いでいた落石が落ちる音がした。


「この泥棒はトルトリンの警備組織にお任せしますね」

「はい!お任せください!もう二度と悪さしないようまた牢に入れて自省するまで出しません」

泥棒は不貞腐れた様子で荒縄に両手を繋がれていた。

「お前も、もう泥棒なんてするなよ。真っ当に働けばいいさ」

「……ふん。でも、まあ、俺を助けてくれたことに対しては礼を言ってやるよ」

目も合わせず吐き捨てるような言葉に俺を英雄視するトルトリンの人々が反発する。

「こいつ、助けて貰ってその態度はないだろう!」

「まあまあ。俺は気にしてませんし」

「サハラさんは人が良すぎる!」

と、憤慨されても周囲が俺以上に怒っていて怒るに怒れないというか、一応礼は言われたしな。

「俺も人に助けられて生きている身なので…。こいつのことも真っ当に生きられるように牢から出たらなにか職を与えてやって貰えませんか?」

俺が言うとざわついた。

そりゃあ、勝手に鉱山入って泥棒してた奴を引き取ってくれる人はそうそういないよな。

うーん、と腕を組んで悩んでいると一人のドワーフが前へ進み出た。

「牢から出たら俺のところで引き取ろう」

「いいんですか?」

「ああ、トルトリンの英雄の顔に泥を塗らないよう、二度と悪さしないようしっかり労働させて盗みなんかしなくても真っ当に生きられるように仕込んでやるさ!」

ガハハハ!!と豪快に笑う姿に苦笑して、泥棒を見ると複雑そうな顔をしていた。

「色々大変になるだろうけど、頑張れよ」

最後に声を掛けるとそっぽを向かれた。

今度こそ本当に反省して生きてくれればいいんだけどなぁ。

これはトルトリンの人達と引取り手のドワーフの親父さんに任せるしかないだろう。


その後、トルトリンで俺の銅像が建てられそうになったのを全力で諭してやめさせた。


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