第4話

「まさかドラゴンを倒したなんて報告書を見る日が来るなんて思いもしませんでした」

調査団と共に帰宅しキクノクスに帰還し、酒の席に誘われて通い慣れたバルロットさんの自室に土産のトルトリンの酒を持って行き、そう言われて余計に申し訳なくなる。

「工房を作るとかっていう話を潰す形になってしまい申しわありません」

俺が頭を下げるとバルロットさんはにこやかに笑った。

「そんなの、移住せざるを得ない元凶が取り払われて元の自分の住処に帰れる方が余程いいことではありませんか。ありがとうございました、サハラさん」

「そう言っていただけますと助かります」

バルロットさんは報告書をパラパラ捲りながら感嘆した。

「しかしドラゴンを倒すなんて…さすがは勇者ですね」

「いや、そいやっ!ってやってみたら倒れちゃって」

「ドラゴンをそいやっ!ですか」

またバルロットさんが笑った。

「さすがは勇者ですね。ですが、現在の世界では過ぎた力です。充分にご注意を」

そうだよな、魔王が治世する世界でポッと出た勇者なんて邪魔者以外の何者でもない。

今後は人命救助の時だけにしよう。

「でも、まだ他に鉱石を食べるドラゴンが生息しているかもしれないので注意が必要ですね。また折を見て調査団を派遣しましょう」

また色々考えているバルロットさんの向かいで俺は今日もつまみが美味いなと、トルトリンのつまみを思い出しながら比較して思った。

トルトリンのつまみも美味いがキクノクスは港があるため他の街の食材も入手しやすく料理のレパートリーも豊富だ。

トルトリンの酒とこのつまみも合うな、なんて呑気に考えている間にもバルロットさんは難しい顔をする。

「以前はトルトリンに鉱石を食べるドラゴンが出るなんてこともなかったんですけどね」

「そうなんですか?」

そういやそうだよな。そんなドラゴンが以前から出没していたらもっと早くに鉱石が食べられ尽くされていたかもしれない。

「やはり、勇者が今頃召喚されたことと意味があるのでしょうか?」

「さあ、俺にはなんとも」

首を傾げ合い酒を飲む。

頃合いを見て自室に帰宅するとその晩はよく眠れた。

ドラゴンと対峙するなんて、今更ながらにこの世界に来て初めて異世界に来たという実感が出た。

異世界から遅れてやって来た勇者。

それになんの意味があるんだろう?

俺にはわからない。

魔王を倒す必要もないならこの端の端の国で気の合う友人達とのんびり過ごして適度に働いて老後を迎えたい。

……帰れる保証もないしなぁ。

これで魔王を倒せば元の世界に帰れるというのなら少しは考えたが、このキクノクスやイグニクス、トルトリンが戦禍に巻き込まれると思うと、俺一人が帰れないくらいなんてことない気がしている。

だって、それほどにこれまで関わった人々は良い人達だった。

俺が戦うなら魔王が世界を滅ぼす時なんだろうけど、魔王が治世して平和なら言うことは何もない。

のんびりゆっくり、平和に生きよう。

つらつらそんなことを考えて寝たせいか、久々に元の世界の夢を見て懐かしくなった。

強がってもやっぱり元の世界に少しは未練があるんだろう。


「というのが二度寝して遅刻した理由です」

「反省していればいいです」

真面目なノイシュくんは少しお怒り気味だったけれど、誠心誠意謝罪をして一生懸命仕事をしたら許してくれた。

やっぱり鉱石が減らなくなったことによりトルトリンからの移住者がトルトリンに戻る手続きをしに来ていて、その後始末に追われていた。

「けど、トルトリンにまた鉱石が採れるようになってよかったですね」

ノイシュくんには俺がドラゴンにそいやっ!てして倒してしまったことは伏せてある。

「そうだねぇ。でも、トルトリンもいいとこだったし他の街もいいところがあるんだろうなあ。最近ハマっているつまみの産地のサンダルソンとか、現地で食べてみたいよなあ」

「サハラさん、飲むことばかりじゃないですか。でも、いいところですよ。サンダルソン。牧歌的で」

人を呑兵衛みたくいわないでくれと思ったが、割合呑んでいるのも事実なので黙っておく。

だって寂しい男の独り身の楽しみの一つなんだもん。

「牧歌的ってことは牛とかいる?」

「いますよ。今度の長期休暇にでも行ってみますか?サンダルソンなら僕も行ったことありますしご案内出来ますよ」

てきぱき仕事をこなしながら微笑まれるとノイシュくんが女の子に人気があるという噂は事実だったと実感する。

幼な気で可愛い雰囲気出しつつ仕事が出来て面倒見も良くてとてもいい子なので、いいお嬢さんとくっついてほしいが上司のバルロットさんも仕事の虫ならノイシュくんも仕事の虫で浮いた噂一つもない。

おじさん的には若い子にはもっと青春して欲しい。

「サハラさん?」

「ああ、ごめんごめん。ちょっとノイシュくんの将来について考えていたらつい。ノイシュくんさえよかったらサンダルソンの案内頼んでも良いかな?」

「僕の将来ってなんですか。僕的にはバルロット様とサハラさんの方が心配ですけどね。でも、案内を任されたからには安心してください!僕が完璧にエスコートしてみせますよ」


と、いうことで今度の長期休暇にサンダルソンという街に行くことになった。

牛がいるならチーズの作り方とか教えてみるのもありだな……。つまみの幅が広がる。

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