第30話 真犯人

 そしてあの話し合いから、さらに数日後。


 俺とジルヴィアは、無事に王城内に足を踏み入れることが出来ていた。


「ほ、本当に来ちゃいましたね。私、お城の中に入るのなんて初めてです。お城だなんて、遠くから眺めるものでしたから」

「まあ普通はそうだろうな」


 俺は公爵家だから、パーティーで何度か王城に呼ばれていたがな。しかし王城内の教会に入ることは初めてだ。


「アデライドに人払いはしてもらっている。行くぞ」

「は、はいっ」


 緊張した面持ちで、ジルヴィアが後からついてくる。


 今からしようとしていることを考えると、俺一人でも十分。

 しかしジルヴィアから目は離せない。


 オリエンテーションの際、彼女が聞いていた声のこともあるし、ゲームの史実通りに進行してしまう可能性があるからだ。


 まあ……そのためのもしているが、念には念を入れてだ。


 教会に入ると、中は静まり返っていた。


「そこだな」


 魔力探知をして、場所はすぐに分かった。


 俺とジルヴィアはパイプオルガンのところまで移動する。そしてオルガンに魔力を込めた。


 すると……。


「わわっ! オルガンが動きました!」


 ゴゴゴ……と音を立て、パイプオルガンが一人でに動き出す。

 その下には空洞があり、地下まで続く階段が隠されていた。


「こうやって隠されていたから、今までここを誰も見つけることが出来なかったということか」


 そもそも魔神復活だなんて話も、王城の連中からしたら眉唾ものだろうからな。


「じゃあ行くか──っとのその前に」

「なんでしょうか?」

「ジルヴィア、先日に渡したネックレスはちゃんと付けているか?」

「はいっ! それはもちろん! レオ君からのプレゼントなんですから!」


 とジルヴィアは服の内側からネックレスを取り出して、俺に見せつける。


「うむ、だったら良いんだ。ここからはなにが起こるか分からない。気を引き締めて行くぞ」

「私、レオ君から離れないようにしますっ!」


 ぎゅっ。


 ジルヴィアが俺の右腕にしがみつく。


 一瞬動揺して歩みを止めてしまいそうになったが、この程度で心を乱しては話にならん。

 俺は意志を固くし、地下に続く階段を下りていった。



 中は薄暗く、じめじめした場所であった。



 階段はどこまでも続き、下っても下っても下に到着する気配がない。


「レ、レオ君、本当に大丈夫でしょうか?」

「どうした、ジルヴィア。もしかして、暗いところが苦手か?」

「はい……こんなことを言っている場合じゃないというのは分かっていますが、幽霊が出てきたら……って」


 震えた声で言うジルヴィアを見て、微笑ましい気分になった。


 この世界には魔物も魔神もいる。

 だがしかし、それとは別に幽霊という存在も信じられている。こういった死者の魂が一人でに動き出す怪談話は、俺が元いた世界とさほど変わらないらしい。


「んーっ、レオ君。今、笑いましたね? 子どもっぽいと笑いましたか?」

「そんなことはない。だが……またの機会に、とびっきりの怪談話をジルヴィアに聞かせてやろうと思っただけだ」

「レオ君は意地悪ですー!」


 ポコポコと俺の肩を叩くジルヴィア。


 少々緊張感がないようにも思えるが、良い具合に肩の力が抜けた。俺は彼女に感謝しつつ、さらに階段を下りていく。

 そしてやがて階段が終わる。


「ようやく着いたな。進むぞ」


 炎魔法の『トーチ』で周囲を明るくしてから、俺たちはさらに奥へと向かっていった。


「こ、これは……っ!」


 地下の最奥。

 そこに置かれたものを見て、ジルヴィアと俺は目を丸くする。


「これは……祭壇か?」


 教会が設置したものとは思えない。

 祭壇は禍々しいもので、床にはびっしりと複数の魔法陣が描かれていた。

 蛇の死骸や人骨も配置されており、見ているだけで不安な気持ちに苛まれる。


 俺は幾何学的な模様を描く魔法陣に手を付け、解読を始める。


「……ビンゴだ。これによって、何者かが魔神の扉を開こうとしている」

「……っ!」


 ジルヴィアの息の呑む音。


 よかった、ゲーム通りで。


 ここじゃなかったら、途方に暮れているところだった。

 緊張感をまとっているジルヴィアの一方、俺は内心安心していた。


「だったら、この場所をぐちゃぐちゃにしてしまえば、魔神は復活しないんですか?」

「いや、それは……」


 と言葉を続けようとした時であった。



「無駄よ。魔界の扉はもう開いているんだから」



 ──俺たち以外の三人目の声。


「え……?」


 その声の主が誰なのか気付き、ジルヴィアは動きを止める。


 声を発した者が階段を下りる足音。

 徐々に俺たちに近付いてくる。


 ジルヴィアが俺の右腕にしがみつく力が強くなった。


 やがては俺たち前で立ち止まり、不遜な態度で腕を組んだ。


「やっぱり黒幕はお前だったか」

「そうよ。ちょっと、ヒントを出しすぎちゃったかしら。まあバレるならバレたらで、良いと思ってたけどね。後学のために、どうして気付いたのか教えてくれるかしら」

「教えてやる義理はない──と言いたいところだが、強いて言うならだな。言っただろ? 俺の勘は当たるって」


 俺が言うと、彼女はきょとんとした表情。


 しかしすぐに腹を抱えて笑い。


「ははは! 冗談だと思ってたけど、あんたの勘って本当に当たるのねえ。褒めてあげる」

「お前に褒められても嬉しくないさ──


 俺がイリーナにそう吐き捨てると、彼女は口元に歪んだ笑みを浮かべた。

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