6:3日目・二人消えた教室

 鬼塚龍一も学校に来なかった。


 池口蓮也もまだ帰らない。




 昨日、蓮也を探しに行った生徒たちは、各々おのおの教師に呼び出されて話を聞かれた。


 住田美花、金堂貴志、伊沢凛子、皆月日奈もその中にいた。

 一昨日の夜に蓮也の最後の目撃者となった事や、昨晩に龍一の最後の目撃者となった事などを確認された。


「心当たりはないのか? どんなことでもいい」


 そう尋ねられて、一瞬、一昨日の放課後のあの光景が頭をよぎる。


 住田公治にちょっとした悪ふざけを行った…… 暴行、器物損壊、窃盗、侮辱、名誉棄損などなど数々の犯罪行為を行った…… ことを。




「いえ…… 特に無いです」




 もう自分達で友人を探そうとしないように、大人に任せるように、と強く言い渡され、順次職員室から解放される。


 教室に戻って来た彼らは、無意識のうちに公治の席に目をっていった。

 彼はコーヒーの跡が残る無様な本を恥ずかしげもなく開き、静かに目を通していた。




(まさか…… いや……)




 美花たちは、浮かんだ妄想を打ち消すように公治から目を反らす。


 こんな奴に何が出来る?


 あの時も、龍一と蓮也に挟み撃ちにされて、呆気なく倒され、床に這いつくばっていた。

 妙に体力だけはあるようだが、助けに入る友達もいなければ、所詮そんなもの。

 勉強してようが筋トレしてようが、ボッチは無力なクラスの底辺だ。

 蓮也と龍一がこんなザコにどうこうされるはずがない。


 蓮也はどこかの女とデート。

 龍一はバイク仲間との付き合い。

 どうせそんなところだろう。お楽しみの最中だったり、運転中だったりすればスマホの電源を切っていてもおかしくないし。


 高校生にもなって、たかだか一晩や二晩の無断外泊でガタガタ言うなんて、ちょっと時代遅れじゃないか?

 たまたま間の悪いことが重なって連絡が付かずにいるだけだ。もうすぐ帰って来るに決まってる……


 クラスメイト達は不安を誤魔化すように、蓮也と龍一の武勇伝に花を咲かせた。

 蓮也が気に入らない男の彼女を奪ってくれた事とか、龍一がいけ好かない女の彼氏をおどしてくれた事とか……


 そんな話の輪に、公治が関わるはずも無ければ、公治が誘われる筈も無かった。




 その日も平穏な一日だった。

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