第56話 初めまして魔王です

「あれは、噴火か?」

 湖の中央部が、吹きあがった。


「魔力反応がありますから、自然現象ではありません」

「水の中で、火魔法を使ったようです」


「ドンという音がして、さらに吹っ飛ぶ水面」

 そこから、10分経っても水面が荒れ狂うのが続く。

「まさか、魔王って底で溺れているのか」

「それなら放って置けば、死にますかね」


 テーブルを出してきて、お茶を飲みながら荒れ狂う湖表面を眺める。

 しばらくすると、表面に多分人だろう。仰向けで一人浮かび上がって来た。


「浮いてきましたね」

「そうだな。だが動かんな」

 じっと見ながら、お茶会は続く。

 やがて、30分も経ったころ。

 浮いていた奴が、水面に立ち上がり岸の方に歩いて行く。

 やがて、岸につくと周りを見回し、俺と目が合う。

「目が合ったな。行くか」

 四天王を連れて転移をする。


「初めまして、あんたが魔王か?」

「ぬっ。ああそうだ。お前は何者だ? 忌々しい神の匂いがするぞ」

「俺も魔王と呼ばれている。諏訪真司だ。後ろは、うちの四天王。リーゾ。ガルーギシャジャラ。ライモンドだ」

「たしかに、後ろの奴らは我と同じ気配を持つ。なぜこんなやつに付き従っている?」


 すっと、シャジャラが前に出る。

「主は、周防様のみ。それ以外は雑魚それだけでございます。お前などが魔王を名乗るなど業腹ですわ」

 あっ、あおるからプチっと来たようだ。

 不可視の刃が、シャジャラに飛んで行った。

 当然シールドを張る。


「キーン」

 硬質な音が響く。

 それと同時に、魔王の魔力が膨れ上がる。

 こりゃあれだな。

 四天王を観測所に飛ばして、魔法を放とうとした魔王の前に立ちはだかる。

 練られた、魔力に干渉をして変化を壊し、そのままぶん殴る。


「ありゃ。またパワーが上がってやがる」

 魔王の頭が爆散し、砂に50cmほど埋まる。

「ずいぶん簡単に終わったな」

 そう言っていると、首や頭が生えてきた。

 だが不定形だな。


 元は、スライムの類か?

 俺は、復活を待つようなことはせず、ガンガンと魔法を撃ちこんでいく。

 やがて、埋まっていた穴の深さが2mに近くなってきたころ。

 焼けた、土の中に一回り小さくなった魔王が立ち上がる。

「聞いてはいたが、死なんな。定番だが浄化でもすれば死ぬのか?」

 俺は試しに、浄化魔法を収束してビームのように撃ちだしてみる。


「ぎゃあぁー」

 と叫んで、腕が落ちた。

 すぐに、腕の方に強力な浄化魔法を撃つ。


 すると、さらさらと崩れて消えていく。

「やはりお前、魔じゃないじゃないか。どこの魔の者が聖魔法を使うんだ。だましおったな。お前勇者か? いつもいつも勇者はこずるい。前回もわしを好きだと言ってだまし封じたくせにぃ」

 そう言うと、反対側。つまり共和国側に逃げようとして、俺の張ったシールドにぶつかる。

「ぴぎゃ。うぬ。こざかしいわあ」

 そう言った瞬間、強力な魔法が展開される。


「おぅ、これまずい空間系だな」

 術そのものに干渉して破壊していくが、こちら側で手いっぱいで共和国側のシールドと観測基地ごと、山脈が吹っ飛んだ。


「あちゃあ。俺のシールドを抜かれると、魔道具のシールドなんぞ何の役にも立たんな」

 目の前から居なくなった魔王を検索する。


「はええ。もう共和国側に居る」

 調子に乗って攻撃をしまくっている魔王の横へ転移して、こぶしに聖魔法を纏わせてぶん殴る。

 今四天王の連中には、民へのふれと誘導、いざという時のシールドを念話で頼んでいる。


 だがあの空間魔法だと、防げないだろう。

 ガンガンとぶん殴りながら、魔王の体を削っていく。

 しかし、なんでこいつ死なないんだ?


 結局集めた書類にはそれに触れた物は無かったし、殺せないから封じていたんだろう。

 気を抜いていた訳ではないが、あごに攻撃を受けたのだろう。

 衝撃が脳天に突き抜ける。

「がはっ今のは効いた」

 何が起こった? 見ると俺の周りに黒い塊が浮かんでいる。


 畜生卑怯な。ファ〇ネル使いか。


 しかも当たると、ごっそり力を持っていかれる。

 持っていくなら持って行けや。

 おれは、ひらめいた手を試す。

 周りに浮いていた、黒い塊に、聖魔法を思い切りぶち込んだ。


「ぐぎゃあぁ」

 と魔王が悲鳴を上げる。

「効くなら簡単じゃん」

 周りにある黒い塊に、聖魔法をどんどん撃ち込んでいく。

 やがて、塊が消えると空に浮かんでいた魔王が、体中から煙を吐きながら地上へ落ちていく。


 すぐに追いかけ、魔王を抱えると、直接聖魔法を流し込む。


 じたばたするが、手は緩めない。

 どんどん、魔王は崩れていき。

 最後には、10cmくらいの、塊が一つ。だがそれに対してもどんどん聖魔法をつぎ込んでいく。


 やがて、黒かった塊が、白くなり壊れた。


 すると中から、4対。8枚の羽根を持った天使かな? そいつが現れた。

 人の顔を見ると、穏やかな顔で笑い消えて行った。


 なんだあれ? 魔王はどうなったんだ?




「父よ、ようやく戻ってこられました。堕天し幾星霜。自身の力ではなく無理やりでしたが、まあそれも大いなる流れの一つ。我が力を持って、あの宇宙を見守るとしましょう。それがきっと、決められた道だったのでしょう」

 そうつぶやくのは、熾天使(してんし)級。大いなる力を持ちながら、悪のささやきを受け堕天した天使。

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