第23話 よし! 色々駄目だとわかった!
俺達は再び武器庫に戻り、テーブルに座ってロバートさんの解析結果を聞く事になった。
「非常に興味深いデーターが取れました!」
そう言うと、プロジェクターみたいな魔道具を出し、良く分からないグラフと、戦っている俺とミルの姿が映し出された。
「えーとですね、データーだけですと少しわかりにくいですが、この映像と合わせた方が理解しやすいと思います」
そして魔道具をいじると、俺がミルに最初に突っ込んで行く所ですぐに映像が止められた。
「まず注目して欲しいのはここです。立っている時は僅かにしか変わらなかったプロテクターの重量が、刻一刻と細かく変化して、移動するトウノさんの体軸を整えています。実際動かれてみて感じませんでしたか?」
「ああ、それは感じました、不思議な感覚で、身体の無駄な力みを無理矢理矯正されてるみたいでした」
「やはりですか! これは驚きの状態です。こんな重量変化する素材など見た事はありません。続いてですね、ここです」
今度はミルの打ち込みを左の小手で受けた所だ。
「この瞬間、小手の硬度が上昇しました。しかも細かく分析すると、木剣の当たった場所から波状に衝撃を分散させ、トウノさんに到達するダメージを最小限にしています。こんな衝撃の緩和など普通有り得ません、興奮します! 続いてここです」
それは俺が下段切りを脛に受けた所だった。
「先程とは打って変わり、この時は一気に硬度が下がって布程度になっています。ただしプロテクター本体に損傷等が無い様に材質の組織自体は逆に強固になっています。面白いです。これでは全く防具としての意味が無くなっていますね。続いてはここです」
それは俺がミルの攻撃に防戦一方だった所だ。
「ここでも全てのプロテクターが連携しトウノさんの体軸変化を抑え、細かく重量を変化させて姿勢制御しています。グラフにもとんでもないスピードの重量配分の変化が、しっかりと記録されています、信じられません! では最後はここです」
それは勿論、俺がミルに左の肩当てに一撃を食らった所だ。
「この瞬間、木剣のヒットポイントに対しプロテクター側が、瞬時に同様の衝撃を放ち相殺しています。もう常識的には有り得ない防御方法というか、ある意味反撃です。トウノさん、この時のダメージはどうでした?」
「全く感じませんでした。木剣が触ったのが辛うじてわかる程度です」
「ですよね。ちょっと理解出来ない不思議なプロテクターです! 最高ですね!」
異様に興奮したロバートさんが怖い。
あの、俺にとっては今もそうだけど、重いだけで不安しかない性能のプロテクターなんですけど……。
「―――以上の結果から、僕は一つの仮説を打ち立てました!」
このポンコツプロテクターに仮説? 嫌な予感しかしない。
「僕の考えでは、このプロテクターには使用者を育成する意志があると想像しています」
「育成? 俺を? なんで?」
「理由は分かりませんが、何らかの理由でプロテクターに持ち主と認められたトウノさんだけに、今の解析の様な明確な意思を持つ変化が起こっています。動きを矯正し、攻撃を散らし、受けが下手な場合は反省させる為にダメージを通し、そして危険な致命打には最大の効果で持ち主を守る。いやぁ、素晴らしい、理解を超える性能の武具ですよ、これは!」
「あのぅ、製作者がそんなんでいいんですか?」
「ははは、確かに僕が作ったんですが、これは全く再現性のない偶発的な武具です。もう二度と作れません。師匠であるエㇽダードワーフの方々も言ってました。職人は一生に何回かは、素材に突き動かされる様に得体の知れない物が出来てしまうそうです」
いや、作るんならそこはちゃんとしょうよ。
うーん、そもそもプロテクターに育成されるって言われても正直困る。外そうにも呪い付だし、思いっきり日常生活に支障があるぞ。
「あの、この重いのもやっぱり体を鍛えるって意味なんでしょうか? 凄く動きにくいんですけど」
「勿論そうです。ただしそれだけでなく、今現在も細かく重量調整が行われています。無駄な動きを矯正し、どんどんトウノさんは理想的な体の使い方を覚えていくはずです」
「いや、寝る時とか苦しいだろうし、風呂に入る時はどうしたらいいんですか? 外したら呪われるって怖いんですが」
「確かに、―――あっ、トウノさんのステータス画面で装備欄をチェックして見て下さい。そこに仕様説明があるかどうかタップすればわかるはずですよ」
「そうか、その手がありましたね!」
俺は早速ステータスをオープンして装備欄を確認した。
するとこう書かれていた。
<装備 ナイフ ブートキャンププロテクター>
なんだ、それ?
俺はブートキャンププロテクターという謎な文字を、嫌な予感がしつつタップした。
すると以下の説明文が現れた。
<偶発的な状況で生まれたプロテクター。有名強化系ネームドアイテムでないので装備可能。一度この武具に目をつけられると、プロテクターが合格点を出すまで生涯使用しなければならない。装着を拒絶した場合、精神を乗っ取られ「イエッサー」しか喋れなくなる。また、短時間の脱着は可能であり、外す前に「サー、イエッサー」と全力で叫ぶと一時間だけ外す事が出来る。睡眠中も自動で身体を鍛えてくれるオート機能付き>
ってなんなんだよ、これ!
このプロテクターどこの鬼軍曹様だ、合格点が出るまで生涯使用って、えらいもんに目をつけられてしまった!
俺はその詳細を即座にみんなに伝えた。
すると、ロバートさんは「興味深い、ぜひ今後も分析させて下さい!」と喜び、
ミルは「強くなれるんだな、これは拾い物だぞ」と褒め、
ヒヨリは「私的には無関係ですから」と流した。
お前ら完全に他人事だな、もうやだ、イエッサー。
すっかり俺のブートキャンププロテクターで時間を取ってしまったが、ミルの提案で次は剣を装備する事になった。
「トウノの持っているナイフも近接戦では有効だが、やはりリーチのある武器だと攻撃に多様性が生まれるぞ」
と言うのでロバートさんに剣を見せてもらったのだが、もう俺は騙されない。
「これにします」
武器庫の隅にある木箱に無造作に放り込まれている如何にも量産品な剣の中から、日本刀みたいに細くて持ちやすい一振りを選んだ。
テンションとしては、修学旅行先で欲しくなる謎の木刀と同次元だ、
「いや、待って下さい、トウノさん! ほらほらこっちにもっと面白、いや高性能な剣がありますって!」
今、面白いって言ったよな。
「いえ、断固これが気に入りました」
ロバートさんは自分の試作品を懸命に勧めるのだが、俺がきっぱり量産品を選んだので、あからさまにがっかりした。
「いいんですか、そんなので? その細い剣は蚤の市で激安だったから買った品で、たった銅貨五枚、五百メルクの品ですよ。軽いから投擲用にいつか改造しようと思っていた物です。でも実戦で使うならすぐ折れちゃいそうですし、そもそも剣の重心がかなりおかしいのでB級品以下ですよ」
「構いません、俺みたいな初心者には軽くて持ちやすいし、何よりこれは普通だからいいんです」
「はぁ、気に入ったのなら仕方ないですね。ただしメンテは僕がきっちり行いますので、必ず持って来て下さい。責任がありますからね!」
心配している様でいて、何となく企んでいる気配がする。
メンテ時に勝手に変なエンチャントをかけない様にしっかりと見張っておこう。
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