第9話 進行の予兆

 会計しに行こうとしたら、真昼に止められた。

「次は私が支払う。だから音羽君は外で待っといて」


 と、外に追い出されてしまった。


「今度は俺が外で待つ番か」


 胸に手を置き、少し考え事をした。

「俺はまだ大丈夫」

 自分に言い聞かせるように言う。

 こうでもしないと、俺が俺で居れなくなる。

 真昼はきっと俺が、病気持ちと気づいてるだろう。

 真昼はいまはまだ元気、だが、病気が進行しているかもしれない。

 思い出作りの筈が、ストレスが溜まる出来事が多かった。

 俺も微かに自分の変化を、感じている。


「まだ悪化をする訳にはいかない」


 後少し、ほんの少しでも長く。

 あの子の、あの子の傍にいたい。

 少しでも多く、真昼の笑顔を見たい。


「どうかしたの音羽君?」

「ま、真昼」


 考え事している間に、真昼は会計を終えたらしい。

 真昼の前では、あんま考え過ぎない方がいいな。

 無駄な心配を掛け、真昼の病気を少しでも、進行はさせたくない。


「さてと、いまからどこに行く?」

「うーん寺!」

「さっきの所も寺だぞ?」


 俺は苦笑しながら、真昼に言う。

 さっきまで俺達が、居った場所は清水寺。

 清水寺の近くには寺があるな。

 再び苦笑をする。


「音羽君、どうしたの?」

「いや、寺の近くに寺があるなと思って」

「そうだね、じゃあ行こう!」


 真昼は無邪気そうに言った。

 まるで太陽の様な笑顔に、見惚れていたのは内緒。

 俺と真昼は、次の観光地に向かう為、歩き出す。

 バスやタクシーに乗り、色々な観光地へと行った。

 その中で、真昼は楽しそうに回っていた。

 そんな中、俺の胸は再び、ドクン、ドクンと脈を打つ。

 血液、酸素が脳に集中的に回る。

 次の瞬間、俺の脳内に真昼を、殺す為の方法が簡単に思い付く。


「くそくそ! 考えるな。脳を回すな」


 近くに合った、建物の壁に寄りかかる。

 真昼を再び、見失わないように、適度に離れている。


「くそったれ、。脳内まで侵略されて来たか」


 さっきから俺の目が、熱くなるのが分かる。

 頭を冷やせ、これ以上、進行の可能性を高くするな。

 目を少し瞑り、落ち着こうとした。

 その時、嗅ぎ慣れた柑橘系の匂いがする。

 目を開けると、俺の眼前に真昼の顔が合った。


「一体何をしているんだ?」

「音羽君が心配なの!」


 真昼は頬を膨らまし、俺を少し睨んできた。

 また心配を掛けてしまった。


「ねぇ音羽君、少し肌寒くない?」

「確かに……寒いな」




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