第9話









仮称、別世界。異世界とも呼べるこの時空間移動を果たしてしまった訳だが、意外にもこの世界での常識は元いた世界と相違無い部分が多かった。


まず一番気掛かりだったのが食生活。俺は人より多く食べるが、何でも食べれるという訳では無い。質より量を求めていると思われがちだが、俺は両立して食事を楽しむ。

例えばそう、量を欲するからあまり美味しくなくても安い果物を食べるのでは無く、量があり尚且つ美味しい果物が食べたいのだ。

存外、この世界での料理は元いた世界と似ているものが多かったし、味付けも似たり寄ったり。ゲテモノがあるのではと心底心配していたが、一先ず第一関門は突破したと言ってもいい。


次に生活インフラ。元いた世界よりも生活環境に技術力や資金投資をしているようには見えない。公共機関というものが少なそうだが、元の世界で公共機関として機能していた組織は、この世界では民間企業として受け持つ所が多いようだ。この町では輸送船団の自治組織が力を持っているらしい。町インフラは輸入物が主な生活基盤となっているそうで、この町で一番需要があるのは輸送船団関係の仕事なのだとか。

簡素ながらもしっかりと整備された建物の並びをしているし、店先で露店のような感じで出す店が殆どだが、ここも何ら変わらない。

俺からすれば不便そうな生活様式だが、誰も困って無さそうなのでもあまりつついてボロを出すわけにもいかない。だが、イマイチ町の雰囲気は俺の性に合わない。不便そうな感じだからだろうが、多分ホームシックみたいなもんだろう。



と、上げるとキリが無いほどには思いつく。結構信じられ無い光景もあったが、まあ何とかなるだろうぐらいの気の持ちようでいるので、巻き込まれる事態が無い限り、余っ程大丈夫だろう。

外に出ようとすると、ルコアとカンザシが俺を引き止めて中々外に出してくないからあまり町の風景はれていないが、窮屈な世界であるということだけは分かった。

人が幸せである所以は認識せず事柄に身を任せる事で初めて幸せになれるということだ。未来を見て幸せだと思うより、過去を振り返って幸せだったと認識出来ることが何よりの一番であろう。



さて話を戻すが、相違無いとは言ったものの、この世界において今一番驚愕する事がある。

これは全くもって相反する。そんな事有り得るのかと思うぐらいには俺の世界と違っているのだ。



━━━━━男女比の格差。



━━━━━男の共有財産化。



━━━━━人種差別による迫害、奴隷制度。



最初何を言われているのか俺にも分からなかった。元の世界でも奴隷制度はあったが、しっかりと他国との条約を結んだ合法的な制度である為、非難はあれど奴隷制度の対象者は敗戦国の捕虜や身売りした者がほとんど。強制的に奴隷として扱う事はできなかったのが俺の中の常識だ。


しかし、この世界では全く違う。奴隷制度というのは名ばかりで、誰の許可も得ていない非合法活動のようだ。

対象者は。俺もこの言葉にはピンと来なかったのだが、どうやら動物と人間が合わさった存在らしい。人の形をしているが動物の身体部位が表面に現れていたり、人間離れした身体能力を持っていたりと。人間の亜種だから亜人なんだとか。奴隷としての役割はやはり肉体労働。人よりも力の強い亜人に荷物を運ばせた方が早いということなのだろ。


しかし非合法過ぎるのはやり方だ。この世界では亜人と人間の住む場所が違うらしいのだが、人間達は亜人達の領域に入り込み、近場の集落に奇襲かけて子供をかっ攫う。なんというやり方だ。酷過ぎる。

この町にも奴隷入るようだが、まだ幼い子供達だけなんだとか。

街に出た時は注意して歩こう。何処かで奴隷達の姿を見掛けるかもしれない。



そして何より、男女比の格差。これが一番の問題である。

この世界において、男性は圧倒的に少ないらしい。統計比率でいうと、男性1に対して女性10を超えるとか。10人に1人男性がいないのだ。それはもう物凄い少ない。男性は女性よりもか弱く、背丈も俺のように高い男はいないとか。


ぶっちゃけそんな話を聞いて俺はこれからどうしろと言う話なのだが、男は貴重な存在なのであまり目立つ行動はしない方がいいと釘を刺された。

常識が違っていたので、途中今までどうやって生活してきたのって表情をされたのだが、知らない事だらけなので許して欲しい。




さて、俺がルコアの住居に転がり込んで早5日。そろそろ本格的に体を慣らしていかなければならないと思う中、一体何をしようかと考えていた。

前にもこのような状況に陥った時は畑仕事をして身体を慣らしていたが、生憎そのような場所は無い。街の中だけあって人が密集していては満足に体を動かせる訳でも無い。


一体どうすればいいのかと俺は悩んでいた時、ふとどこかに出かけるカンザシの姿が目に入った。

俺はすぐに声を掛ける。



「カンザシ、何処に行くんだ?」


「ひゃぁあい!?」



突然声をかけたからなのか、カンザシはビクンっと体を大きく揺らして驚いていた。少し悪い事をしたな。


カンザシの格好は何時ぞや見た腰に二刀大小長さの異なる刀のような剣を携え、神子の衣装に似た服に身を包んでいる。

そういえば前にカンザシは冒険者なる者だと言っていたが、今日はその冒険者としての仕事に行くのだろうか。



「……す、すまん。驚かせた……」


「あ、え、あっ、えっと……、ううんっ。気にしないで。……私こそ驚き過ぎた」


「カンザシはこれから何処に行くんだ?」


「冒険者ギルドだ。今日は依頼を見に行っていくつか依頼をこなしていきたいと思って」



予想は当たっていた。俺がここに来てから数日は冒険者としての仕事をしていなかった様なので、少し申し訳なさがある。俺のせいで彼女の生活に支障をきたしてしまったと思うと、感謝と謝罪で心がいっぱいだ。



「……えっと、れ、レンくんはこれからなにかするの?」


「……あー、いや。そろそろ体を動かしたいと思ってるんだけど、何をすればいいのか困ってるんだ。森とか草原とか自由に体を動かせる場所が少ないとなるとかなり絞られるからさ」


「……あー、確かに。それもそうか。ここはこの街の中心部に近いから必然的に街の外までは距離があるわ」



いっその事自重トレーニングで我慢するかと思ったが、ふとカンザシの腰に刺した刀が目に入る。

刀かどうかは聞いた事ないが、あの形状的に刀と言っても差し支えないだろう。この世界では一般的なのかは分からないが、あの鞘や柄に巻かれた紫色の上質そうな糸を見て、カンザシの持つ刀は相当な業物だと見える。



「……なぁカンザシ。1つ頼みがあるだけど」


「え、な、なに……?」



この世界でどれだけ動けるか分からないが、職業柄武器を持った誰かがいるということに意識が向いてしまう。職業病とも言っていい。

ぶっちゃけ戦場に戻る為にも武器を握る生活に浸っておくのは正しいかもしれない。



「……俺も、冒険者ギルドに連れてってくれ」



体を動かす場所が無いのなら、自分で体を動かせる場所に行けばいい。

俺はカンザシにそう頼み込んだ。





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