第4話 神様は忘れん坊


23:55分。後5分でダンジョンの入り口が開放される。

 俺の心臓はバクバクとありえないほど音を立てている。

 配下にはああ言ったものの、正直1週間持たないかも……と感じてる。それほどまでにガイドブックや神の説明から考慮すると俺は弱かった。


 だが、死ぬと決まった訳じゃない。俺は足掻き続ける。忘れた記憶の底でお前は生きる必要がある、と俺が叫んでる。俺かって死にたくねぇさ。でも……だからこそ……


…………覚悟を決める時なんだ。


「マスター、緊張しないで、力を抜いて」


「!!」


 ガイドが俺に声をかける。ガイドは魔王を助ける存在。神が魔王に与えた物。


 でも俺はこのガイドがそれだけの存在じゃないと感じている。

 何故か、少しだが心が通じる。


 神が作った物だなんて思えない。


「生き延びるのでしょう?」


 このガイドは、きっと無くなった俺の記憶と関係あるんだろう。そうじゃなきゃたった4日でこんなに仲が深まるわけもない。


「……ああ。絶対に生き延びて……いずれ世界一の魔王になってやる!」


 どうせなら、目標は大きく。


 俺が最弱というなら下剋上しようじゃないか。ずっと嘆いていても死ぬだけだ。このどん底から、這い上がってやる……!


 そして時は……


 0:00


 満ちた。


 俺はコアルームから入口を監視する。……が、誰もこない。


 何故だ……?

 勇者サイドはこの4日でチームを組んだりして準備しているはずだ。あ、寝てるのか?いやいやそんな訳あるか。魔王がダンジョンから出て攻めてくるかもしれないだろ。

 

 ────ちなみに、魔王はダンジョンから出られない。正確には、ダンジョンレベル100まではだが。モンスターはネームド化されたものだけが外に出れる仕組みになっている。

とはいえ、この仕組みを理解しているのは魔王だけだ。魔王ガイドブックに書いてあったから。


まあ……周りにはダンジョンがたくさんあるし、たまたま最初にここに来なかったのかな?


「マスター!」


俺が安堵しつつも疑問に思っていたところで、焦ったような声色の水晶ガイドが俺を呼ぶ。何事かと思ってカメラモード(ダンジョンを見渡せる機能)を切ると、そこには希望があった。


そう、希望が……


『ダンジョンが開放されました。魔王に固有スキルが与えられます。ご健闘を。』


 画面には大きくこんな文字が表示されていた。


「スキル?」


「はい、マスター。説明がロードされましたので説明いたしますね?」


「あ、ああ。頼む。」


 ガイドの説明によると、魔王にはそれぞれレベルや系統で覚えるものと別に固有のスキルがあるらしい。日本の魔王には与え忘れていた事に気づいてお詫びと共に与えるそうだ。

 ……お詫び?


 俺はメッセージ画面右上の×マークを押す。すると、もう一つメッセージが表示され……


『DPを2500取得しました。』


 ……これはでかい。

 俺はこの2500DPの意味にすぐ気づいて、失礼ながら神のミスに感謝した。


 日本の魔王は知らされるのが最後だったことから、全員ユニークモンスターのランクをGからFにしてもらったんだ。


 そして、Fランクのネームド化に必要なDPは2500。


 本来ユニークモンスターのランクはダンジョンランクと連動して変わる……つまり、ダンジョンランクが変わらなかったGランクの人かFランクの人だけがユニークモンスターをネームド化できる。まさに初心者救済処置だ。


「マスター、皆2500DPなのは変わりません。捉え方の違いですよ?」


 うるせぇ。こういうのは気分が大事なんだよ。

 

 ──てか、今心読んだな!?


「まあ……じゃあガルーダ。」


「クエエエ!」


 俺はガルーダを呼んで、2500DPを注ぎ込む。


「お前は今日から正式に、ガルーダだ!」


「クエエエッ!!」


 ガルーダが嬉しそうに羽ばたく。そして身体がムクムクと大きくなっていき──!?


「う、ぐあああああああ!?」


 俺の全身に激痛が奔った。

 な、なんだこの痛みは……!?


 皮膚を内側から焼かれるような感覚。全身に虫が這っているようだ。麻薬? いや、やった事ないぞ?


「うっ、ぐっ……がはぁっ!」


 喉に液体が込み上げてくる。我慢できずに口を開けば、俺は盛大に吐血した。


「ま、マスター!?」


「グル! グルルル!?」


 ガルーダの鳴き声が少したくましくなったような気がするが、そんな事は気にも止めてられない。


 そのまま俺は目眩を覚え……気を失った。


=====


「う……ここ、は?」


「マスター! ご無事で!?」

 

気がつくと、辺りが石でできた空間……さっきと同じだな……コアルームにいた。

ガイドが心配そうな声をかけてくれる。


「ああ……問題ない、あれから何時間たった?」


 まだ立ちくらみがするが、人間が攻めてきていてもおかしくない。

 俺は急いでガイドに確認を取る。


「えー……1時間1分47秒ですね。それよりも、御身体は!?」


 めちゃくちゃ正確な答えが返ってきた。そこまで求めてないんだが……え。今なんて言った?


「……1時間!?」

 

 俺はそんなに気を失ってたのか?まずい、人間が連続してきていたら……


「おいっ侵略されてないか!?」


「大丈夫ですよ、マスター。落ち着いてください。」


 ぐっ……ラッキー! だが、俺がいない間に侵攻されていたら、魔物の補充ができなくてやばいところだった。


「ああ……くそっ。……とりあえず、理由は調べる必要があるな。」


 俺は魔王ガイドブックをもう一度見直す。全てを覚えていられる訳ないのだから、見落としや忘れていたことがあるのかもしれない。。


『魔物のネームド化……それは、魔物のランクを約1つ分上昇させる。しかし、数分の軽い痛みに襲われ、相応のDPを消費する。ネームド化した魔物はダンジョン外へ出れて、視覚の共有が可能になる。個別で命令を飛ばせて、意思疎通が可能となる。』


 ……数分の軽い痛み?それどころではなかったが?俺の足元には吐血による血溜まりがある。


「どういうことだよ……」


「残念ながらわかりませんね……しかし、人間が来てないのが幸いしました。」


『ほんとだよ! ずっとこのままでもいいけどね!』


 いや、ずっとは困るだろ。俺はDPをいかに貯めるかが生き残る鍵なんだぞ。って──!?


「え!? 今のガルーダか!?」


『え? そうだよ! 僕が王様に名を授かりし、ガルーダさ!』


 ガルーダが、名前と反して気弱そうな声で俺の頭に話しかける。

 これがネームド化による意思疎通か……。なんがか不思議な感じだな……


「てか……お前その見た目と名前でビビリなのかよ……」


『な!? 違うもん! というか名は王様がくれたんでしょ!』


  ……とりあえず、今は色々調べなければいけないことがありすぎる。


「ま、まあいい……じゃあ、勇者が来る前にスキルってのを確認しとくか。」


 俺は胸に期待を膨らませてスキルを確認する。

 魔王だし、他が弱いし、期待してもいいよね……?


 俺は恐る恐るスキルを確認する。


=====


王の魔王 Lv1

体力 F力 G 魔力 F 防御 G 器用 F

レベルポイント0

固有スキル:【王威】【威圧】【隷属】

スキル:【ダンジョンマスター】


=====


「お!? 固有スキルが3つもある!」


 俺は固有スキルの欄を見て、世界が変わってから一番喜んだ。


「3つ目のものは名前と効果が違えど根本的なものは同じ……共通スキルですが?」


 ガイドが何故か水をさすが、それでも嬉しいものは嬉しい。

 ──これでみんな4つとかだったら泣くぞ。


「どれ、能力は……?」


 全然人間がこないので、俺はスキルの効果を調べる事にした。


【威圧】……魔物の王であることを知らしめるかのようなプレッシャーを与える。


【隷属】……人間、外部の支配を離れた魔物を対象とし、誓いの言葉を口にさせることで【奴隷】にする。【奴隷】は配下と同じく命令に逆らえず、ダンジョンの外に出られるが、意思疎通はこちらからしかできない。72時間に一度のみ使用可能。


 どうやら【隷属】は人間や野良の魔物──どうすれば野良になるのか知らないが──を支配して配下に加える能力みたいだ。


 ガイド曰く、破格の条件であり、他の魔王よりも圧倒的に配下を作りやすいと思われるらしい。……ということは俺の戦力はしばらくは外部の人間とかか?


 となれば戦えるだろうし、ここでレベルアップさせた人間を【威圧】で脅してそのまま配下に引き入れる……恐ろしく効率的だと思わないか?


「まあ……問題はこれだよなあ……」


 俺は問題のもう一つのスキルを確認する。


【王威】……余は王である。


 一言で表すと、は? だ。効果なしのスキルは存在しないらしいので、何かしら効果はあるはずだ。だが、試そうにも全く感覚が掴めないので発動すらままならない。


まあ、この日はガルーダチキンに威圧を放って遊んだり、ガイドと今後の方針を話し合っていると終わった。


 この日、侵略者は来なかった。

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