探し物が得意な僕、ほぼ不死身になる

@namm314

プロローグ

プロローグ

「はぁ、今日は早く帰れると思ったのに…」

 僕は隣にいる友達と目の前のホワイトボードに書かれた文字を眺めながらため息とともにつぶやいた。


――西急八王子駅で人身事故、東京線全線で運転見合わせ――――西急電鉄


 ここは西急新宿駅。運転見合わせということもあって、周りには帰れなくなってタクシー乗り場に行こうとしたが長蛇の列を見て絶望しながら並ぶ会社員、遅延証明を配る駅員など、多種多様な人が構内にごった返していた。

「財布の中に何円入ってる?」

「昼食のお釣りの500円。」

「僕は13円。ICカードの中は?」

「1000円。緊急時用。お前は?」

「342円。最近のアニメイベントでつかっちった。」

「振替輸送でかかる時間は?」

「さっき調べたら大体2~3時間。だけど家の最寄駅も運転見合わせ。」

「電話は?」

「振替輸送でかかる時間を調べたらちょうど切れた。」

「こっちは携帯忘れた。公衆電話も混んでるし八方塞がりだ。」

「これじゃ運休解消まで待ちだ柊斗な。」

「はあぁ」

 僕と友達は一緒に大きくため息をついた。


 僕の名は白居柊斗しらいしゅうと。高校1年だ。横にいる友達の名は梶井海斗かじいかいと。同じクラスで幼馴染だ。


 5時30分を回り、だんだんと人が増えてきた。こんな通路の真ん中のホワイトボード前にとどまってたらもみくちゃにされる、と思った僕らはとりあえず壁際に移動した。そして周りを見渡した僕はとある人を見つけた。

「お父さん!」

「流石探し物の神!」

 僕にはとある特技がある。それは、「探し物をすぐに見つける」というものだ。そのため、小学校時代から物をなくした友達が寄ってくるのだが、いつも読書をしている僕にとっては面倒なものだ。


 この後、お父さんに事情を話すと、一度電車が止まっていない駅で家に近い所に行き、そこからタクシーで一緒に家に行くことになった。

 僕と梶井は喜び、ルンルンで駅のホームに向かった。すると、梶井はいつものように、

「中学の時の修学旅行楽しかったなぁ」

と言ってくる。もう2年位前の話だというのに。――僕が行けなかったのがそんなに面白いというのか。

振替輸送の電車の来るホームに到着したが、ホームは混み、その電車もトラブルで10分ほど分ほど遅延していた。

 15分ほど待ち、電車が来たのだが…


――13番線、急行横浜行き、ドアが閉まりまーす。


 僕の目の前で扉が閉まった。


――間もなく、13番線に西急横浜線、各駅停車、鎌倉行きが参ります。

 やっと来た、と梶井は漏らしたが、その言葉はだんだんと騒がしくなってきた周りの声にかき消された。

 ホームがだんだんと混んできた。線路側の一列目にいる僕はどんどん押されていく。

「黄色い線の内側まで…」なんて音声に従えるわけないような混み具合だった。その時だった。

 背中に何かが強く当たった。一瞬の出来事で理解するのに時間がかかった。理解し終わったとき、大変なことに気づいた。


――地面がない。あるのは線路。つまり、落ちたのだ。線路に。ホームにいる群衆に注意しようとならされる警笛。自分にとっては葬送曲だった。梶井とお父さんは気づいていない。運転手も気づいていない。ああ、終わりなんだな。そう思った。思い出が蘇る。これが走馬灯なんだな。こんな若いうちに見たくなかった。


――意識がなくなった。

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