第11話 誤解

佐伯 正だ。

倒れた黒神をそのままにするワケにも行かず、俺は黒神に肩を貸し、ヒィーヒィー言いながらも、公園のベンチに奴を寝かせた。

そこまですれば帰っても良いかな?と思ったのだが、倒れてるコイツを他の不良が見つけて殴り始めてもコッチの目覚めが悪いので、結局は黒神が起きるまで側にいることにした。


「うっ…うぅん。」


「き、気が付きましたか?」


うめき声を上げる黒神の顔を覗き込むと、目がしっかりと開いていたので、どうやら完全に目を覚ましたらしい。


「お、お前は……ここは何処だ?」


上体を起こしてキョロキョロと周りを見渡し始めた黒神。まさか記憶喪失じゃないだろうな。


「ここは公園ですよ。黒神さんは何というか、激戦の末に公園に倒れまして。」


流石にひょっとこ仮面にボコボコにされてKOされたなんて本当のことは言えなかった。言葉をオブラートに包むのも大変だ。


「そ、そうだ。俺はここでひょっとこ仮面に負けたんだ。完膚なきまでボコボコのケチョンケチョンに。」


あっ、自分で覚えててくれた。完膚なきまでボコボコのケチョンケチョンというのは、かなり良い表現だと思うよ。


「そ、そんなことないですよ。互角の戦いだったと思います。」


「あん?そんなわけねぇだろ?パンチ一発も当たらなかったんだぞ?」


ギロリと俺を睨んでくる黒神。アンタの為を思ってフォローしてるんだから、敵意をコッチに向けるのは勘弁してくれ。


「しっかし…強かったなぁ。あんなに強い奴始めて見た。俺もこの辺じゃ喧嘩強い方だと思ってたけど、ありゃ別格だ。フフッ。」


……何でこの人笑ってるんだろ?あれかな?戦い終わって晴れやかな気分とかいう、少年漫画にありがちな奴かな?意外とベタだよなコイツ。


「お前もありがとな。色々世話になった。」


「えっ?いや大したことしてないですよ。」


「そういえば名前聞いて無かったな。お前名前は?」


「佐伯 正です。高校一年生で、この先にある商店街に入ってる八百屋の息子です。」


「八百屋?……あーあるな、ちょっと古臭いの。」


古臭いは結構な言いようだが、本当に古臭いから言われても仕方ないところもある。


「俺の名前は黒神 竜也。タメなんだからタメ口で良いぜ。あと下の名前で呼び合おう。」


「い、いや、それは流石に。」


表では完全にへりくだってるだけに、今更タメ口は難易度が高い。


「タメ口で良いって、正。」


期待に満ちた目で俺のことを見てくる黒神。えぇいこうなればままよ。


「………分かったよ、く…竜也。」


「やりゃ出来るじゃねぇか♪」


何だか竜也と距離が縮まってきた。相手が不良なのであんまり喜ばしいことじゃないが、これも運命だと思って諦めるしかない。


「あれ?正君?」


突然、聞き慣れた女の子の声がしたので、そちらに顔を向けると、公園の外に私服のグレーのパーカーを着た美鈴が居た。

タイミング悪いな、おい。


「こんなところで何してるの?……えっ?竜也君?」


やはり竜也の存在にも気づいた。ヤバいヤバい、何だか嫌な予感がするんだわ。


「……怪我してる!!」


先程ひょっとこ仮面に顔を殴られた際に出来た青痣を見るなり、美鈴は公園の柵を乗り越えて、竜也の元へ駆け寄ってきた。


「どうしてこんな怪我を……口から血も出てる。」


美鈴は素早くハンカチを取り出し、竜也の口元に当てようとしたが、竜也はそれを右手で払い除けた。


「チッ、うるせぇなぁ、テメーに関係ないだろ。」


「……竜也君」


良いなぁ、女子に心配されるって、俺にそんなことしてくれる人なんか居ないやー、女子で知り合いって美鈴と狂気的なストーカーしか居ないもんなぁ。


「正、もう俺帰るわ。またな。」


「えっ、あぁ、またね。」


黒神はそう言うと、美鈴には何も言わずに帰って行った。またなって次はいつだろ?


「ど、どういうこと?何で竜也君と正君が一緒に居るの?」


竜也が居なくなったので、次は美鈴が俺に来るのは当然のことである。だが俺は事の真相を話すのは躊躇われるので、とりあえず今は困った顔をして誤魔化すしかない。


「黙ってないで何とか言ってよ!!」


美鈴が今までに見せたことのない剣幕で、俺のシャツの胸ぐらを掴んでユサユサ揺らしてくる。全く、小さな体の何処にこんなパワーがあるというのだろう?


「ま、まさか、正君が竜也君に怪我させたの?そうなの?……そうなんでしょ!!」


「えっ、それは、ちが…」


「もう何も信じられないよ!!」


美鈴は叫び声を上げて涙目になり、そのまま俺のシャツの胸ぐらを放して、タッタタタと俺が弁明する好きを与えずに公園から走り去ってしまった。

残された俺は暫く呆然としていたが、どうせ呆然とするならブランコに乗っている方が絵になるなと思ったので公園のブランコに座り、揺られながら己の不幸を嘆くばかりであった。


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