第6話 カミングアウト後編

「はぁ。」

また溜息が漏れた。どうも栗山 美鈴です。

あの後、竜也くんを追い掛けたのだけど「付いて来るな!!」と激しく拒絶されてしまって、仕方なく帰ることにしてしまった、情けない私です。

竜也くんに嫌われてしまったかと思うと、私の小さな胸がジンジンと痛むのです。

「うぉおおおおおおお!!」

和菓子屋の家の前に着くと、何やらお向かえの八百屋さん、佐伯さんの家の二階が騒がしいです。二階は正くんの部屋なので、もしかすると友達でも来てるのかな?

愚痴を聞いてもらおうと思ってたのに、残念だな。

トボトボと私は家に帰りました。



※ここから先の話は【推し姫】である。白金 姫子さんの印象をガラリと変えることになるので、御了承した上で読んで下さいね♪


「美鈴ちゃん本当に可愛いよね♪小さくて愛くるしくてお人形さんみたいで♪」

「はぁ、はぁ…。」

正です。何か白金さんの推しの語りが始まってしまった。

「出会いは入学式の時、桜舞い散る校門で彼女に出会ったわ♪その時、私に電流が走ったのよ♪あぁ、なんて私好みの女の子なんだろうってね♪私、人には話したこと無いんだけど、お人形遊びが昔から好きでね。昔から女の子の人形の髪をクシで撫でてたなぁ♪…ビックリしたんだけどね、愛情を持って人形と接してると、伸びるんだ髪が♪」

「えっ?」

いや、伸びないだろ。心の中でツッコむ俺。

「伸びないだろ?って顔してますね。私もそう思って毎日ものさしで測ってたんですけど、毎日2ミリ、多い時に1センチも伸びてたんです♪市松人形ちゃん♪」

「うぉおおおおおおお!!」

悲鳴を上げる俺。突然の怖い話だった。

「ともかくそんな人形好きな私が美鈴ちゃんと出会い、そしてこっそりと推し活を始めたの♪本当は大っぴらに仲良くしたいんだけど、私って何か異常に皆から人気になっちゃってるじゃない?」

あっ、自覚あったんだ。そりゃあるよね、ファン倶楽部同士でも派閥があって、クラスでも、いつも東西に分かれて良いところの言い合いしてるぐらいだもんなぁ。自分が居るクラスでそんなことやられたら嫌でも自分が人気者って分かるよな。

「全校生徒の幸せと、私の推し活を天秤に掛けた時にやっぱり全校生徒の幸せが優先されると思うのよ。別に推し活は隠れても出来るしね。」

割と自己犠牲の精神がある人なんだな。感心、感心。

「そう、だからいつも目立たない格好で美鈴ちゃんのことを付けてたの。」

ん?なんて言った今?

「私の家って学校から近いのよ。だから学校終わったら急いでジャージを取りに行って二人のこと付けてたの♪」

あっ、おかしい、おかしい。これ完全にストーキングじゃん。ダメ絶対。

「はぁ、はぁ、遠くから推しを眺めるのも…中々乙なもんよね…ぐへへ♪」

鼻息荒く、ぐへへ♪まで言ってしまったら完全なキャラ崩壊、ただの変態である。だがここで俺が【推し姫】を警察に突き出したら、それこそ全校生徒が悲しみに暮れて、そして【推し姫】を警察に突き出した俺のことを亡き者にしようとするだろうな。

よし、俺だって命は惜しい、警察には黙っておこう。

「そしたらね♪最近になって美鈴ちゃんは不良の竜也くんと仲良くなったじゃない♪私、カップリングの趣味は無かったんだけど、美鈴ちゃんが恋に落ちるところ見ちゃったら、二人の関係性がエモく感じちゃって〜♪もう二人が一緒に居るところ見るだけでも…きゃっ♪って感じなのよ♪」

恥ずかしそうに、嬉しそうに、白金さんはまるで恋する乙女である。正直可愛いと思うが、彼女のやってることが犯罪まがいなので、ときめいたら駄目だぞ俺。

「うふふふふふふふふ♪」

…笑ってるよ。どんだけ推しが好きなんだよこの人。

と、ようやく白金さんの言うことが無くなったので、ここで俺の質問コーナーに入っても良いかな?

「あの、少し質問良いですか?」

「うふふふふふふふふ♪どうぞ♪」

あっ、良かった。ちゃんと話聞いてくれてる。じゃあ遠慮なく。

「なんであんなに喧嘩強いんですか?あとあのお面は?」

俺のこの質問が気に入らなかったのか、露骨に嫌そうな顔をする白金さん。

何だ?美鈴関連の質問でも来ると思ったのか?

「ふぅ、白けるわぁ。まぁ、教えてあげるわ。私って護身用に格闘技全般を習ってるから、そこら辺のヤンキーが束になっても負けないぐらい強いの。そんで被ってたのは【ひょっとこのお面】で、お父様が宮崎出身で、前にこのお面貰ったの。以上終わり。」

淡白な口調で俺に説明してくれた白金さん。護身用の武術であれだけ悪ガキを叩きのめせるのは凄いな。

「ねぇ♪そんなことより♪そろそろ美鈴ちゃん帰ってきたんじゃないの♪」

「えっ、あぁ、どうでしょうね。」

竜也を追って行った美鈴。心配だからもう帰っていて欲しい。

白金さんが窓の方から、向かいの和菓子屋の二階を見つめる。俺は何も説明してないのに二階が美鈴の部屋と分かっている辺りが恐ろしい。

「あっ、ほらっ、帰ってきてるじゃない♪美鈴ちゃーーーーーん♪」

「ちょっと白金さん!?」

自分の立場も忘れて大きな声で美鈴を呼ぶ白金さん。

こうして俺は【推し姫】の正体を知ったわけだが、知らぬが仏って言葉の意味がようやく分かった気がするよ。






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