第1話 推し姫

俺こと佐伯 正が通っている高校は私立橘(たちばな)高校といい、偏差値も平均的、スポーツも平凡という、何処にでもある高校である。

・・・え?別に美鈴のことは引きずって無いよ。本当だって、別に大丈夫・・・大丈夫な筈である。時間がこの空虚感を埋めてくれるさ、あはは。

さて、話を元に戻そう。さっきも言った通り、橘高校は至って普通の高校なのだが、ウチのクラスにメチャクチャ美人の女の子がおり、その点だけに置いては他校からも一目置かれている。

彼女の名前は白金 姫子(しろがね ひめこ)。通称【推し姫】と呼ばれる女の子である。日本とロシア人のハーフで、白銀の髪、青く輝くサファイアの様な大きな目を持った目鼻立ち整った美人であり、スラッとしたスタイルの良さと胸も程良い膨らみを持つ、眉目秀麗、品行方正、才色兼備、彼女を称える言葉を探してしまえば調べ尽くすのに小一時間は掛かるともっぱらな噂である。

【推し姫】というのは、そんな完璧な彼女に付いたあだ名であり、老若男女誰しもが彼女のことを好きになり、推したくなるという点から来ている。名だたる男達はお近付きになろうと、両雄同士で牽制しあっていると、もっぱらな噂である。女子は女子で彼女に憧れ、少しでも彼女に近づこうと美容とダイエットに余念がないとか。もちろん先生や父兄の皆様からも評判も良く、非の打ち所がないパーフェクトな人物といえる。

実はそんな彼女と俺は同じクラスであり、同じ空間で勉学に励み、同じ空気を吸っているわけで、ちょっとした自慢でもある。

さて、説明も終わったことだし、【推し姫】を遠くから眺めることで、傷ついた俺を癒そう。彼女を遠くから見ているだけで、気分的には毎ターン30%程心が回復している気分になる。おそらく彼女は生まれついてのヒーラーなのだろう。はぁ、癒される。

「おい、どうした?正?今日はヤケに元気が無いじゃないか。」

今、話し掛けてきたのは、隣の席の田中であり、なんの面白味もない野球部の丸坊主の男である。俺とは仲は良いのだが下の名前は覚えていない。

「話しかけるな。今日だけはそっとしておいてくれ。」

「いや、それがそうにもいかなくてよ。さっき廊下で隣のクラスのお前の幼馴染から伝言を預かってよ。『今日は一緒に帰ろう』ってさ。なんだよ、もしかして付き合ってるのか?やけるぜ♪この♪」

田中はバンバンと俺の背中を叩いたが、俺は心底辛くなって溜息をついた。

美鈴が俺と帰りたい理由は分かっている。きっと昨日と同じで恋の悩みをしたいのだろう。

はぁー、【推し姫】可愛いなぁ。

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