第20話

 翌日、紗良が弁護士を通じて証拠の録音器を警察に提出してきた。桜井がそれを杉本と古川に聞かせても、二人は知らないと言い張ったが、杉本の声と録音器の声紋が一致したことを伝えて、杉本を自供に追い込んだ。それを古川に伝えると項垂れて罪を認めた。大西に金を貰って口裏を合わせたと二人は自供した、ただ手は出していないと強く主張した。二人は殺人未遂の幇助の罪に問われ、それを認めた。

 もう一つ、大西が持っていたキーホルダーについて二人に訊くと、杉本が覚えていて「大西が突き落とした後そいつのリュックにぶら下がっていたやつを、大西が気に入って外してリュックは海へ捨てた」と供述した。それも大西が故意に島田を突き落とした証拠とされた。

 そのキーホルダーを涼真がリュックにぶら下げている写真を紗良が持っていて、それが特注品であることは受注した業者が領収書や発注書を保存していたほか、紗良が言う様な仕様であることも記録されていたのだった。当初杉本が言ったようにリュックから何かを出そうとして誤って海に落ちたなら、キーホルダーも一緒のはずだし、事前に大西にやることはその作成経緯から考えられないと裁判所も認めたのだった。

杉本と古川には数か月後、懲役2年の実刑判決が出た。

 

 その後、足跡と体重の関係性について、実証実験を踏まえた結果が鑑識から桜井に報告された。

軽い方の足跡は、体重が45キロから55キロの範囲で、重たい方の足跡は体重が60キロから70キロと結論付けられた。つまり、軽い方は娘か妻の可能性があるとしても、重い方は島田涼真の体重は75キロあるので該当しないことになる。共犯者がいるとするなら可能性はあるが、妻や娘と殺人を行う様な信頼関係のある者は両親以外にはいない。しかし、島田の母親は病弱で運転免許を持っていないし、妻の両親が事件当時北海道に居たことは確認済みだった。桜井は足跡には別の理由を考えるしかないのかと思うようになった。今回は刑事の感は外れたか、と思い苦笑いし頭を掻いた。

 また、スーパーやコンビニなどで紗良が行きそうな場所の監視カメラを隈なくチェックしたが、涼真と一緒の姿はどこにも無かった。そもそも涼真の姿がどこにも写っていなかったのだ。桜井は島田夫婦による共犯説は影が薄らいだと思わざるを得なかった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る