第11話

「――――どうしてそんな事を言うの?」


 恩人であるダンゴだったとしてもその言葉を私は許容できなかった。

 悪意は無い、他意も無い。その言葉にはただ只管に私を心配する意図が込められている。

 だけど、それでも容認できない。恩人だからこそ受け入れる事ができない。

 勇者王は私にとっての憧れで、理想なのだから。


「…………ごめん。怒らせる気は無かった」


 ダンゴは私の怒気に対して静かに謝罪する。


「それは良い。だけど、理由を話して。納得できるか分からないけど」


 彼は無意味な事を言わない――――わけではない。

 軽い冗談や痩せ我慢だって言う。

 だけど、ただ相手を怒らせる事を言うような人じゃない。人間である以上、失言をしてしまう事もあるだろうが、それでもあんな事を言えるような人ではない筈だ。

 人を見る目が無い私だから、あまりその考えにも自信が持てないが。


「僕個人の考えを言えば、始まりの勇者よりその後の勇者達の方がずっと偉大だと思ったからだよ」


 私の質問に対してダンゴは至極真面目な顔をして答える。


「確かに、始まりの勇者は沢山の人を救ったのかもしれない。でも、魔族との戦いを終わらせる事が出来なかった。それどころか、彼の子孫に自分が果たせなかった宿命を背負わせている」

「それは…………」

「傲慢な意見だとは自分でも思うけどね。事実始まりの勇者は自分の代で解決出来なかった問題を子孫に引き継がせているのも事実だ。だから、僕は二代目以降の勇者の方がずっと凄いと思っている。ルーナも含めてね」


 それは本心からの言葉だった。

 確かにダンゴの言った言葉は事実ではある。

 勇者王は魔王を倒し世界を救ったけど、魔族を根絶する事は出来なかった。

 彼が果たせなかった役目を、使命を彼の末裔である押し付けてしまった。


「始まりの勇者もきっと、そう思ってる。自分の失敗を子孫に押し付けてしまった情けない奴だって」

「それは、違うよ」


 だけど、それだけじゃないんだ。

 ダンゴの言った通り事実ではあるのかもしれないが、それは酷く傲慢な意見だ。

 それを言うのなら、魔族の根絶を達成出来てない私達だって同じく失敗してきた者達なのだから。

 そもそも、それで勇者王の偉業が否定されるわけではない。


「誰も倒せなかった魔族を倒して、世界に平和を取り戻しただけでも勇者王は凄い人だ」

「でも――――」

「でもじゃない。何の関係も無い困ってる人を助けにやって来た勇者王は本当に凄い。それに魔族との戦いなんて彼一人に背負わせるようなものじゃないんだ」


 だからこそ仲間が居て、歴代の勇者達は皆と力を合わせて魔族と戦って来た。

 例外があるとするなら勇者王ただ一人。彼はたった一人で世界を救った。

 本当、私とは何もかも正反対だ。仲間が居た私は裏切られ未だ一人では立ち上がれないのに、仲間が居ないにも関わらず世界を救った勇者王。

 我が先祖ながら本当に凄い人だ。


「私は、勇者王の事を誇りに思っている」

「――――」


 私のその言葉にダンゴは固まった。

 そして、少し困ったように微笑みを浮かべた。


「そっか。勇者王も幸せ者だね。きみのような子孫が居るんだから」


 月光に照らされ、今にも泣きだしてしまいそうな顔をしているダンゴの顔がよく見える。


「でもさ、どうせなら始まりの勇者のようになるんじゃなくて、それを超えなくちゃ」

「勇者王を超える?」

「うん。きみならきっと出来ると思うし、何より始まりの勇者もそれを望んでいると思うから」


 そう言うとダンゴは小走りで駆け出し始めた。


「それじゃあ夜も更けてきたし早く帰ろうか!」

「あ、ちょっと!」


 勢いよく走り出したダンゴの後ろを追いかける。

 その道中、幼い頃に聞いたある話が脳裏に過った。


――――そう言えば勇者王の魔法特性は時間に関係するものだったっけ?


 勇者の末裔である私が時間の魔法特性を持つ人に救われた事に対し、奇妙な偶然を感じる。

 しかしその考えも走っていく内に脳裏から消え失せ、何時の間にか私の前を走るダンゴについていく事で精一杯になっていた。

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