嫌われ魔眼保持者の学園生活 ~掲示板で実況スネーク活動してたんだけど、リアルで身バレしそうwww~

ぺぱーみんと

第1話【身バレ】正体隠して魔眼使って遊びまくった末路【しそうwww】前編

窓からの日差しが心地いい。

このまま微睡んでいたい。

天国はここにあったんだ。

なんて、彼――ユートは些細な幸せに浸っていた。

教室の机に突っ伏して、幸せな天国を味わう。

でも、そんな天国は長くは続かなかった。


ペシ、と何かが頭に当たる。

あー、誰かが消しゴムでも飛ばしたかなーと、ユートは無視する。


ペシ、ペシペシペシっと、断続的に何かが当たる。

というか、叩かれている。

しかし、彼は無視する。


「お き な さ い!!」


焦れたのか、そんな少女の声が届いた。

そんな少女の声にユートは、こう返す。


「ん~、むにゃむにゃ、お母さんあと五分」


「だ れ が お母さんじゃコラァァァ!!」


ペシペシから、ゲシゲシに音が変わった。

そこでようやく、ユートが突っ伏していた顔を上げた。


「……痛い」


抗議も含めて、そう漏らす。

その視線の先には、呆れた顔の少女が立っていた。

銀髪金眼、少し勝ち気そうな雰囲気の少女だ。

名門校として名高い、王立魔法学園の制服に身を包み、その胸元には【フォリア】と書かれた名札がある。

苗字だ。

本名は、イーリス・シオン・フォリア。

名門貴族が一つ、フォリア公爵家の令嬢である。

歳は、ユートと同じ16歳。

その手には、今の今までユートを起こすために使っていたノートがあった。


「やっと起きた」


「……お母さん、僕まだ眠い」


呆れるイーリスに、ユートはそう言ってまた突っ伏そうとする。

しかし、イーリスはそれをさせない。


「だから、私はお母さんじゃなああい!!」


怒り狂うイーリスに、おずおずと声がかかる。

クラスメイトの女子たちだ。


「イーリス様、そんな奴構うことないですよ」


「そうですよ。

イーリス様が気にかける必要なんてないですよ」


「そうそう、そんな落ちこぼれ、退学も時間の問題なんですから」


それに混じって、


「そーそー、もっと言ってやれー」


と、貶されていた当人がクラスメイト達に加勢する。

すると、


「あんたは身の程弁えろ!!」


「つーか口を開くな!!穢らわしい!!」


「あんたがいるせいで、私たちはおろかイーリス様の評価まで下がるってわかってんの??」


と、クラスメイトの一人に何故か怒鳴りつけられてしまった。

名門貴族の子女であると同時に、才色兼備のイーリスと言葉を交わすなど以ての外だと言いたいのだろう。

それだけではなく、この王立魔法学園に通う生徒は基本貴族出身だ。

それと言うのも、魔力が発現するのは基本貴族だからである。

ユートのような、一般人の方が珍しいのだ。

ユートのクラスメイトも貴族ばかりだ。

そして彼らがユートに対して抱く感情は、階級の違いから来る差別意識だった。

ユートの成績の悪さもある。

彼は基本的にやる気がない。

いつドロップアウトしても不思議ではない。

それくらい、ユートの成績も、そして評価も最底辺だった。

イーリスが、彼女たちを諌めようと口を開く。

しかし、それよりも早く、


「うっし、昼寝したから、ここからは趣味の時間だ」


などと言って、ユートがゆるゆると鞄を手に立ち上がる。

すでに今日の授業は全て終わっているのだ。

つまり、放課後である。


「ちょっと!ユート!!」


イーリスの言葉を背中で流しつつ、ユートは教室を出ようとする。

しかし、彼が教室の扉へ触れるより先に、その扉が開いた。


「おっと、失礼」


現れたのは、金髪碧眼の少年だった。

背後で、まだ教室に残っていたクラスメイト達からざわめきが起こる。

先程まで、ユートに対して塩対応だった女子生徒に至っては黄色い悲鳴を上げている。


「どーも」


ユートは、眠そうな目で少年を見た。

そして、一応そう返すが少年の方はユートに欠片も興味が無かったようだ。

ユートを見ることなく、スタスタとイーリスの下へ歩いていく。

ざわざわと、クラスメイト達の言葉が耳に届く。


「ヴァスク家のご子息が、何故ここに?」


「そりゃ、イーリス様を生徒会に誘いに来たんだよ」


エディ・ロンフォールド・ヴァスク。

ヴァスク公爵家の嫡男だ。

こちらも眉目秀麗、そして成績もイーリスに負けず劣らずの少年である。

というか、この二人で学年の一、二位を争っている。

この前の中間テストでは、二人とも満点で学年一位だった。


「お似合いよねぇ」


などという声も聞こえてきた。

たしかに美男美女カップルだ。

組み合わせとしては、とても目の保養になるのだろう。

しかし、そういったことに興味が無いのでユートはさっさと教室を出た。


「イーリス様は、先日のドラゴン襲撃事件でも活躍された程の魔法の使い手ですし。

エディ様も、先のスタンピード事件での功績から英雄に名を連ねたとか」


なんて言う言葉も聞こえてきた。

ユートは、ふと思いついた。


「報告スレで報告したら盛り上がりそうだな」


基本、学園生活はやる気は出ないが、趣味は別だった。

ユートは、人気の無い空き教室までやってくると、携帯端末を取り出した。

そして、よく利用するウェブ掲示板を表示させた。


「さて、スレタイは……」


少し悩んで、やがて端末を操作する。



■■■



【身バレ】正体隠して魔眼使って遊びまくった末路【しそうwww】


1:魔眼保持者

やっべwww

身バレしそうwww


2:名無しの冒険者

おう、どうした??


3:名無しの冒険者

今だ!2ゲットォーーー!!

 ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄        (´´

     ∧∧    )      (´⌒(´

  ⊂(゜Д゜⊂⌒ ̄`つ≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡

       ̄ ̄ ̄  (´⌒(´⌒;;

      ズザーーーーーッ


4:名無しの冒険者

今だ!2ゲットォォォォ!!

 ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

     ∩ ∩

   ~| ∪ |         (´´

   ヘノ  ノ       (´⌒(´

  ((つ ノ⊃≡≡≡(´⌒;;;≡≡≡

   ̄ ̄ ̄(´⌒(´⌒;;



     ∧∧          (´;;

    (゜Д゜ ,)⌒ヽ    (´⌒(´

     U‐U^(,,⊃'~... (´⌒(´⌒;;



  ポ  ∧∧  ポ

  ン  (゜Д゜ ,) . ン

   (´;) U,U )~ (;;).

(´)~(⌒;;UU (´ )...~⌒(`)



5:名無しの冒険者

>>3 >>4

茶番乙


6:名無しの冒険者

あれ?

このコテハン……


7:名無しの冒険者

エリート校に飼われてるイッチか!!


8:名無しの冒険者

身分諸々場違い過ぎてクラスメイトどころか、学園の生徒全員から嫌われてるイッチじゃないか!!


9:名無しの冒険者

え、なに魔眼保持者ホルダーってバレそうな感じ??


10:魔眼保持者

>>9

いいや、そっちの方は大丈夫そう


11:名無しの冒険者

???


12:名無しの冒険者

じゃあ、何で身バレしそうなん??


13:魔眼保持者

ほら、スタンピードを安価して止めに行ったろ??

あれと

ほんの一週間くらい前に、ドラゴン倒したじゃん??

あれ


14:名無しの冒険者

え、その二件に関わったことがバレそうなん??


15:魔眼保持者

少なくともドラゴンの時に助けた子が、最近めっちゃ話しかけてくる

入学式からずっと存在認識してもらえてすらいなかったのに、だぞ??


16:底辺冒険者

うわぁ

ヤバいでござるな、魔眼保持者氏


17:名無しの冒険者

え、ってことはスネーク活動できなさそう??


18:魔眼保持者

>>17

まだわからん

でも、バレるとヤバい

魔眼保持者ってこともバレるってことだからさ


19:名無しの冒険者

だからあれ程、メガネを作れと言っておいただろ


20:名無しの冒険者

余裕ぶっこいてたからなぁ


21:名無しの冒険者

魔眼保持者は、世間的にも嫌われてるからなぁ


22:名無しの冒険者

しゃーないよ

暴走したら、国ひとつ潰せるんだもん


23:魔眼保持者

>>21

(*´・ω・。)σそれな!!


24:名無しの冒険者

スレ主は、なんだっけ?

実験用として飼われてるんだっけ??


25:魔眼保持者

(*^罒^)い (*^Д^)え(*^。 ^)す


26:魔眼保持者

戦争とか有事の際は、招集されて最前線行きよ~

まぁ、そうなっても実況するけど


27:名無しの冒険者

なにがお前をそうさせるんだ


28:名無しの冒険者

>>26

つーか、それって情報漏洩ェ


29:名無しの冒険者

まぁ、情報漏洩は今更だけどな


30:魔眼保持者

平気平気

俺みたいに飼われてるの、他にもいるらしいし

それに、ここじゃ学校名は伏せてるしさ


31:特定班

ふっ、俺がいるのにか??


32:魔眼保持者

>>31

でも、特定班はそのこと晒してないじゃん


33:特定班

リアルで、お前の顔知ってるやつもいるのにそれ言うかwww


34:魔眼保持者

wwwwww


35:魔眼保持者

あ、そうそう

スタンピードの時に結果的に手柄譲ることになったヤツが、いまさっき教室来てさ

んで、ドラゴンの時の子に用事があったみたいで

クラスメイト達の話から考えると、生徒会に誘いに来たっぽいんだけど

なんとなーく、ヤバいかなって思ったんだよ


36:名無しの冒険者

おやおや


37:名無しの冒険者

んー、でも直接その二人が、魔眼保持者に声を掛けてきたわけじゃないんだよね??


38:魔眼保持者

>>37

今のところは


39:名無しの冒険者

気にしすぎじゃね??



■■■



「うん、俺もそう思う」


流れていく書き込みに目を通しつつ、ユートは頷いた。

気にしすぎの可能性の方が高い。

でも、もしも魔眼保持者だとバレた時のことを考える。

ただの成績の悪い一般人として嫌われてる今より、もっと、そう、忌み嫌われることになるだろう。

ユートが魔眼保持者だと知って嫌わずに、それどころか面白がったのは、この掲示板の住民――スレ民くらいだ。

一般的に、魔眼保持者は殺戮を撒く化け物として認識されている。

つまり、人扱いされないのが普通なのだ。

彼を飼っている学園側も、余計な混乱を避けるためにユートが魔眼保持者であることは現状、秘密にしている。


■■■


44:名無しの冒険者

スネーク趣味、つーか実況趣味は学園側にバレそう??


45:魔眼保持者

たぶん大丈夫


46:特定班

いまのところバレてはいないな


47:名無しの冒険者

こんなアングラなところ、エリートな学園上層部の皆様は覗かないってwww


48:名無しの冒険者

ましてや、冒険者スレだもんな


49:名無しの冒険者

基本冒険者の情報交換とかパーティメンバー募集とか

あとあと、ダンジョンやクエスト実況に使われるくらいだもんな


50:名無しの冒険者

(*´・ω・)(・ω・`*)ナ-


51:特定班

まぁ、バレたらすぐに魔眼保持者に連絡するから

それは安心していいぞ


52:名無しの冒険者

でも、イッチは、しばらく大人しくしといた方良くね?


53:魔眼保持者

(´;ω;`)

ストレス発散にちょうどいいのに

_| ̄|○ il||li


54:名無しの冒険者

身バレ防止のためだ

我慢しろ


55:名無しの冒険者

んー、でも逆に、冒険者として活動したら?

それなら、実況は出来るでしょ


56:名無しの冒険者

>>55

ステータス確認する時に魔眼保持者バレする可能性


57:名無しの冒険者

あ、そっか(´・ω・`)


58:名無しの冒険者

やっぱり我慢か


■■■


「やっぱ、それしかないかぁ」


ユートはがっくりと肩を落とす。

特殊訓練施設を出て、この学園に入ってからというもの。

否、ずっとだ。

ずっとユートはストレスフルな生活を強いられてきた。

しかし、学園に入って、化け物のご機嫌取りなのか飼育費なのか、あるいは両方か。

ユートには定期的に、生活費という名の小遣いが入るようになった。

他の生徒が持っているから、魔眼保持者だと怪しまれないようにという理由でその金で手に入れたのが、この携帯端末だった。

今の時代、持っていない者を探す方が難しいくらいなのだ。

そうして手に入れた携帯端末を弄っていて、偶然見つけたのがこの匿名掲示板だった。

最初は読み物の延長として、眺めていた。

色んな掲示板があった。

色んな書き込みがあった。

そして、そこには、自分の本能の赴くままに行動するスレ民達がいた。

中でも、色んな場所に凸激する【スネーク】という存在に魅かれた。

そのスネークが実況するスレを巡回しているうちに、ユートにこんな考えが生まれた。


【あれ?これ、自分でもできんじゃね?】


試しに、ダンジョン実況をやってみたら好評だった。

どれくらい好評だったかというと。


【いいから戻れ!】

【帰ってさっさと寝ろ!!】

【冒険者でもないやつがダンジョン実況するな!!】

【おい!誰か助けに行ってやれ!!イッチ死ぬぞ!!】


こんな感じで大盛り上がりした程度には好評だった。


そして、ストレス発散になったのだ。

それが、始まりだった。

以来、趣味でありライフワークとなりつつあったスネーク活動(実況)である。

生き甲斐といっても過言ではないほど楽しんでいたのだ。

それを我慢する。


「……無理だな!」


答えはすぐに出た。

我慢なんて出来るわけがなかった。

だって楽しいのだ。

こんなこと我慢したら、それこそストレスで死んでしまう自信がある。



■■■


84:魔眼保持者

大丈夫!!

バレなきゃいいんだ、バレなきゃ!( •̀ω•́ )و


85:名無しの冒険者

現にバレそうになってんじゃねーか


86:底辺冒険者

それはもうフラグでござるよ、魔眼保持者氏www


■■■


「平気平気、バレなきゃいいんだよ」


ユートは書き込みと同じことを呟いた。

そして、気分転換のために安価を始める。

それは、次の趣味のための安価だ。

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