第2話 私についてと、皇子様の婚約者選び。

 


 パーティーで起こった婚約破棄騒動を、

僭越ながら、私視点で語らせて頂きますわ。

少し長くなりますが、お付き合いくださいませ。



 私、アメリーと申します。アメリー・ニモ・ワルデス。

 ワルデス公爵家の長女ですわ。



 ワルデス公爵家は代々、財務を取り扱う家門として、帝国をお支えしております。算術に優れ、不正を許せない性質を気に入られて、代々重宝されてきました。



 しかしながら、我が家門には野望がありました。[皇帝の縁者となり、政治を牛耳り、悪しきものを屠りたい]という野望です。



 些か野蛮ですが、我が公爵家は一族総出で、この野望を果たすべく、日々策略を凝らしておりました。



 私、アメリーもその策略の一端を担うべく、未来の皇妃として王太子へと嫁ぐことを目標とし、幼少の頃から未来の皇太子妃となる為の、英才教育を施されておりました。



 お父様からは、

「良いかアメリー。お前が第一皇子殿下の婚約者となれば、第一皇子殿下が立太子したらお前は皇太子妃に。皇太子が皇帝になればお前は皇妃様だぞ!どうだ凄いだろ!なりたいだろ!」


 何の返事もしておりませんが、更に父は続けます。


「皇妃様になったらすごいんだからな!綺麗なドレスを着て、美味しいものを食べられるんだぞ!どうだ凄いだろ」


「はい。お父様」


「そうかそうか!アメリーは良い子だなぁ!」


 このようなやり取りを、もう何度したのか思い出せません。


 私のお父様は、仕事は出来るし賢いのですが、とてもシンプルな思考で動いておりますの。



 お母様曰く「お父様はそんなところが、とってもチャーミング。」なのだそうです。






 さて、私の家族の話はこれくらいにして、


 第一皇子殿下の婚約者を決めるお茶会が開かれました。

 今後が決まる運命の日です。




 私は家門の期待を背負い、皇城へと向かいました。



 ただ、私個人としては、第一皇子殿下の婚約者となり、将来の皇妃となることは、断固拒否したいと心から思っておりました。



 理由としては、権力に興味もなく、社交的でもなく、人と会うことも、喋ることも好きではないためです。色々ありますが、何より面倒そうなので、やりたくなかったのです。



 もちろん貴族としての義務として、家格的にも避けられないのであれば、受けねばならない。と、覚悟はしておりました。



 しかし、やりたくもない皇妃の仕事(何十万人もの命を預る責任重大な仕事)をこなすためには、旦那様への無尽蔵の愛、もしくは常識を遥かに超えた責任感、あるいは権力への果てしない欲望。


 このような強い思いがなければ、務まらないと思うのです。



 会場へと到着すると、私を含め8人の令嬢がおりました。



 定刻となり、皇妃殿下と第一皇子殿下が入場され、皇妃様がご挨拶されました。



「皆さま。本日はお集まり頂き、ありがとう。可愛らしいご令嬢がたくさん来てくれて、とても嬉しく思います。今日は皆様、楽しんでくださると嬉しいわ」



 そして続いて第一皇子殿下が

「本日は来てくれてありがとう。皆と仲良くなれたら嬉しい。よろしく」

と、微笑みながら、ご挨拶されました。



 第一皇子殿下は金髪碧眼の煌びやかなお顔立ちで、

 これぞ皇子様と言ったようなルックスでした。



 その時、初めて見る皇子様に、私以外の皆様が、恋に落ちましたの。



 人は恋に落ちる時に音がするといいますが、その時は本当に、音が聞こえたような気がしたのです。




 そんな皆様を見て、私は心底、感嘆してしまいました。

 皆様、本当に素晴らしいわ。[目の前の困難に、正面から立ち向かおうとされているのだわ]と。


 

 確かに綺麗な顔の皇子様ではありますが、その奥に見え隠れする、国と苦労と義務を考えると、私には今すぐ逃げるべき化け物のように、見えてしまいました。




 その後、和やかにお茶会はスタート致しました。



 初めに。令嬢が自己紹介することになり、令嬢達の自己PR合戦が始まりました。



 皆様の淑女流自己PR合戦は、とても素晴らしく、近くで観戦できたのはとても幸運でした。



 中でも、群を抜いて素晴らしかったのは、フィルミーナ・デル・アックンヤークン公爵令嬢でした。



 アックンヤークン公爵家は、私の家門とは敵対派閥ですので、今まで一切の交流はありませんでした。

 敵対派閥とは基本的には会話をすることすら、良しとされていないためです。



 彼女は基礎的なマナーはもちろんのこと、話し方、話題のチョイスに相槌のタイミング、全てが完璧でした。



 そして自己PRに関しても、しっかりPRしつつも鼻につかない、程度を弁えた完璧な自己PRでした。


 

 家格も良く、容姿も端麗で、気配りができ、そして頭の回転が速く、性格も良さそう。同い年とは思えない御令嬢でした。



 そして、敵対派閥の私に対しても、非常に優しく柔らかい対応をしてくださいました。



 私には恐怖の対象である皇子様より、フィルミーナ令嬢の方が、遥かに魅力的に思えてしまいました。

 敵対派閥で無かったら、すぐにでもお友達になりたいと、心から思いました。



 皇妃様もフィルミーナ令嬢を、大層お気に召したご様子でした。



 因みに、第一皇子殿下は穏やかに笑ってはいるものの、まだまだ花より団子なのか、そもそもあまり興味がなさそうでした。



 お茶会では、他の令嬢もとても素敵でしたが、フィルミーナ令嬢に決まりそうでした。



 フィルミーナ令嬢が居られなかったら、家格的にも、私が筆頭候補者となっていたと思うと、フィルミーナ令嬢には感謝しかありませんでした。



 フィルミーナ令嬢は、事実上私を、この窮地から救ってくださったのです。

 そう考えた時から、ご令嬢のお姿がいっそ神々しく見えました。



 私はこの御恩を忘れずに、フィルミーナ令嬢を陰ながら応援しよう。と、この時、勝手に決意致しました。

 

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