ヘェッツ・ディートリヒが誕生してから八年の歳月が過ぎ去った。

 ヘェッツの肉体の大凡の改造は終わり、後は身長等を年齢と共に大きくしていくだけの段階へと移行していた。

 骨格はアダマンタイトとミスリルの合金クリーエクスメロメーノ合金製で、魔力伝導率が高く強度も高い。

 筋繊維や皮膚等はミスリルと有機物を融合させたミスリル繊維が用いられている。

 このクリーエクスメロメーノ合金とミスリル繊維には、微細な魔法刻印がびっしりと刻まれ、肉体の維持・再生を魔法的に行える様にされていた。

 そして、本来内臓が収まっている場所には、見かけは普通の内臓に見えるように欺瞞した、有機的ナノマシン機械群が収められ、体内で活動するナノマシンの製造とメンテナンスが行える様になっていた。

 さらに脳に関しては、見かけ上は普通の脳に見えるものの、実際には圧縮した魔力を使用した魔力脳となっており、その演算能力は普通の人と比べるのが馬鹿らしいものとなっていた。

 その他にも、人体が進化の過程で抱えてしまった身体的な欠陥…盲点の削除等が行われ、宇宙進出前の地球型人類種と比べると破格の性能を獲得していたのだった。

 そんなヘェッツであるが、今はヴェーテファン・ディートリヒ―ヘェッツの姉―と剣術の模擬試合を行っていた。


 凡そ木剣がぶつかり合うには甲高い音が響いている。

 それもそのはず、ヘェッツとヴェーテファンは魔剣士と呼ばれる職業の技能を治め、その才能が高く評価されている二人で、ディートリヒ男爵家現当主も幼い頃からその指導に熱が入ったものだった。

 その結果、ヘェッツ八歳、ヴェーテファン十一歳と言う若さにして、既に男爵家領内では最強と言われる程の力を有していたのだった。


 この世界の剣技は未熟だ。

 魔法による肉体強化や剣の強化により、圧倒的な機動力と強度に任せた斬り合いになりがちだからだ。

 詰まる処、細かい技術を磨くよりも生来の素質による魔力量の多さによる、強化の度合いにより勝敗が決してしまっているのだ。

 そんな事が当たり前の時代である為に、私は姉様との模擬試合では手加減をして大雑把な戦いを繰り広げる事にしている。

「くっ、流石ねヘェッツ。貴方の才能は私を超えるわ」

「いえいえ、姉様にはまだまだ勝てませんよ」

 才能のある姉に食らいつく弟を演出しながら剣を打ち合う私と、真剣な表情の姉様。

 そして、幾度かの剣を合わせた後に、私は剣を弾かれたと見せかけて手を離す。

「私の負けです。姉様」

「ふー、なんとか姉の面目躍如といった所かしら」

「いえいえ、私は所詮力に任せて剣を振り回しているだけですよ。姉様のような美しい剣技には程遠いです」

 こんな問答をしているとトットットッ、と可愛らしい足音が駆け足で近寄ってくる。

「お姉様、お兄様、お疲れ様です」

 と、天使の様な可愛らしい声を響かせながらタオルを渡してくれるのは、妹のシェーンであった。

 齢六歳の愛くるしい見た目をした我が妹は今日もプリティーである。

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