第5話 お荷物役

「まぁ、お前も悪いけどなあれは」


そう言って聡明は笑う。


「あのさ、体育倉庫行かね?」


俺は聡明を誘う、俺らがこの空間にいても皆の足を引っ張るだけだと思ったのだ。


「別にいいよ、なんも仕事無いし。」


俺らは、体育倉庫が時間を潰すのに快適な空間であるということは言わなくても分かっている。

だから疑問の一つも感じずにいいよと言える。


俺らは体育倉庫で、それとなくスマホをいじっていた。

すると十分くらい経った時、聡明のスマホに高嶋から電話がかかってきた。


聡明は、電話に出るなり設定を“スピーカー”にした。


「―こにいんの!!」


ビビった俺らはうぉっ、と情けない声を漏らす。

聡明は咄嗟とっさにこう言った。


「お前らが暑くて疲れたかと思ってわざわざ買い物行ってるんだけど!ほら、雑用なんだろ?俺ら」


怒ろうと思っていた高嶋は、バツが悪くなったのか、うんと威勢いせいが悪くなった。

その高嶋の後ろから、月形の声が聞こえた。


「ふぁんとむモンスター買ってきて!!」


「うっせぇうっせぇ、そんな金持ってねぇって」


“ふぁんとむモンスター”、通称ふぁんスターは、SNSのトレンド入りや流行語大賞候補にもなっている。


最近の中高生に絶大な人気を誇る紙パッケージに包装された高級アイスだ。


カフェラテのような色のお洒落な外装とは打って変わって、中に入っているのは本当にモンスターのようなアイスである。


紫の四角いアイスの下の方に、緑の凍った練乳チョコレートがどろどろとした形に沿ってまとわりついている。


紫の巨峰ぶどうはしっとりとした上品な口当たりで、緑の練乳チョコレートと不思議と綺麗に交わる。


見た目からは想像し難い、上品で甘やかな味わいのとりこになる若者が少なくないのも頷ける。



聡明は「うっせぇうっせぇ」と電話を切るなり


折半せっぱんな?」と笑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る