第11話 報告

 リリコちゃんがバックヤードに下がっている間に、私はというと慌ててメニューに目を落とした。

 気まずい空気になっちゃったから話題を変えるために、注文とか言ったけれど、何たのむか全然決めてないぃぃぃ!


 えーっと、一番安いホットコーヒーで320円か……

 カフェのコーヒー結構値段するんだよね。

 抹茶ラテ飲みたいけれど400円か、話しかけるきっかけとして手にしたクッキーが予想外の1枚180円。

 もう少しお金出したら古屋さんと行った中華屋さんでランチ食べれるじゃんとか思ってしまう。

 飲みたいな~ってときに使うコーヒー代と、今みたくそういうわけでもないけれどって時にお金使うのとは大違いだ。



「お待たせいたしました」

「えっと、抹茶ラテのスモールサイズ持ち帰りで」

「合計580円になります」

 リリコちゃんはお金を受け取ると。

 お客さんがレジに並んでないことを確認して話を切り出した。

「あのね、ここヨッシー先輩も働いているんだ。商品作ったら奥から出てくるからわかると思う」

「えっ、そうなの? すごい偶然だね。ヨッシー先輩とか懐かしい~」

 本当はヨッシー先輩が働いていることを知っていたけれど、私はあえて話を合わせて二人が働きだしたのは偶然かとちょっと踏み込んだ質問をした。

「……実は、さのさのにきた新しい店長のことでヨッシー先輩に相談してて。そしたら先輩が「よかったら時給もいいし『さのさの』より遠いけどやめてこない?」って誘ってくれたんだ。言えなくてごめん」

 後々ばれるよりはいいと思ったんだろうか。

 それとも自分だけヨッシー先輩に誘われてやめた罪悪感があったのかリリコちゃんはあっさりと私が知りたかったことを言って。

 目の前で軽く両手をあわせてごめんなさいのポーズをした。




「謝ることないよ。私から見てもリリコちゃん店長によく触られてない? ってちょっと思ってたし。ヨッシー先輩って面倒見がよかったから心配してくれたんだと思うよ。それに私も『さのさの』辞めちゃってるしね。ほんとやめたらホッとしたもん」

 リリコちゃんだけズルいよとか。

 リリコちゃんが辞めた後どれだけ人がやめたかとか。

 ズルいとか、モヤモヤする気持ちはあったけれど。

 私は本音としては納得できないことがあったけれど、グッと本当は言いたいことを飲み込んで表向きは大人の対応をとった。

 バイト辞めてたからこそ、モヤモヤしてるけれど。なんとか飲み込めたけれど。

 これ私バイト辞めてなかったら、やばかったわ。

 



 もしバイト辞めてないときに、リリコちゃんとヨッシー先輩がこのカフェで二人で働いているの知ったらショックは今の比ではなかっただろうし。

 好きだったヨッシー先輩がリリコちゃんに、辞めてこっちのバイト来たらとか言ってるの知ったら、もうもう私どうなるかわからなかったぞ。



 そんな私の内心などリリコちゃんはつゆ知らず。

 表向きの私の気にしないで、私も辞めちゃってるから~って反応に、かなりほっとしているようだった。

「もうできると思う、緑のランプの下でお待ちください。それで、これ割引券。よかったらまた飲みに来てね」

「ありがとう~」

 リリコちゃんから割引券をもらって、私は緑のランプの下まで移動した。



 奥から、手馴れた様子で注文票と一緒に抹茶フラッペを持ってヨッシー先輩が現れた。

「お久しぶりです~」

「ミ、クちゃん?」

 ちょっと今私の名前出るまで間があったような……と嫌なことに気が付く。

「もう、リリコちゃんに聞いてなかったら、すごく驚くところでしたよ。じゃぁ」

 リリコちゃんの時とは違い、もうヨッシー先輩と何を話していいかわからなくて、私は抹茶フラッペを受け取ると逃げるようにカフェを後にした。



 もう、店で座っていただけるメンタルはなかった。



 ヨッシー先輩相変わらず、かっこよかったなぁと思うと同時に。

 私のこと何とか名前を覚えてくれていたけれど。

 一緒に何度か遊んだりご飯も一緒に食べたことあるのにパッと名前出てこなかったんことがすべての答えだとわかって泣きそうになる。



 二人が同じ店に働くことになった経緯は解ったけれど。付き合っているかは流石に聞けなかった。

 聞く勇気どころか、私のこともう忘れかけてるヨッシー先輩の様子に打ちのめされた。

 でも、とりあえず両方に挨拶した。

 ヨッシー先輩との会話は短かった。というかこっちが一方通行でバーッと言っただけなんだけど。

 声はかけることはできたからTODOリストだったら一応消化したに該当するはず……と古屋さんに連絡をした。



『二人に挨拶とちょっと雑談したよ~。同僚の女の子とはそれなりに話せて、辞めたときの裏事情も知れたけど。肝心の好きな先輩とはあまり話せなくて、ほんと挨拶くらいで逃げ帰ってきちゃった』

 カフェの離れて商業施設内のベンチに座って抹茶フラッペを飲みながらそうSNSで連絡をした。



 とりあえず、アドバイス通り行動しているけれど。

 大学生活も特に今のところ変化は実感できてないし。

 ヨッシー先輩にいたっては、店員さんと話せる友達みたいな関係になれるとは全然思わないんだけど……だ。



 もっといい声掛けなかったの? とか考えてしまってため息がでる。



 古屋さんからは、その日の夕方『最初はそういうもの』とだけきて、なおさら本当に効果があるのだろうかと思った。


 とりあえず、大学で席空いている? って声掛けは、いつメンにいつもいろいろしてもらってるから、これくらいは私も貢献しなきゃで続けていた。

 ヨッシー先輩の働いているカフェは、リリコちゃんに割引券をもらったから、その期限が切れる前に、もう1度はとりあえず……がんばって行くことにした。



 そしてそろそろ流石にバイトしないと、カフェにしょっちゅう通うことはできないって現実と向きあわなきゃってことになってきた。



 カフェだから、アパレル店員さんに惚れた子に比べたらまだ出費はマシと言い聞かせて、スマホで求人情報を探し出した。

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