可愛い妹は俺にやわらかな部分を撫でられたくてウズウズしています。未祐side

「今夜、拓也お兄ちゃんと一緒の布団で眠りたい、そして昔みたいにお兄ちゃんの手を握らせて……」


 私、赤星未祐あかぼしみゆうは決心した、自分に正直になるんだ!! そう決めたはずなのに気持ちが揺れる。


 やっぱりこんなことを伝えたら拓也お兄ちゃんに嫌われちゃうかな。

 臆病な自分が顔を出した、このまま何も言わなければ仲の良い兄妹でいられる。

 もし告白して拒絶されたら? そう考えるだけで足がすくんでしまうんだ。

 このまま仲のいい兄妹の関係で、私の中にだけ秘めたままで歳を取ってしまうことだって出来るはず……。そう何度も考えたりもしたんだ。


 でも私は今の自分の気持ちにもう嘘はつきたくないよ!!


 足元のスカートが気持ちのゆらぎに合わせるように小刻みに揺れる。熱を帯びた指先でプリーツ状のすそを掴んだ。そして震える身体に精一杯の力を込める。弱い自分に言い聞かせるように。


 ……しっかりするんだ!! 私史上最高の勇気を振り絞って自らの想いを言葉にした。


「……み、未祐、お前」


「私は拓也お兄ちゃんのことがす、き……」


 私、いま告白をしている。初めて拓也お兄ちゃんと出会った日からこの胸にずっと秘めていた想い、真っ黒に日焼けしたやんちゃそうな男の子と兄妹になったあの日、名字が変わった私を勇気つけてくれた子供部屋でのやりとり、名前にまつわる話題で和ませてくれたよね……。


 お兄ちゃんと初めて自分の口にした日の胸の高鳴り。

 あの夏祭りの日、未祐に約束してくれた優しい笑顔が思い出される。


 お兄ちゃんに褒めてもらいたくて、お母さんに無理を言って新調してもらった可愛い金魚の柄模様の浴衣。


 鎮守ちんじゅ様をまつった神社に向かう長い路地、私が歩くたびに浴衣の中で赤い金魚も嬉しそうに泳ぎだす、一緒に食べたわたあめの甘さを今でも覚えている。


『……お兄ちゃんに見てもらいたくて、この浴衣を選んできたんだよ、どう? 未祐に似合うかな』


 思い切って打ち明けた神社の石段、 幼い私の頬はきっと浴衣の金魚よりも真っ赤に染まっていたに違いない……。


 浴衣姿の私を見て、お兄ちゃんはかなり照れながら言ってくれたよね。


『未祐、見違えたな!! そうやっておしとやかにしてればちょっとは女の子らしいぜ』


 お兄ちゃんの言葉を聞いて浮かれた私は、はしゃぎすぎて神社の階段で転んでしまったんだ。

 お気に入りの浴衣が泥だらけになって泣きべそをかく私に、黙って背中を差しだしてくれた。触れた身体の温かさ、自分の胸の高鳴りが背中越しに伝わらないか心配だったんだよ。


 そのままおんぶしてくれた帰り道でお兄ちゃんは約束してくれたよね。


『未祐、もう泣くなよ、お兄ちゃんがこれからも守ってやるから』


『本当!! 約束だよお兄ちゃん、痛いことだけじゃなく怖いことからも全部』


『ああ約束するから心配すんな、なんもかもだ!!』


 ……私は自分の気持ちを再確認した。やっぱりお兄ちゃんのことが大好きなんだ!! 胸の中にこみ上げてくるこの想い。このまま思いきって相手の胸に飛び込こもう……。


 顔を上げて真っ直ぐにお兄ちゃんの顔を見据える、そして……。


「ふぎゃあ!?」


 どかっ!!


「ええっ、な、何なのぉ、ムギ!?」


 お兄ちゃんに自分の気持ちを告白しかけた瞬間、ロフトベッドの上から愛猫のムギが突如、私の身体目がけてダイビングしてきた、デブ猫ちゃんのボディスラム攻撃だ。かわす間もなく直撃を食らってしまう……。


「お、重っ!? ムギ、駄目でしょ、まだおやつの時間じゃないよ!!」


 ムギのぷにぷにな身体を自分の両腕でしっかりと受け止めて、思わず後ろによろめいてしまった。


 こんなに大事な告白をしている最中に何でなの!? 思わず切ない気持ちになってしまう……。


「にゃあ、うにゃあ!!」


 無邪気に私の手の甲を舌でペロペロと舐め始めたムギ、その愛らしい顔を見ていたら私は何も言えなくなってしまった。


「もうっ、しょうがないな、ちょっと早いけどちゅーるをあげるから未祐の部屋に戻るよ!!」


 仕方がない、ここはひとます一時退却だ。


「み、未祐、お前、いま何を言いかけたんだ……!? また女子校の部活動の一環でアニメのアフレコの練習に俺を付き合わせるつもりなのか」


 お兄ちゃんの驚いた顔を見て気持ちが揺らぎそうになるが、ここで怯んじゃ駄目だ、勇気を振り絞って前に進まなきゃ!!


「このあいだ、お母さんの強制取り締まりから助けてあげたお返しに未祐のお願いを聞いて欲しいの」


「この間のお返しに俺と一緒の布団で眠りたいって!? どうしたんだ未祐、何かあったのか……」


「た、拓也お兄ちゃんにはNOという選択肢はないからね!!」


 つとめて明るく振る舞いながら、私はお兄ちゃんの部屋を後にした。


 未祐、ファイトだ!! もう一度自分自身にエールを送る。


 今夜はちょうど満月の日だ、月明かりに照らされたベッドで想いを告白をしよう。

 そして一緒の布団で眠るんだ、大好きなお兄ちゃんと手を繋ぎながら……。



 


 次回に続く。


 ☆☆☆お礼・お願い☆☆☆


 ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!!


 面白いと思っていただけましたら、


 レビューの星★★★でご評価頂けたら嬉しいです。


 つまらなければ星★1つで構いません。


 今後の励みや参考にしたいので何卒お願いしますm(__)m



 



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